汽車旅の再開 3
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食堂車で朝食を取った後、ベアトリスとエドワードとベンジャミンの三人で、コンパートメントで今後について話し合いの席を設けた。
今後についての話し合いといっても、現状でできることは、戦力の確認くらいである。
プリチェット公爵のもとに、どれだけのラドゥロフ帝国の新皇帝一派がもぐりこんでいるのか、それを正しく把握しておきたい。
ベアトリスは三年もヘンウッド国を離れていたため、ヘンウッド国内において自分の駒はすでに一つも残っていないと判断していいだろう。
プリチェット公爵に気づかれないように派手に動くことを避けていたため、もともと味方は少なかったが、現在はその少ない味方すらあてにできない。
(ハンナも結婚したもの。彼女に助けを求めるわけにはいかないわ)
ハンナにはハンナの幸せがある。
ベアトリスはハンナを危険に巻き込むつもりはなかった。
ならば、今のベアトリスの味方は、プリチェット公爵のもとに潜入しているラドゥロフ帝国の新皇帝一派のみと考えていいだろう。
実際には、彼らを自由に動かす権利をベアトリスは持たないが、ベンジャミンを通して情報を共有してもらったり、こちらの意見を連絡してもらったりすることは可能だ。
「ええっと、プリチェット公爵の王都の邸や領地にもぐりこませている人間は、二十七人、でいいのね? 本当にそれだけの人間をもぐりこませているの?」
「ええ、間違いないですよ。プリチェット公爵の周囲にもぐりこませている人間以外にも、ヘンウッド国に滞在させている人間が四十人ほどいます」
ベアトリスは眩暈を覚えた。
それほど多くの人間が平然とヘンウッド国に潜入していることを、喜んでいいのか憂いていいのかわからない。
(今の状況ではありがたいことだけど……、他国の潜入員がそんなにいるのは、由々しき事態よね?)
どこの国にも諜報員がもぐりこんでいるとはいえ、少々多すぎる。警備体制を見直すべきだろうか。いや、その話はプリチェット公爵の問題が片付いた後でいい。
「ベンは彼らに連絡する手段を持っているのよね?」
「ええ、詳しくは教えられませんが、いくつかの手段があります」
「そう、だったらそのあたりは詳しく聞いたりしないわ。だけど、わたしとエドワードがあなたに連絡を取る手段については考えておくべきだと思うの。別行動をとった時のためにね」
ベンジャミンさえいればあちらと連絡を取れるのならば、ベアトリスが直接彼らに連絡を取る手段を持たなくても問題はあるまい。
「なるほど、それでしたら、今から言う住所を控えていただいてもいいですか?」
「ええ」
ベアトリスはベンジャミンの告げた住所をノートにメモをした。ヘンウッド国内の田舎町の住所だ。
「何かあればここに手紙を。暗号が使えるのならばよりありがたいですが」
「では暗号も決めておきましょう」
ベアトリスはベンジャミンとエドワードの三人で手紙を書く時の暗号を決めた。
万が一はぐれたときは、その手紙に自分たちの居場所を書いておけば、ベンジャミンのほうから訪ねるようにするという。
「それで、プリチェット公爵の邸や領地にもぐりこんでいる方たちは、前皇帝の妻子の居所を探しているのよね?」
「ええ。今のところ大きな手掛かりをつかむまでに至っていないようですが」
ベアトリスは少し考えこんだ。
プリチェット公爵は用心深く狡猾な人物だ。自分の近くに、自分の身を危険にさらすような人たちを置くだろうか。
かくまうにしても、万が一見つかった時にトカゲのしっぽ切りができるところに置くだろう。
プリチェット公爵の派閥で、彼が容易にしっぽ切りできる貴族はどこがあるだろうか。
領地持ちの貴族である可能性が高かろう。
そしてプリチェット公爵の派閥の貴族で、領地を持っている貴族は限られる。
危険を加味して王都から離れたところに置いておくなら直さら、絞り込むことは可能だった。
「ベッカム侯爵、クレイ伯爵、フーグラー伯爵、ギデンズ伯爵、このあたりの領地を調べてみたらどうかしら?」
「その名前はどこから?」
「プリチェット公爵の派閥の貴族のうち、地方に領地を持っている貴族よ。かくまうのならプリチェット公爵は自分から遠いところに置くでしょう。そして、何かあった時のしっぽ切りがしやすい貴族となると……有力なのはフーグラー伯爵とギデンズ伯爵ね。ベッカム侯爵は権力が大きいし、クレイ伯爵はプリチェット公爵の近しい親類だわ。近いところの貴族が摘発されると自分に火の粉が降りかかる」
「なるほど、素晴らしい情報です。仲間に連絡しておきます」
「ええ」
とはいえ、すぐに見つかるように匿っているとは思えないから、それでも手こずるかもしれない。
「今ここで話し合えるのはこのくらいかしら?」
「そうですね。私も、ヘンウッド城内の情報には疎いため、これと言ってあなたに提供できる話はありません。新しい情報が入ればご連絡しますが、汽車内でそれはないでしょう。ヘンウッド国に到着するまで、ゆっくりされてはどうですか?」
「ええ、そうさせてもらうわ」
今ここでできることはもうない。
ヘンウッド国に到着するまで、二日と少し。
部屋に閉じこもっていては余計なことばかり考えそうなので、ベアトリスはエドワードとともにバー車両へ向かうことにした。
この時間提供されているケーキでもいただいて、脳を休めよう。
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