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らせんのきおく  作者: よへち
祐樹編
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第037話 『堰を切って溢れる想い』



月陰明けの月出の日。街を出る日だ。

身支度を済ませ、宿の前に集合する一行。


「一昨日は悪かったわね」


祐樹はマキに開口一番で謝られてしまう。


「いや、俺の方こそ大人げなかった。申し訳もないよ」


朝から謝り合戦を繰り広げるマキと祐樹。


「ふふふ。ユーキも大人びているのにあんな風に怒ることもあるのですね」


スタンにも笑われてしまった。

ともあれ準備は整った。各々の馬車に乗って出発する。


「なあユーキ。院の連中に別れの挨拶しなくてよかったのかよ?あいつらユーキに感謝してたぜ」


「いいんじゃないか。俺はやれる事はやったし、あとは彼ら次第だよ」


「う〜ん、そうじゃねぇんだけどなぁ。ま、ユーキは案外そういうとこドライだもんな」


人の世はいつだって出会いと別れのくり返しだ。祐樹の中身ももうそれに心が麻痺してしまう年齢に達しているのだ。


「生きていればまた会う事もあるさ。その時に彼らが、この街がどうなってるのか楽しみだよ」


遠ざかるインの街を眺め、祐樹はそう呟いた。


---


インからカンドまでの道程は、ナワからインまでのそれとは違い、道も整備されており人の行き来も盛んで、さほど危険を感じるような雰囲気もなかった。


それでも4人も護衛が付いている商隊ということもあってか、他の商人達も安全にあやかろうと付かず離れずで付いてきており、一行はちょっとした旅団のような体をなしていた。


夜になる頃には周囲の商人達もなんとなく見知った顔となり、夕食を終えた祐樹達の焚き火の周りには誰からともなく酒を持参して集まってきた。


「やあこんばんは。一杯どうだい?」


祐樹に酒を勧めてきたのは若い商人だった。


「ありがとう。いただくよ」


祐樹がそう言うと彼はその酒を一口飲んでから祐樹に渡した。

それは毒や害のあるものが入っていない事を証明する仕草が儀礼的に残った、この世界の常識だ。と祐樹はエイに聞いていた。

だが彼はサラッと呑んでいたが、祐樹は口に入れた瞬間、鼻から抜けるような強烈な熱気に目を白黒させる。

ボトルを焚き火に透かして見てみると、中には見覚えのある双頭の蛇が。

あれだ…ナワの宿のアレだ。


「あ、ありがとう。相変わらず美味いね、コレ」


そう言ってボトルを返す。


「おっ?これを知ってるって事は兄さん方はナワから来たのか。だから強い護衛が5人も付いてるんだな」


5人?どうやらルークも護衛としてカウントされたようだ。

それを横で聞いていたルーク、嬉しかったのか思わずニンマリ。


取り留めのない世間話、と言っても祐樹にとっては知らない世界の知らない常識話だが、そんな話と酒で盛り上がり、気がつくと人数も膨れ上がり、焚き火を囲んでちょっとした宴会になっていた。


さすがにミラとニースは馬車で休んでいるが、マキもマールも、そしてルークも少々酔っ払っているようだ。

と、馬車へ走るマール。馬車の中をゴソゴソすると一本の弦楽器を持ってきた。シタールのような外観だが弦の数は少ない、ギターのような楽器。


「おっ、マールのアレが出たか。ユーキよ、マールのアレはなかなかのものじゃぞ」


エイは聞いたことがあるようだ。

そしてかき鳴らす。なんとなく物悲しい、しかし力強い和音と旋律。

するとエイはマキに


「マキよ。ぬし、踊れ。そして唄うのじゃ。先日ユーキに失礼を働いたじゃろ。ここらで詫びがてら披露してはどうじゃ?」


「え…もう、仕方がないわね」


エイに振られたマキ、てっきり拒絶するかと思いきや立ち上がると祐樹の前まで来て


「この前は本当にごめんなさい。貴方が家族想いだって良くわかったわ。だから…貴方の想いが想い人へ届くように唄うわね」


そう言うと、さっきまでアルコールでちょっと虚ろになりつつあったマキの瞳に光が宿り、背筋をピンと伸ばす。マキの目配せでマールの演奏が始まる。


そしてマキの口から出た旋律は…知っている。いや知っていた、というべきか。詩吟、か?

祐樹の実母が詩吟の師範をしていたのだ。自宅で練習会もしていた。その時に聞いたあの旋律にそっくりだ。


日本舞踊のような、少し腰を落としたマキの舞いも祐樹にノスタルジックな気分にさせた。

そしてマキは唄い上げる。



我等われらうたそら彼方かなた


はるながくもこうへ


うみえてにじわたって


きみとどよう



知らずのうちに涙が祐樹の頬を伝う。

この世界に来て絶望もした。死を願った。

だがまた会えるのだ。静に。結月に。

マキの唄ではないが、流れる雲のその向こう、海を越えた遥か彼方に、彼女らに会う方法を知る人物がいる。


この想いはいつか届くのだ。


その事実だけで世界がこんなに明るく見えるとは、それだけで唄がこんなに心に響くとは。



唄が終わり、姉弟が拍手喝采で迎えられてもなお、祐樹の涙はとどまる事を知らなかった。





マキの歌った歌の歌詞は『暁ノ糸』よりお借りしました。

ちょっと歌詞が本来持つ意味とは違った使い方をしましたが、そこは好きな歌だという事でご容赦下さい。

ご存知ない方はYouTube参照で宜しくお願いします。

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