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汽車旅の再開 1

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 翌日、ベアトリスたちは運行を再開するモロニー・ロイヤル・エクスプレスに乗り込んだ。

 ベンジャミンは使用人として申請し、二等車両の部屋に空きがあったため、その部屋を一つ抑えた。とはいえ、使用人ということになっているので、寝るとき以外はベアトリスたちの部屋ですごすことになる。

 ベアトリスはベンジャミンの変装に気づく人がいるのではないかと少しばかり冷や冷やしたが、だれにも疑われることはなかった。


 汽車内で起きた殺人事件については、「ベンジャミン」が犯人で処理されたというが、もともとベンジャミンは架空の戸籍を使っていたため、まったく足取りがつかめないまま終わるだろうとのことだった。

 ベンジャミン曰く、小細工してプリチェット公爵に疑いがかかるようにしてもよかったそうだが、あまり派手に動くとこちらの動きに勘づかれる。

そのため、今回はプリチェット公爵から見れば、暗殺者が暗殺失敗に際して処理をしたという風に見せかけるための処置だったそうだ。


 ついでに言えば、ベンジャミンは任務に失敗して自害したという形であちらに報告が行くように小細工したという。そのため、プリチェット公爵側ではベンジャミンはこの世にいないことになっているだろうとのことで、これで動きがとりやすくなったとも言っていた。

 生きていると知られたらまた新たな指示が飛んでくる可能性があり、たびたび任務を失敗していたらそこから疑われるので、死んだと思わせておいたほうがいいらしい。


 殺人事件が起きたので、一等車両の五号車は、控えの車両と交換されたそうだ。

 部屋の構造に大きな変化はないが、内装の色が若干違う。

 運行を再開のためスケジュールは多少変わり、ここからヘンウッド国の王都にある駅まで四日の行程である。


「念のため不審者が同乗していないか確認してきます。それから、一等車両の乗務員(スチュワード)のオーデンですが、彼のことは知っています。プリチェット公爵の手のものではないので安心していいでしょう。とはいえ、キッチン担当の確認がまだのため、頼んだお茶やお菓子については、安心できるまで毒物チェックをお願いします」


 ベンジャミンはそう言い残し、そそくさと部屋の外に出て行った。

 ベンジャミンが安全を確認し終えるまでは部屋から出ないほうがいいだろう。

 ベアトリスはトランクの荷物をクローゼットに片づける作業に移り、エドワードは乗務員のオーデンにお茶とお菓子を頼んだ後、ベンジャミンの指示通り、薬液で毒物チェックを行った。

 最後に銀のティースプーンで重ねて毒物チェックを行い、安全を確認するとベアトリスを呼ぶ。


「ベアトリス、冷める前にお茶にしよう。汽車が出発するまであと三十分あるし、もうすぐ二時半になる。ティータイムにはいい時間だ。アップルパイは焼き立てのほうが美味しいよ」


 お茶と一緒に運ばれてきたのは、まだ暖かいアップルパイだった。

 確かに、焼き立てのアップルパイはパイ生地がサクサクしていて格別である。


「ベンを待たずに休憩していていいのかしら?」

「彼は使用人だ」

「……まあ、そうなんだけど」


 使用人という体ではあるが、実際の使用人ではないので気が引ける。


「それに、ベンは意外と図々しいから、欲しければ勝手に俺たちの名前を出してお茶なりお菓子なりを注文するだろう。朝起きたらベンがここに座っていて優雅にお茶を飲んでいる、なんてこともありそうだ」

「さすがにそれはないんじゃないかしら?」


 寝ているときに入り込まれるのは恥ずかしい。エドワードはベアトリスを腕に抱きこんで眠るので、万が一見られでもしたら冷やかされそうだ。

 ベアトリスは二人掛けのテーブルに移動して、エドワードが毒見してくれた紅茶とアップルパイをいただくことにした。

 ティータイムを過ごしている途中で、甲高い汽笛の音が鳴り響く。

 汽車が緩やかに走り出し、ティータイムを終えたベアトリスとエドワードは片づけを再開した。

 片づけが終わったころになって、ベンジャミンが戻ってくる。


「今のところ、不審な人物は見当たりませんでした。……いい匂いがしますね」


 目ざとく、いや、鼻ざとく、コンパートメントの中に立ち込めるアップルパイの香りに気づいたベンジャミンが、流れるような動作で扉のところのベルを鳴らした。

 ややして乗務員のオーデンがやってくる。

 ベンジャミンはにこやかに言った。


「奥様に、紅茶とアップルパイのお代わりをお願いいたします」


(……わたしが食いしん坊みたいに思われるじゃないの)


 ベアトリスはあきれたが、自分たちだけティータイムを過ごした負い目があるため何も言わない。

 エドワードが言った通り、彼は欲しければ勝手に頼むようなので、今後も気にしなくていいのかもしれなかった。


 紅茶とアップルパイが運ばれてくると、我が物顔でテーブルについてティータイムを過ごしはじめたベンジャミンに、ベアトリスとエドワードは顔を見合わせて肩をすくめた。




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