後始末とこれから 3
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懐かしい夢を見て目を覚ました翌朝。
エドワードと食堂車で朝食を取ったのち、ベアトリスは図書・娯楽車両に足を向けて本を一冊借りた。
落石撤去作業のため、今日も汽車は停車している。
アンソニア・エアトンの問題が片付いたため、今日は一日ゆっくりと過ごすつもりだった。
ベッドに腰かけ、背後からエドワードに抱きしめられるような体勢で本を開く。
首元をくすぐったり髪の毛を指に巻き付けたりと、時折エドワードが読書の邪魔をしてくるが、こうした穏やかな時間はベアトリスの心を癒してくれる。
「エドワードも本を借りてくればよかったのに」
「本を読むより君を構っている方がいい」
「……あなたがちょっかいをかけてくるから、さっきから三ページしか読書が進んでないわ」
もう、と口をとがらせると、エドワードが笑いながら頬にキスをくれた。
仕方なく本の間に栞を挟み、背後を振り返る。
「そう言えば、今朝はベンジャミンを見かけてないわね」
「例の後始末中なんだろう。一等車両の乗務員も、今日は別の人間が椅子に座っていたからな」
「いったいどうやって後始末をつけるつもりかしら?」
「さあ? 自分で何とかすると言ったんだから、何とかするだろう」
エドワードはベンジャミンにあまり興味がないようだった。
「そんなことより、君は、俺の前から勝手にいなくなったことへの埋め合わせがまだだってことを覚えているか?」
ベアトリスはぎくりと肩を強張らせた。
エドワードがにやりと笑い、ベアトリスの手から本を奪い取る。
あっと思ったときにはころんとベッドの上に転がされており、エドワードがのしかかって来た。
ベッドの上に広がったベアトリスの金髪を撫でながら、エドワードがどこか獰猛に目を光らせる。
「問題はひとまず片付いた。君の体調もよさそうだ。だったらここからは埋め合わせの時間だろう?違う?」
「え、ええっと……」
ベアトリスとしては、もちろん、彼に黙って出て行ったことについてはもちろん反省している。
エドワードを巻き込みたくなくて泣く泣く決断したことでも、彼にとっては非常に腹立たしく感じたことだろう。
だからもちろん反省しているし、後ろめたい気持ちもあるのだが、かといって朝っぱらから、しかも寝台列車の中で迫られると言うのは困るわけだ。
うぅ、と呻き、ベアトリスはちょんっとエドワードの袖を引っ張った。
「うん?」
エドワードが顔を近づけてきたので、手を伸ばして彼の頬に触れる。
そのまま肩ひじをついて軽く状態を起こし、ちゅっと触れるだけのキスをした。
「埋め合わせ、こ、これじゃだめ?」
エドワードは虚を突かれたような顔をして、それからばたりとベアトリスの上に倒れ込んだ。
夫の体重を支えられなくなって、もちろんベアトリスもベッドに沈む。
「君は――」
エドワードは呻くように言った。
「結婚して三年も経つのに、そうやって新婚当時のような初々しさで俺を翻弄するのはやめてくれ……」
「そんなつもりは、ないんだけど……」
翻弄したつもりはまったくない。本心から、このくらいで許してくれないかなと思っただけだ。
エドワードがベアトリスの首筋に顔をうずめてため息をつく。
「もう邸に帰らないか」
「それはちょっと、困る相談だわ」
「わかっている。言ってみただけだ」
「それで、ええっと……埋め合わせは、あれで許してくれる?」
「君はたまに本当にあざとい」
エドワードは体の向きを変えると、ベアトリスを腕の中に抱きしめる。
抱きしめるだけで大人しくなったので、きっと許してくれたのだろう。
「エドワード、本が読めないわ」
「本は後で読めばいい。いろいろ癪だから、昼食の時間までこうしていたい」
「寝ちゃいそうね」
「それもいいな。少しの休息だ。今のところ身の安全が確保されたようだし、汽車旅を楽しんでもいいだろう。まあ、停車しているんだが」
落石除去作業は順調らしい。今のまま進めば、予定通り明日には運転が再開できるという。
雪ははらはらと降り続いているが、それほど深く積もっているわけでもない。線路状況も悪くないと聞いたので、徐行運転にはなるだろうが、次の駅に向けて出発できそうでほっとした。
次のダインリル国エルガー駅では、一度汽車を降りることになるだろう。
殺人事件があったのだ、ダインリル国で警察からの事情聴取もあるだろうし、汽車の一等車両のコンパートメントを入れ替えなければならない。
別の汽車に乗り換えることになるのか、一日か二日ダインリル国エルガー駅のある町で過ごしてから、モロニー・ロイヤル・エクスプレスが運転を再開するのに合わせて乗り込むのかは、状況次第というところだろう。
ダインリル国エルガー駅のある町で数日をすごす場合、多少の緊張感は強いられそうだ。汽車にまで暗殺者を潜り込ませていたプリチェット公爵である。ダインリル国に手のものを紛れ込ませていないと安心することはできない。
そう考えると、確かに今のうちに英気を養っておくのもいいかもしれない。
そうして夫に甘えて午前中をすごすことに決めたベアトリスだったが、昼前になって慌ただしくやって来た人物によって、その平穏は打ち破られた。
息を切らせてコンパートメントにやって来たマイケル医師は、青ざめた顔で言った。
「大変です! アンソニア・エアトンの遺体が、消えました!」
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