マリガン駅にて 4
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兄ニコラスの伝言を持ってきたという男の名は、ヒュームと名乗った。
ベアトリスが嫁いでヘンウッド城から出たあとは、ニコラスはやり取りにすべて手紙を用いていた。
そのため、人を使わせたという点に違和感はあるが、移動中のベアトリスに手紙を送るのは難しかろう。
だから、わざわざ人を使わせてベアトリスが到着するのを待ち伏せさせていたのかもしれない。
ベアトリスがモロニー・ロイヤル・エクスプレスを利用してヘンウッド国に向かうのは、兄ならば予測できたはずだ。
そして、モロニー・ロイヤル・エクスプレスが、このマリガン駅にて車両整備を行うことは、時刻表を調べればわかることである。
まあ、車内で殺人事件が起きてエルガー駅で四日の足止めを食らったのは想定外だっただろうが、それでもいつか到着するのだから、使いを待たせておけばいい。
ニコラスの側近は何人か知っているが、ヒュームは知らなかった。とはいえ、三年もたてば新たに加わる者もいるだろう。
エドワードはまだ警戒しているようだけど、ベアトリスは遅かれ早かれ兄が接触してくるのはわかっていた。
王都のヨーク駅に着いてからか、はたまた城に到着してからか、そのどちらかだろうと思っていたが、思いのほか早かったようだ。
「お兄様はなんて?」
「マクローリン辺境伯の領主館へ向かわれるようにとのことです」
「王都に向かわずに?」
「はい。少々調べていただきたいことがあるとのことで。詳しいことは、マクローリン辺境伯館へ連絡すると」
なるほど、いつもの暗号の手紙をマクローリン辺境伯の館に送るということだろうか。
兄は用心深い。使者とはいえ、内容のすべてを伝えているわけではないようだ。
「マクローリン辺境伯館へはどうやって向かえばいいのかしら? ギフトの町にあるのよね?」
マクローリン辺境伯は領内における最大の町、要塞都市ギフトに館を構えている。
ブルートンの町からギフトの町までは、鉄道は通っていない。
向かうのならば馬車になるが、辻馬車を拾っていくのだろうか、はたまた迎えの馬車が来ているのだろうか。
ヒュームは恭しく――恭しすぎるほど丁寧に頭を下げつつ答えた。
「町の東門に、辺境伯様の馬車が迎えに来ております。東門までは恐れ入りますが辻馬車を使っていただけますと幸いです。辺境伯様の紋の入った馬車は目立ちますので」
「それもそうね。わかったわ。汽車の下車の処理をして荷物をまとめたら東門に向かいます。それでいい?」
「はい。ありがとうございます。では、私は東門のところでお待ちしております」
ヒュームが入室してきた時と同様に慇懃に頭を下げて個室から出ていく。
彼がいなくなると、エドワードが眉を寄せて言った。
「彼をどう思う?」
「ヒューム自身のことはわからないけれど、お兄様らしい指示の出し方だとは思ったわ。マクローリン辺境伯は国王派で、ミューア公爵の遠縁にあたるし、信頼してもいい方よ」
「なるほど、滞在先としてはおかしくないわけだ」
「ええ。気になるのは、お兄様が調査してほしいと言っていることよね。王都に戻る前に調べてほしいなんて、何かあったのかもしれないわ」
ベアトリスが王都に到着した後では調べにくいことなのかもしれない。
父と兄は、今、どういう状況に置かれているのだろうか。
兄ニコラスは毒に侵されて余談ならない状態というのを演じているようだけど、演技なので側近たちに調査を指示することはできる。
調査に側近ではなくベアトリスを使おうとしたあたり、王都から人が出入りしては相手を警戒させるということだろうか。
(お兄様はプリチェット公爵について、何か怪しい情報でもつかんだのかしら?)
それは、ラドゥロフ帝国の前皇帝の妻子に関することかもしれない。
「ベンジャミンが戻ってくるのは三時半と言っていたわよね。そこから下車処理をするのは遅すぎるわね」
本当はベンジャミンにも相談したかったが仕方がない。
モロニー・ロイヤル・エクスプレスの荷物運搬人に荷物を運び出してもらうにしても、ベアトリスは部屋のクローゼットに収めた荷物をトランクに詰めなければならない。
「レストランの店員に伝言を残して汽車に向かおう。荷物をまとめたら、またこの部屋に戻ってきておけばいい。三時半までには終わるだろうし、終わらなければ伝言を聞いたベンジャミンが俺たちを探して汽車に来るだろう」
「そうね」
もたもたしていたら、汽車の出発時間が来てしまう。ベアトリスたちが下車に手間取っていたらそれだけ迷惑をかけるだろう。
ベアトリスはレストランの店員を呼ぶと、駅で下車処理をしてくると伝えてチップを握らせ、ベンジャミンが戻ってきたら伝言してほしいとお願いするとマリガン駅へ向かう。
一等車両の専属乗務員オーデンを捕まえて途中下車すると伝えると、コンパートメントで荷物をまとめた。
ベンジャミンの荷物はオーデンに頼もうかと悩んだが、彼の職業柄何を持っているのかわからないので他人に見られないほうがいいだろうと判断し、自分たちの荷物をまとめ終えたら二等車両に向かってベンジャミンの荷物を回収する。
荷物運搬人がレストランまで運んでくれると申し出てくれたのでお願いして、レストランの個室に戻った時、ちょうど、ベンジャミンが調査を終えて返ってきた。
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