スライムすら倒せない雷が、Sランクモンスターの脳を焼く
スライムの運動シグナルを「強制シャットダウン」させてから数分後。
清掃作業員たちと胸を撫で下ろしたのも束の間、ダンジョン全体を揺るがす凄まじい地鳴りが響き渡った。
ズズズズズズズッ……!!
「な、なんだ!? 地震か!?」
「いや……天井を見ろ! 結界が裂けているぞ!」
不気味な警報音が鳴り響き、赤く明滅するアラートランプが通路を照らす。
初級ダンジョンの空間が歪み、上層の危険エリアから何かが落ちてきたのだ。
――グオオオオオオオオオオッ!!
煙の中から現れたのは、全身を漆黒の甲殻で覆った巨大な異形――高難易度エリアにしか生息しない危険度Sランク指定の暴走モンスター『カイザー・シェル』だった。
「ひ、ひぃぃぃっ!? なんでこんな最下層にSランクのモンスターが!?」
「に、逃げろおぉぉっ!」
パニックに陥った作業員たちが我先にと非常出口へ押し寄せる。
だが、カイザー・シェルが巨大な巨腕を振るうと、出口の鉄扉が一瞬でひしゃげ、退路が完全に塞がれてしまった。
「ル、ルーン魔法砲を展開しろ! 撃てぇっ!」
警備にあたっていたCランクハンターの数名が、威力を極限まで高めた巨大な火炎球や雷撃を放つ。
ドガァンッ! と凄まじい爆発音が響き渡り、煙が上がった。
……だが。
「な……傷一つついていない……だと……!?」
カイザー・シェルの甲殻は、あらゆる物理・属性攻撃のエネルギーを分散・拡散させる絶大な「絶対耐性」を有していた。出力数千キロワットを誇る高威力魔法すら、ただの不発弾へと変えてしまう怪物。
巨腕が振り下ろされ、Cランクハンターたちが血を吐いて吹き飛ばされる。
残されたのは、腰を抜かした老作業員と、俺だけだった。
「グ……オオオッ!」
赤く光る巨眼が俺たちを捉え、丸太のような爪が振り下ろされる。
(間に合わない……避けるのは無理だ!)
俺は恐怖で縮み上がりそうになる足を踏み締め、左手で老作業員の服を掴んで後ろへ突き飛ばすと、右手を真っ直ぐモンスターの頭部へと突き出した。
(外側からの破壊が効かないなら……内側の伝達システム(シグナル)を直接叩く!)
バチッ。
指先から放たれたのは、相変わらず目視すら難しいほど小さな青い静電気。
だが、その超高周波パルスはカイザー・シェルの分厚い甲殻を完全に通過し、頭部の中枢神経へと直接ダイブした。
Plaintext
[Neural_Hack: Target_Kaiser_Shell]
Bypassing_Outer_Armor... SUCCESS.
Overriding_Brain_Signal: Overload_Motor_Cortex
Executing: High-Frequency_Pulse_Storm
「出力を上げる必要はない……脳から全身へ送られる『生命維持信号』を……ショート(過負荷)させろ!」
ピキィッ――!
一瞬前まで暴虐の限りを尽くしていた巨大な巨躯が、ピタリと停止した。
続いて、巨体の内側から『バチバチバチッ!』と激しい電子スパーク音が漏れ出す。
「グ……ガ……!?」
外側の分厚い甲殻は傷一つついていない。
だが、脳から出されるあらゆる命令シグナルをミリ秒単位で過負荷させられたカイザー・シェルは、白目を剥いて泡を吹き、巨大な山のような巨躯をズシンと床に折りたたんだ。
静まり返るダンジョン内。
「あ……あり得ない……。攻撃魔法が一切効かないSランクモンスターが……指先一発で……!?」
吹き飛ばされていたCランクハンターが、信じられないものを見る目で俺を凝視する。
俺は荒い息を吐きながら、自分の手元を見つめた。
(外側の威力で勝負する必要なんて最初から無かったんだ。……俺の雷は、どんなモンスターの『システム』すら一瞬で書き換える)




