↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【11/7完結予定】侍女アナベルと口紅の秘密~女好きの騎士に口説かれてますが、お嬢様の死の真相を追うのが最優先です~  作者: 青海きのこ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
28/37

第28話 侍女アナベルの情報網

「せっかくの夜会ですもの。セドリック様と踊りたいわ」

「エイムズ伯爵令嬢、今日は……」


 エイムズ伯爵令嬢は、セドリックに甘えるように上目遣いで接近した。セドリックも強く断れないのか、笑みをたたえながら少し困っている様子を見せる。


(エイムズ伯爵令嬢は、私が見えないようだし。セドリック様もまんざらでもなく見えるのは、気のせいかしらね)


 目の前でイチャイチャし始めた二人を見て、アナベルの身体の熱が急激に冷めた。


「ブライトン卿」


 セドリックに、アナベルは呼びかけた。なるべく他人行儀にと意識したら、ひどく冷たい声が出た。その声音にセドリックは、驚いたように目を見開き、微かに口元が歪んだ。


(なんで私にはそんな顔……)


「私は広間に戻りますので、どうぞお二人でダンスをお楽しみください」


 アナベルは礼をすると、そそくさとバルコニーを出た。放っておかれたパートナーとしては及第点だろう。「二人で」というところに、少し力が籠ったことくらいは許してほしい。セドリックの指示なのか、従僕がアナベルを追いかけてきた。


「お嬢様、お飲み物をお持ちしましょうか」


 セドリックの従僕が気を遣って、声をかけてきた。


「ありがとうございます。セドリック様に頼まれたのかと思いますけど、私は今夜限りの仮初のパートナーですから、あまりお構いなく」


 八つ当たりだと思ったが、セドリックの従僕と親しくなろうとは思えなかった。彼はアナベルの扱いに困ったようだが、一定距離を保ってアナベルに着いて歩いた。馴染みの侍女の話を聞きたい。広間からそっと二人を見ると、セドリックは笑顔でエイムズ伯爵令嬢の手を取っていた。


(やっぱり……)


 見てはいけないと思うのに、目を逸らせなかった。

 アナベルは小さく息を吐き、表情を整えた。コーディリアに仕えていたのだから、顔で笑って心で泣くくらい、慣れているはずだった。


 ダンスフロアを無表情に見つめるアナベルに、従僕は「お嬢様……」と声をかけた。あまりに長い時間二人を見つめていたからだろう。


「私は、お嬢様ではないの」


 ダンスフロアには、本物のお嬢様たちがきらきらと輝いている。セドリックは、ああいうお嬢様たちと縁付く男性だ。


「アナベル、と呼んでほしいわ」

「しかし……」

「私は貴族の娘だけど、あなたと同じように働いてきた身。あなたに“お嬢様”と呼ばれるほどの人間ではありませんから」


 卑屈に見えないようになるべく軽やかに笑った。従僕はアナベルの言葉にそれ以上は何も言わなかった。セドリックが扉の付近に立つアナベルを見た気がした。


(こんなに離れているのに、視線を感じるなんて……)


「セドリック様、こちらをご覧になったわ」

「あら、私の方を見たのよ」


 セドリックの視線に一喜一憂する女性たちの声に、自嘲気味に笑った。


(目が合ったなんて思うのも……ただの自意識過剰なのかもしれない)


 アナベルはセドリックの視線から逃れるように、大広間をあとにした。




「アナベル!」


 馴染みの侍女が、アナベルの姿に嬉しそうな笑顔を見せた。控えの間には多くの侍女や従僕が、主人を待っていた。エイムズ伯爵令嬢の侍女も待機していたが、アナベルの姿を見ると部屋からそそくさと出て行った。すれ違いざまに見た彼女は、アナベルよりも少し小柄で、華奢で、くりっとした大きな瞳が愛らしかった。逃げるような様子も、小動物のような愛らしさも感じられた。


「驚いたわ。ブライトン卿のパートナーなんて、一体何があったの? まさかブライトン卿と婚約するなんて言わないでしょうね?」


 馴染みの侍女は、声を潜めてアナベルを揶揄って来た。


「エイミー、あなたがロマンス小説好きなのは知っているけれど、現実はそんなことは起こらないわ」

「相変わらずの現実主義者ね。だったらなんでブライトン卿と一緒なのよ。このドレスも、ブライトン卿と色を合わせていて素敵だったわよ」


 エイミーはなんとかしてロマンチックな展開に持って行きたいようだ。


「彼とパートナーになったのは、ちょっと事情があったの……。とにかく、今夜限りのパートナーなの」

「今夜限りのパートナー!? 新刊にありそうなタイトルじゃない。私、その小説が出たら読むわ」

「はいはい」


 エイミーは朗らかで、ロマンス小説が大好きな情報通だ。侍女仲間というより、アナベルにとっては友人に近い。


「エイミー、あなたを信頼して教えてほしいのだけど……」


 アナベルは真剣なトーンでエイミーを見た。先ほどまで浮かれていたエイミーも、パッと“優秀な侍女の顔”に切り替えた。アナベルはより一層声を潜めた。


「エイムズ伯爵令嬢の、新しい侍女のことを、知りたいの」


 エイミーはアナベルの表情を見つめた。いつもの冗談を返すことなく、その顔から笑みが消えた。

お読みいただきありがとうございました!

「面白い」と思っていただけましたら、ぜひ「ブクマの追加」や「リアクション」、「感想」、下の☆☆☆☆☆を★★★★★に変えて応援いただけますと嬉しいです!

皆さんの応援で執筆のモチベーションがアップします!!!

どうぞよろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。