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後始末とこれから 4

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 ベアトリスとエドワードは、マイケル医師に連れられて、後方の救援部隊が乗って来た汽車の倉庫へ向かった。

 アンソニア・エアトンの遺体はマイケルによる検死が終わった後、遺体の腐敗を防ぐために暖房の影響のない倉庫へ運ばれ、丁重に安置されていたと言う。


「ドクター、遺体が消えたって、どういうことなんですか?」


 速足で倉庫へ向かいながら、ベアトリスはマイケルに訊ねた。


「わかりません。アンソニア・エアトンの遺体を倉庫に安置したのは昨日の夕方のことでした。トンネルの落石の撤去が終わり、明日の運転再開を待って、後方のこちらの汽車もモロニー・ロイヤル・エクスプレスの後を追うようにしてダインリル国のエルガー駅に向けて出発する予定だったのです。その後、遺体はエルガー駅で国際警察に引き渡す手はずでした」


 マイケルはあくまでもモロニー・ロイヤル・エクスプレスに雇われている医師であり、その仕事は乗客の体調不良時に診察を行うことだ。検死ではない。

 今回はほかに医者がいないのでお願いしたが、これは彼の本来の仕事ではなく、エルガー駅につけば国際警察と検死担当の医者に情報が引き継がれ、相応の確認がされる予定だった。


「それより、モラン公爵、夫人、ベンジャミンを知りませんか? 遺体について彼に相談しようと思ったのに、今朝から姿が見えないのです」

「わたしたちも、ベンジャミンは朝から見ていません」

「一等車両に待機している乗務員も彼ではなかったな」

「そうですか……。いえ、その、モラン公爵夫人から調べてほしいと頼まれていた、アンソニア・エアトンの持ち物があったでしょう? 懸念されていた通り、毒物が検出されたのです。何もないとは思いたいですが、ベンジャミンに何かあったのではないかと……」


 なるほど、ベンジャミンの正体を知らなければそのような心配も生まれるだろう。

 ベアトリスはむしろ、アンソニア・エアトンの遺体をベンジャミンが移動させたのだろうと考えていたが、事情を知らなければそのような解釈に至らなくても当然だ。


(ベンジャミンがアンソニアの遺体を動かしたのなら、きっと彼の言う後始末のためなんでしょうけど……)


 どうするつもりなのだろうか。

 倉庫に到着すると、マイケルが「こちらです」とアンソニアの遺体を安置していた場所まで案内してくれる。

 アンソニアの遺体はシーツでくるんで、倉庫の端に置いた簡易ベッドの上に寝かされていたそうだ。

 乗務員は承知しているが、乗客たちにはまだアンソニアの件を報せていない。

 一時停止した汽車の中で遺体が、それも殺害された可能性のある遺体が発見されたとなればパニックは必至である。

 そのため、エルガー駅に到着してから事情を説明し、その後、警察の事情聴取に協力してもらうという流れにしたらしい。


「遺体のほかになくなっているものはありましたか?」

「私が預かっていた薬瓶など以外の彼女の持ち物がすべて」


 アンソニアが持っていたものは、ベアトリスも一部を預かっている。

 つまりそれらを除く――例えばドレスなどの荷物一式が消えているらしい。


「手の空いている従業員に探してもらっていますが、どうも車内にそれらしい遺体も荷物もないようなのです」

「そうですか……」


(ベンジャミンはいったいどこに運び出したのかしら?)


 前方はトンネル。

 後方には線路が続いており、少し先に向かった先には谷がある。谷の間を通すように線路が敷かれているのだ。


(まさか……)


 もし、遺体を「処分」するのならば、もっともうってつけなのはその谷底だろう。

 けれど、谷底に落とすだけではあまり意味がない気がする。国際警察が捜索を開始すれば、いずれ発見されるだろう。

 と、そのときだった。


「大変です!」


 乗務員の一人が、血相を変えて倉庫内に駆け込んできた。

 彼の手には一通の手紙らしきものが握られている。

 エドワードが手紙を受け取ると、乗務員はへなへなとその場に腰を抜かしたようにへたり込む。

 エドワードが開いた手紙を横から覗き込んだベアトリスは、大きく目を見開いた。

 手紙は、ベンジャミンの手によるものだ。


(……後始末。なるほどね)


 ベアトリスが納得していると、別の乗務員が泣きそうな顔で倉庫に駆け込んでくる。


「ドクター! 大変だ! 後方の谷底で火の手が上がった! ああ、お客様! お客様は念のためお部屋にお戻りください! こちらまで火が回ってくることはないはずですが、念のために!」


 乗務員とドクターが青ざめる中、ベアトリスはエドワードと共に顔を見合わせて小さくため息をつく。

 乗務員から受け取った手紙を彼に返し、エドワードとベアトリスはコンパートメントに戻った。

 谷底で火の手が上がったと言うが、あたりは雪に覆われているし、谷の下には川も流れている。ここまで火が回ることはないだろうし、そもそもそのようなへまをベ(・)ン(・)ジ(・)ャ(・)ミ(・)ン(・)が(・)するとは思えない。


 そう、アンソニアの遺体と荷物の消失と谷底で上がった火の手はすべてベンジャミンによるものだ。

 先ほど読んだ手紙には、アンソニア・エアトンは偽名で、彼女が乗客から金目のものを盗もうと企んでいたこと。ベ(・)ン(・)ジ(・)ャ(・)ミ(・)ン(・)は(・)彼(・)女(・)に(・)協(・)力(・)し(・)て(・)い(・)た(・)(ことが書かれており、すべてが露見する前に証拠を隠滅するために遺体と荷物を処分するとあった。


 谷の底で燃えているのは、彼女の遺体と荷物だろう。

 遺体を燃やしてしまえばアンソニアが何者であったのかを調べるのは不可能になる。

 アンソニアとラドゥロフ帝国の繋がりはこれで露見しない。

 そしてベンジャミン自身も、世間的に抹殺したことになる。


「ベアトリス、見てみろ」


 昨日の今日で手際のいいことだと感心していると、エドワードが封の切られていない手紙を持って来た。


「そこのテーブルの上に置いてあった。いったいいつ忍び込んだんだか……」


 封を開けると、案の定、差出人はベンジャミンである。

 中には短く、こう書いてあった。



 ――エルガー駅で落ち合いましょう。



 ベアトリスとエドワードは顔を見合わせ、肩をすくめた。






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