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らせんのきおく  作者: よへち
祐樹編
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第038話 『港街・カンド』



インの街を出て3日目の月斜の昼前、一行は港街・カンドに到着した。


「さてユーキ。仕事の依頼はここまでです。先ずは報酬を受け取って下さい」


スタンそう言うと、カバンの中から黒板消しくらいの大きさの例の黒い石を取り出した。祐樹はそれにカードを翳す。すると表示されていた数字に報酬額が加算される。


「それで今後なんですが、貴方も海を渡るのですよね。だったら向こうの街『マイル』までご一緒しませんか?」


それは祐樹にとってもありがたい話だった。


「ええ、是非とも」


「でしたらまず宿を取りましょう。出船は月出か月陽だけですので」


そうなのだ。船で1日だと月斜の日に出ると月陰になってしまう。だから自ずと出船日はその2日だけになってしまう。


この街で借りていた馬車を返却しに行き、海に面した宿をとったスタン。

マキとミラとニースはお約束のお買い物だ。女性とはどれだけ買い物をすれば気が済むのだろうか。

そんな時に祐樹は静の言葉を思い出す。


『女はね、モノが欲しいんじゃないの。欲しいなって思うモノを探すのが楽しいのよ』


祐樹にしてみれば、欲しい物が見つかるとどうしても欲しくなる、だったら最初から知らなかったほうがいいのにと思うのだ。

静にそう言うと


『それはあなたが男で私が女だからよ』


と、よくわからない答えを返されたのだった。


そしてなんと驚いた事に、マールはルークと一緒に服を買いに出掛けて行った。

インの街で見たルークの街装が『今時の若者』風でカッコよかったのだ。

それはあのマキですら褒めていた。ニースも


「ルーク兄ちゃんカッコイイね!」


とベタ褒めだった。

そして残酷な事にニースはマールを見て


「マール兄ちゃん…いつも真っ黒だね」


と呟いたのだ。

これには流石のマールもダメージを受けたようで、インからカンドまでの間にルークと服のことで話をしているのを度々見かけたのだ。


その影響かどうかは不明だが、今日のエイの長着の柄もいつもとは違うようだ。


「まあ儂は服を買わずとも好きに変えられるからの」


笑うエイ。


「じゃあ俺も新しい服に買い替えようかな?」


と祐樹が言うと、とたんに少し焦った表情を見せる。

意地悪な祐樹はそれをわかって言ったのだ。


「ははは。冗談だよ。別にこの服に不満はないし、むしろこの服より着心地のいい服なんて無いような気がするよ」


と祐樹が言うと


「そうじゃろう」


とエイは嬉しそうに笑う。


「…もしかしてこの服、エイが作ったのか?」


「いや、儂ではないが、その服はユーキの為に特別に作られたものじゃ。こんな旅なんで大事にしてくれとは言えぬが愛着を持って着てほしいもんじゃな」


実際にあれだけ野山を駆け巡ったのに、ほつれや破れらしいものは見当たらない。

で、祐樹はある事に気付く。

スキル発動中の祐樹は、手刀で角材を砕くほどに力を持て余し、かつ神速で動いている。

普通の衣類を着てスキルを発動させると…


まさかの全裸!?


普通の布地なんて消し飛ぶかもしれない。

怖い。恐ろしい。今度誰も見ていない所でこっそり試しておこう。若い肉体を得た祐樹とて森の露出狂は御免被りたいのだ。


---


カンドの港。大きめの船が着くこともあってか石造りの立派な護岸に浮き桟橋の並ぶ、美しい港だった。

入港している船は全て帆船。汽船のようなものは見当たらない。という事は蒸気機関や内燃機関は存在しないのだろう。

そのおかげか海は澄み、水深はそこそこあるはずなのに海底がはっきり見える、美しい海だ。


貨物船や貨客船の着く商業港の隣に、なかなかワイルドな小型船の並ぶ漁港があった。

この世界の漁具にも興味のあった祐樹は少しのぞいて見る事にする。


もう昼ということもあり漁師の大半は帰ったようだ。何人か漁具の補修をしている漁師が残っている。


「こんにちは。今日はどうでした?」


そのうちの1人に話しかける祐樹。


「ん?ああ、まあ普通だよ。最近は潮の回りが良いせいか不漁ってのはないな。これも海人様のおかけだ」


「海人様?」


思わず聞き返してしまった祐樹。その存在がこの世界の常識だったらどうしようかと冷や汗をかいたが


「ん?あんたら旅人か。丘の者だな。俺たち海の者は海人様に恵みを分けて貰って生活してるんだよ」


そう言う彼の修繕している漁具に祐樹は目を移す。

巨大な網のようだ。大きすぎて全景はわからない。


「その網は…投げる網じゃなさそうですね?」


「はっはっは!コレ投げれたらそいつぁバケモンだな!こりゃ沖に設置して通り掛かった魚を誘導して一ヶ所に閉じ込める、そういう網だ」


それを聞いて祐樹はピンと来た。『定置網』だ。

だが汽船もない時代背景なのに定置網とは。


「昔、この街を通りがかった旅人が発案したって聞いてるぜ。だからこの街は、特に漁師は旅人を大歓迎するんだ。新しい知識を持ってたりするからな」


そう話を振られたら祐樹もアレを出すしかない。

バッグの中をあさり、例のスプーンと糸を取り出す。


「こんなの、見たことある?」


祐樹の取り出した釣り具をマジマジと眺める漁師。


「いや…ないが…これで魚が獲れるのか?」


大量に獲れるものでもないし、川の魚は獲れたが海では一度も試したことがない。そう漁師に伝えると


「じゃあ俺が船を出す。一緒に沖に出てみないか?」


「それは願ってもない事だけど…」


魅力的な提案だが…と祐樹はエイを振り返る。


「む、儂か?」


「お連れさん、すまないが漁師の決まりで船に女は乗せられないんだ」


やはり。という事は海人様とやらは女性だな。祐樹の元いた世界では割と各地に見られた話だ。


「なれば儂は適当に街を散策しておるぞ。この辺りじゃと祐樹にとって特に危険もあるまい」


エイはそう言うと、通りを挟んだカンドの市街へ消えていった。



「じゃあ行こうか。あんたの持つそれがこの街の漁業を一変させるかもしれないぜ」








ちなみに祐樹が普通の服を着てスキルを発動しても、全裸になったりする事はありません(笑)


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