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狙い 4

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 部屋に戻ると、エドワードに先にお風呂を使うように言って、ベアトリスはニコラスの手紙の解読に取り掛かった。暗号なので、少し読むのに時間がかかる。

 慎重に解読を終えると、ベアトリスは出来上がった文章を前に首を傾げた。


(ベッカム侯爵養女のアーヴリルの素性について探ってほしい?)


 ベッカム侯爵養女ということは、アーヴリルという女性がニコラスの婚約者候補として挙がっている令嬢だろう。

 兄の指示――解読した手紙はこうだった。


 

 可愛い妹ベアトリス。

 無事にヘンウッド国に到着したようで嬉しく思うよ。

 僕はいまだに身動きが取れない状況だ。

 そこで君に、僕の代わりに調査してほしいことがある。

 僕は今、窮地に立たされている。

 プリチェット公爵派閥のベッカム侯爵が養女アーヴリルを、婚約者として押し付けられそうなんだ。

 アンジェリカを焚きつけて妨害させてはいるが、このアーヴリルという令嬢はいまだかつて表舞台に挙がったことがなく、僕が寝込んでいるのを理由に登城もしないため、アンジェリカも攻めあぐねているようでね。

 アンジェリカはもともと頭のいい子ではないから、面と向かって攻撃する以外の手段を持たないのだろうね。目の前にいないとどうしようもないという感じだ。

 僕も側近を使ってアーヴリルとはどこの何者なのか探らせようとしているのだが、なかなか情報が集まらない。

 プリチェット公爵派閥の令嬢というだけでも厄介なのに、その上素性も知れないとなると、さすがに気味が悪くてね。

 僕の側近がつかんだ情報だと、幼少期はマクローリン辺境伯領の南西の小さな港町で暮らしていたということはわかった。

 すまないが、調査を頼む。

 補佐役としてヒュームを使わせるよ。

 昔から僕のそばにいる優秀な側近でね、ベアトリスも何度か顔を見たことはあるはずだ。

 では、よろしく頼むよ。



 ベアトリスはノートの一ページに書き記した解読文を何度も読み返しながら、うーんと唸った。

 ニコラスはこのアーヴリルという令嬢を警戒しているようだ。


(ヒュームは初対面だと思ったんだけど、会ったことあったかしら?)


 兄の側近の名前を全員把握しているわけではないし、ヒュームは中肉中背で、特徴のない顔立ちなので記憶に残っていなかったのかもしれない。

 兄の側近のうちの数名は諜報に長けている人間なので、ヒュームもそうなのだろう。

 解読した文章と睨めっこを続けていると、バスルームからエドワードが出てきた。

 タオルで濡れた髪をぬぐいながらベアトリスの座っているソファまで歩いてくる。


「難しい顔をしているが、ニコラス殿下の指示は厄介な内容だったのか?」

「面倒くさいことは確かだけど、厄介ってほどではないの。ただ、少しだけ引っかかるというか」


 ベアトリスは解読した文章をエドワードに見せる。

 読み終えたエドワードは小さく嘆息した。


「ニコラス王太子は本当に妹使いが荒い」

「仕方ないわ。お兄様は今、動けないんだもの」

「いったいいつまで面会謝絶で通すつもりなんだか。自分だけ安全な場所で守られたままというのは気に入らないな」

「でも今回ばかりは逆にそれがよかったわ。アーヴリルという女性との顔合わせを先延ばしにできるもの。まあ、顔合わせの日時が確定すれば、アーヴリルも城に来るでしょうから、アンジェリカを使って攻撃させることもできるんでしょうけど」

「派閥内の人間なのに、アンジェリカはアーヴリルに会ったことがないのか」

「それはわからないけれど、少なくともアンジェリカが近づけない場所に匿われているんじゃないかしら。プリチェット公爵は娘にこの縁談を邪魔されたくないのでしょう」

「なるほど。……まあ、ニコラス王太子が警戒する気持ちはよくわかるな。敵対派閥の令嬢というだけで十分警戒対象だが、それが養女となるとな。裏に何かあるのではないかと疑いたくなる」

「ええ。どうしてこのタイミングで、しかも養女なのか。わたしも気にはなるわ」

「ならばこの依頼を受けるのか?」

「受けないという選択肢はないわね」


 何もわからないよりも、わからない部分をある程度明確化しておいたほうが動きやすい。

 案外、アーヴリルという女性の素性に、こちらが切り込める隙があるかもしれない。


「わかった。では、この件は明日、ヒュームに相談すればいいだろう。湯が冷める前にお風呂に入っておいで」

「ええ」


 ベアトリスは暗号を解読した文章を書き記したノートの一ページを破ると、煌々と燃える暖炉の中に投げ入れた。


 紙はチリチリと端から黒く灰となって、やがて燃えつきた。





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