↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【11/7完結予定】侍女アナベルと口紅の秘密~女好きの騎士に口説かれてますが、お嬢様の死の真相を追うのが最優先です~  作者: 青海きのこ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
8/35

第8話 コーディリアとの別れ

 検死が終わり、屋敷へと戻ったコーディリアの遺体を見た家族は、彼女の死が事実であることを受け止めざるを得なかった。慌ただしく、葬儀の準備を始まった。


「旦那様、この口紅を使っても宜しいですか?」


 コーディリアが夜会前に注文していた新しい口紅が、数日前に屋敷へ届いていた。

 眠るコーディリアに、最後に美しい化粧を施したかった。


「ああ。頼むよ、アナベル。娘を、美しく……旅立たせてほしい」


 伯爵は、肩を震わせながらそう告げた。夫人は、コーディリアの亡骸から離れられなかった。弟のクリスは、気丈にも折れそうな母を必死に支えていた。伯爵家の使用人たちは、そんな主人たちの姿に胸を痛めていた。


 検死を終え、コーディリアを見るのは、夜会の晩以来1週間ぶりだった。

 検死のためなのだろう。エメラルドグリーンのドレスが、切られていた。

 ドレスを見ていると、あの夜のコーディリアを思い出す。


「どのドレスがいいでしょう?」


 アナベルは、侍女長のナニーとコーディリアのクローゼットを見た。

 伯爵家のご令嬢とは思えないほどに、質素だった。

 あの夜会に着ていたドレスが、唯一の高級品だった。

 それ以外コーディリアが持っていたドレスは、どれもコーディリアが売り払っていた。

 おそらく、私たちの賃金に代えるために。

 アクセサリー類も、ほとんど残っていない。

 令嬢にとって、ドレスがどれほど大切なものか。

 アナベルは痛いほどに知っていた。


 よく着ていた綿のドレスを見ると、手が止まった。

 首元に施された可憐なフリルが、コーディリアによく似合っていた。

 ウエストのリボンは少し大きめで、アナベルが結んでいた。


「アナベルは本当に器用ね」


 ただのリボン結びを、コーディリアは褒めてくれていた。

 涙が目に浮かぶ。


「そのドレスにしようか?」


 ナニーはアナベルに優しく語り掛けた。アナベルは、こくんと小さく頷いた。

 コーディリアの身体には、傷跡があった。検死のためにつけられたのだろうか。

 生々しい傷跡に、アナベルは胸が痛んだ。

 冷たいコーディリアの身体に触れ、清拭をして、ドレスを着せた。

 ナニーに身体を抱えてもらい、アナベルはリボンを結んだ。


『アナベル、今日も綺麗にしてくれてありがとう』


 不思議と、コーディリアの声が聞こえてくる気がした。

 髪をセットして、コーディリアの身体を棺に納めると、コーディリアの顔に最後の化粧を施した。美しい緑の瞳をもう一度見たかった。

 最後に新しい口紅を差した。以前のピンクの口紅よりも発色がよく、コーディリアの肌を一層白く際立たせた。


(ああ。まるで生きているようだわ)


 髪を直し、ドレスと化粧を施したコーディリアは、穏やかな表情を浮かべていた。


 2日後。

 葬列を組んで教会へとコーディリアを運んだ。

 教会で司祭に祈りを捧げられると、コーディリアは土へと還った。


 意外なことに、コーディリアの葬儀にはセドリックとスペンサーが姿を現した。

 婚約者であったジュリアンは現れないのに、生前縁がなかった二人がコーディリアを一緒に見送ってくれた。


 セドリックは伯爵に挨拶をした後、アナベルの方へとわざわざ顔を見せた。

 小さく会釈をしたアナベルの背中に優しく触れると、スペンサーと共に葬儀を後にした。


 アナベルは複雑な思いで、二人の後ろ姿を見送った。


(来てくれるとは、思わなかった)




 コーディリアの葬儀が終わって、1週間は経った頃だった。


「アナベル、誤解しないでほしいんだ。私たちは、君のことを自分の娘のように思って来た。だからこそ、君の未来を考えているんだ」


 伯爵夫妻は、アナベルにそう告げた。


「旦那様や奥様のお気遣いはよく分かっております。でも……」

「アナベルは本当によく気の付く子だ。どこでもやっていける。それにもう年頃だろう? 侍女としてではなく、結婚相手を考えたっていいんだ」


 伯爵の言葉に、アナベルは驚いた。


「結婚!?」

「君はコーディリアと同い年だ。成人になるわけだから、おかしなことではないだろう」

「そうよ。アナベル。コーディリアが結婚したら、アナベルのお相手もと考えていたのよ。あなたは気立てもいいし、頭も良いし、情も深いし」


 伯爵夫妻は、アナベルにとって第二の両親と言ってもいい相手だ。


「そうだ。アナベル、侍女として他家で働くよりも、結婚の方が良いかもしれない。どういう相手がいいんだ? アナベルの願いなら、私たちだって」

「旦那様!」

「……アナベル、気乗りがしないのは分かっている。君とコーディリアのことは、私たちだってよく分かっている。しかし、コーディリアもいない。いつまでも、この家に若い君を縛り付けておくのは、私たちもつらい」

「はい……。でも、もう少し、ここに。お嬢様を殺めた犯人のことも」

「アナベル」


 伯爵は低い声でアナベルの名を呼んだ。


「それも、もうやめなさい」

「え?」

「君がコーディリアのことを調べているのは、王宮騎士からも聞いている。でも、そんなことはもうやめてくれ」

「でも」

「捜査は王宮騎士に任せておけば大丈夫だ」

「旦那様」

「私たちは、君に危険なことをしてほしくないんだ。ここにいたら、君はコーディリアを忘れられない」


(忘れたくないのに)


 アナベルは、心の中でそう叫んだ。

 コーディリアのことを、忘れたくない。

 今までのように、いつも傍にコーディリアのことを感じたい。

 それなのに。現実は残酷だ。


 埋葬から1週間以上が経っていた。段々と、この痛みに慣れていくことに気が付いた。

 生きていると、どんな苦しみにも、痛みにも、慣れてしまう。


 でも、だからこそ、コーディリアをこんな目に遭わせた人間を許せない。

 どうしても、犯人を見つけて……。


 見つけて、私は一体どうしたいのだろう。


 アナベルは自室で、化粧箱を開けた。

 コーディリアがお揃いで買ってくれた口紅を、自分の唇に塗った。


 どうしたいのか、分からない。

 けれど、自殺をしたなんて、やはりどうしても思えなかった。

 ほとんどドレスの残っていないクローゼット。

 空っぽのアクセサリーケース。

 お揃いの口紅。


 コーディリアは、アナベルたちのために様々なことをしてくれた。

 だから。

 コーディリアの死の真相を追うことは、アナベルに残された唯一の恩返しのような気がした。

お読みいただきありがとうございました!

「面白い」と思っていただけましたら、ぜひ「ブクマの追加」や「リアクション」、「感想」、下の☆☆☆☆☆を★★★★★に変えて応援いただけますと嬉しいです!

皆さんの応援で執筆のモチベーションがアップします!!!

どうぞよろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。