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【11/7完結予定】侍女アナベルと口紅の秘密~女好きの騎士に口説かれてますが、お嬢様の死の真相を追うのが最優先です~  作者: 青海きのこ


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第17話 スペンサーの提案

「ど、どうして、セドリック様と私が!?」


 アナベルはスペンサーからの提案に動揺した。

 傍らに立つセドリックも驚いたようではあったが、その後はアナベルを見ているだけで何も発言しなかった。スペンサーは、人畜無害そうな柔和な見た目をしている。が、接してみると、セドリックよりも余程食えないタイプなのかもしれない。飄々とした様子で、とんでもない提案をしてくる。


「正直、俺たちはアナベルの侍女としての着眼点には一目置いているんだ」


 スペンサーが「な」とセドリックに視線を送ると、彼も静かに頷いた。


「いまの君は個人的感情でローズ嬢を犯人だと決めてかかるわけでも無さそうだ。その様子ならローズ嬢と接して何か気付くこともあるかもしれない。それに、君だって早く主人の毒殺犯を見つけたいわけだろう?」

「それは、そうですけど。私は公式の夜会に参加したこともありませんし」


 アナベルの社交界デビューは、ブラッドフォード伯爵家で開いた内輪の夜会だ。


「でも、コーディリア嬢の侍女をしていたんだ。一通りの教養を学んでいないわけないだろう」

「それは……」


 身に付けていないと言えば、ブラッドフォード伯爵家に失礼になる。


(でも、セドリック様と王宮の夜会に参加するなど……。平静でいられる自信がない)


「君が夜会に参加するのはいい案だと思うんだけどな」


(ローズ様に直接お会いしたい気持ちがないわけではないけれど)


「その……スペンサー様では、ダメなのですか?」

「……スペンサー?」


 セドリックの声が、いつもより低かった。


(しまった。……失礼な、言い方をしてしまった)


 アナベルは申し訳なさそうにセドリックをチラッと見た。

 セドリックの顔は、明らかに引きつっていた。


「どうして、スペンサーは良くて、俺はダメなんだ?」

「いえ、あの、その、そういうわけではなくて……」

「そういうわけではないなら、どういうわけなんだ」


 セドリックは口元に笑みを湛えているが、目が笑っていない。


「あの、だって、私がパートナーになんてなったら、この前のご令嬢にも申し訳ないですし」


 あの、“庭園の君”に何と言うつもりなのか。


「何を誤解しているのか知らないが、俺に特定の相手はいない」

「でも、『妻にしたい』って……」

「そんなことは言っていない!」

「でも、口づけを……」

「していない! ……真似ただけだ」

「真似?」


 口を尖らせるセドリックは、いつもよりも子どもっぽく見えた。


「――詳しいことは言えないが、彼女の機嫌を損ねないためにやっているだけだ」


 セドリックは、口を真一文字に結び、そう訴えた。


「そう……だったんですか」

「ああ。だから、そういう問題はない」

「そう、でしたか」


 アナベルは思わず下を向いた。あの令嬢が、セドリックの特別な女性ではないと知り、どこかホッとしている自分がいたからだ。もうセドリックのことは、気にしないと決めたはずなのに、自分の心は自分の思う通りには、ならなかった。


「それにね、アナベル。残念ながら、王宮の夜会の招待状は俺には届いていないんだ。セドリックは伯爵家出身だけど、俺は子爵家の出だから、毎回王宮の夜会の招待状は届かないんだよ」


 王宮の夜会は、基本的には有力貴族のみが招かれる。


「じゃあ、問題ないということでいいかな?」


 スペンサーが話をまとめにかかったところで、ふと現実的な問題が過った。


「いえ。でも、王宮の夜会となると、ドレスの準備が……」


 アナベルの給金で、王宮の夜会用のドレスなんて準備はできない。

 ブラッドフォード伯爵家にだって、コーディリアの夜会用のドレスはない。


「ドレスは俺が用意する」


 セドリックが、アナベルを見た。


「……え? なんでセドリック様が!?」

「君が用意するのは難しいだろう」

「で、でも、セドリック様にご用意いただく理由は」


(婚約者でもない男性からドレスを贈っていただくなんて、有り得ない。変な関係だと思われ兼ねないわ)


「フェザーストーン男爵令嬢として俺の同伴者になった方が、ローズ嬢と接する可能性が上がる。ドレスは必要経費だ」

「で、でも。やっぱり、セドリック様にご用意いただくわけには……!」

「じゃあ、ローズ嬢とどう接点を持つ?」


 ローズが参加するようなサロンに参加できるとは思えない。


「それは……」


 良い案は浮かばなかった。


「分かりました。でも、ドレスは自分でなんとかしますので」

「なんとかするってどうするんだ?」

「それは、その……。貸衣装屋で探します」

「貸衣装!?」


 セドリックには馴染みのない場所なのだろう。


「その、この前のコーヒーハウス前で着ていたものも、貸衣装屋でお借りしたものです」

「あんなドレスをまた借りるつもりか!?」


 セドリックの目がつり上がるのが分かった。


「他にもいろいろなドレスがありますので……」


 そうだ。貸衣装であれば、アナベルが溜めてきた給金でもなんとかなるはずだ。


「信用ならん」


 先日のコーヒーハウスでの衣裳のせいで、アナベルはセドリックから厳しい目を向けられていた。


「大丈夫ですから」

「じゃあ、セドリックも一緒に行ったらいいだろう」

「え?」


 スペンサーの新たな提案に、セドリックはあっさり同意した。


「じゃあ、次の休みに予定を合わせよう」

「え? セドリック様も行かれるんですか?」

「当然だ。君に任せたら、また胸元の開いたものを選びかねない」

お読みいただきありがとうございました!

本日は複数話投稿予定です。

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