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マリガン駅にて  2

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 汽車からプラットホームに降りると、刺すような寒さが襲い掛かってきた。

 首に巻いていたマフラーにぎゅっと口元を押し付ける。

 海が近いからだろうか、風が強い。

 プラットホームの中を吹き抜けていく風は、ほのかに潮の香りがした。


「出発は十六時の予定です。出発の五分前にはお戻りいただくようお願いしております」


 乗務員から注意事項を受け、ベアトリスたちはプラットホームの外に出る。

 駅の前は広場になっていて、たくさんの露店が並んでいた。

 芳しい魚介の香りが空気中に漂っている。

 貝を焼いている露店をついつい見つめていると、エドワードが笑った。


「さすがに王女が広場で買い食いしていたら驚かれるよ。レストランに向かおう」

「そうね」


 他国ならいざ知らず、国内であればベアトリスの顔を知るものもいるかもしれない。

 明日の新聞に「ベアトリス王女、広場で買い食い!」などという記事が出るのは困るので、ベアトリスは素直に駅の近くのレストランへ向かうことにした。

 また、毒物検査の問題もある。

 露店で買ったものをその場で毒物検査を行っていたら非常に目立つ。


 車内新聞に載っていた駅近くのレストランへ向かう。

 ベンジャミンが個室を手配するよう頼んでくれて、ベアトリスたちは建物の三階にある少し広めの個室へ案内された。

 十二時過ぎに昼食を食べた後なので、それほどたくさんは頼まない。

 名物らしい魚介スープと、それからシンプルな焼き物を少し頼んだ。

 焼いた魚や貝、エビと一緒に串切りのレモンが出てくる。魚介の上にレモンを絞って食べるのがおすすめらしい。


 料理が運ばれて、店員が個室から出ていくと、ベンジャミンが毒物検査をしてくれる。

 毒の反応はなかった。

 ベアトリスは安心してスプーンを持つと、まずはスープをいただくことにした。


「ヘンウッド国内なのに、城で暮らしていた時にはこのスープが出たことはなかったわ」

「宮廷料理とは違うからな。独特の臭みは若干残るが、これはなかなかいける」


 エドワードも気に入ったようだ。

 ベンジャミンはそんなベアトリスとエドワードにあきれ顔を向けた。


「いい食事ばかり食べている方には、逆にこういう料理のほうが美味しく感じられるのかもしれませんね。私としては汽車で提供されていた食事のほうが美味しく感じられますが」


 ベンジャミンによると、ここのレストランで提供されているスープも、広場の露店のスープも、たいして味は変わらないらしい。その日とれた魚介を大鍋で煮込んで塩とほんの少しのハーブで味を付けたシンプルなスープなのだそうだ。


「詳しいのね、ベン」

「仕事柄、あちこち回っていますからね。ヘンウッド国内も、南から北へといろいろ回りました。探し物をするには足をその地に行って情報を集める必要がありましたから。……最も、公爵の邸に潜り込んでからは、その頻度は少なくなりましたけどね」

「じゃあ、いろんなところを回ったのね。ヘンウッド国のことをどう思った?」

「王権の中枢ではきな臭い動きがあっても、国内全体を見れば平和ですよ。かつてのラドゥロフ帝国とは比べ物にならないほど、国民はのびのびと暮らしています。政治的な混乱はないのでしょうね」

「そう、そのあたりは三年前と変わっていないのね」


 プリチェット公爵は自身の派閥を拡大し、城内での権力を強化しているけれど、かといって政治的な混乱を起こすようなことはしていない。

 宰相としての彼は、国のために仕事をしているといえた。

 国のためのその仕事が、イコール王家のためではないが、それでも、国民たちの生活は平和に保たれている。

 だからこそ、父である国王に躊躇いが生じるのだ。

 プリチェット公爵に王権奪取の気配が見受けられても、彼とその派閥を一気に処罰すれば国内に混乱が生じる。


 現在、国家はきちんと運営できている。

 ならば、不用意な混乱を引き起こす処罰はすべきではない――少なくとも父王は、そのせいで静観の姿勢を貫くしかなかった。


 この辺りは、父と兄は考えを異にしている。

 兄はこのままプリチェット公爵に王権を奪取されるのは我慢ならないと、今回、決着を動くことに決めた。

 その上でさらにラドゥロフ帝国の前皇帝の妻子を、プリチェット公爵が匿っているという情報が出てきたのだ。こうなれば、ベアトリスとしても、国内に多少の混乱を招いたとしても、プリチェット公爵をこのままにはしておけない。情報を得たら、父王も同じ考えを示すだろう。


「食事を終えたら、王都にも出入りしている商人を捕まえて、王都の様子を聞いてみたいわね。大店なら、王都の店とも取引があるでしょう」

「それなら、モラン公爵夫人ではなく私が動いたほうがいいでしょう。王女が聞き込みして回っていたら目立ちますよ」

「それもそうだけど……」

「この個室は二時間抑えています。食事を終えたら私が聞き込みに行ってきますから、あなたたちはここでゆっくりしていてください」

「わかったわ」


 ベアトリスが頷くと、エドワードが残念そうに肩をすくめた。


「少し町を見て回りたかったが、仕方がないか。下手に目立って人が集まってきたら困るからな」






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