1500円の依頼と、解明された「雷」の正体
(な、なんだこの画面……!?)
視界に浮かび上がる青いホログラムUI。俺は思わず目を擦ったが、その半透明なウィンドウは消えることなく俺の網膜に焼き付いていた。
Plaintext
[Signal_Analyzer: Active]
Target_Output: 0.02KW (Voltage: Low / Frequency: Hyper-High)
Feature: Neural_Signal_Control & Electric_Interception
Status: Ready
出力はわずか0.02キロワット。それは測定器が示した通りの「静電気」数値だった。
だが、その横に記された言葉――『周波数:極超高周波』『機能:神経信号制御・電気割り込み』。
(出力を大きくしてドカンと爆発させるタイプじゃなくて……『精密な信号を送り込む』ための雷……ってことか?)
訳が分からないまま、俺はとりあえず腹を括ることにした。
能力の真偽を確かめるにしても、妹の薬代と明日の食費を稼がなければ生活が破綻する。
俺はハンター協会の低層向け掲示板で、誰も見向きもしない最低額の仕事を選んだ。
『第7地下街・最下層ダンジョン清掃業務。報酬:時給1500円』
Fランクの落ちこぼれに許された数少ない「仕事」だ。
清掃用の作業着に身を包み、薄暗いダンジョン通路のゴミやモンスターの痕跡をモップで掃除していく。
周りには同じように生活に困窮したFランクの高齢者や、覚醒したての学生たちが黙々と作業していた。
「おい、新入り。余計な真似はするなよ。この辺りはたまに弱ったスライムが出るが、俺たちFランクの手には負えんからな」
作業員のおじさんが念を押す。
スライムは物理攻撃が効かず、火や雷などの属性攻撃でしか倒せない。そして出力10KW以上の攻撃魔法でなければ、その核を破壊することは不可能なのだ。
――キチキチキチ……。
「ひっ……!? 出たぞ、スライムだ!」
通路の奥から、緑色の不気味な粘液質モンスター――スライムが現れた。
作業員たちが悲鳴を上げて散り散りに逃げ惑う。
逃げ遅れた老作業員が転び、スライムが覆いかぶさろうと粘着質な触手を振り上げた。
「危険だ、離れろ!」
俺は咄嗟に駆け出し、老作業員とスライムの間に割り込んだ。
ポケットから手を出し、スライムの体表に向かって右手をかざす。
「頼む……動いてくれよ……!」
バチッ。
指先から弾けたのは、相変わらず情けない静電気のような小さな青い火花。
だが、その火花がスライムの体表に触れた瞬間――俺の脳内で青いシグナルが高速で回転した。
Plaintext
[Neural_Connect: Target_Slime]
Parsing_Signal... Completed.
Motor_Signal_Override: Change Value to [0x00] (Forced_Shutdown)
ピキン――!
「……え?」
覆いかぶさろうとしていたスライムが、空間でピタリと停止した。
それどころか、プルプルと震えていた緑色の粘液体が、まるで一滴の運動エネルギーも失ったかのように、液体状のベタベタしたただの「水たまり」となって床にへたり込んだのだ。
「核を破壊したわけじゃない……。スライムの全身を動かしている『生物電気シグナル』を書き換えて、運動機能を強制シャットダウン(停止)させた……!?」
スライムの核は無傷のまま。だが、中の生物シグナルが完全に書き換えられたスライムは、二度と起き上がる気配を見せない。
「す、すごい……! お兄ちゃん、一体何をしたんだ!?」
「スライムを一瞬で無力化するなんて……本当に出力0.02KWのFランクなのか!?」
助けたおじさんたちが目を丸くして感嘆声をあげる。
自分の手元を見つめる俺の心臓は、ドクドクと激しく高鳴っていた。
(俺の雷は……弱者(Fランク)の静電気なんかじゃない。生物や機械のシグナルを直接ハッキングして書き換える、未知の『超高周波パルス』だ!)




