後始末とこれから 1
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「今日は色々疲れたわね」
夕食を終え、シャワーを浴びたあと、ベアトリスは少し早くベッドに潜り込んだ。
隣にはエドワードがいて、いつものようにベアトリスの体に腕を巻き付けている。
夫の腕を枕にベアトリスは彼を見上げた。
エドワードは優しく目を細めてベアトリスを見ていた。きっと、「ちゃんと休む」という約束を守って早くベッドに入ったベアトリスに満足しているのだろう。
「これでひとまずのところは、汽車内での安全は確保されたとみていいかな」
「ええ。そうね。ベンジャミンがこちら側についてくれたのにも安心したわ。とても心強いもの」
「君にしてはすんなり信用しているな」
「信用、というほどでもないんだけど、そうね。利害関係が明白な方が安心はできるかしら」
「なるほど。まあ、彼については、君になれなれしくしすぎない点では評価できる」
ベアトリスはあきれた。
「そこは評価ポイントかしら?」
「大いにね」
エドワードがベアトリスの髪に指を巻き付ける。
「それにしても、ラドゥロフ帝国の問題が出て来るとはきわめて厄介な問題だ。俺としても無視できないし、国際同盟もそうだろう。とはいえ、しばらくは同盟各国には内緒で進めるつもりだろう?」
「いいかしら?」
「オルブライト国の王子という立場ではいいとは言えないんだが、君の夫の立場では、逆にいいとしかいえない。ラドゥロフ帝国の問題にヘンウッド国王陛下や王太子殿下が巻き込まれると非常にまずい。この場合は、陛下や王太子殿下主導で、ラドゥロフ帝国と通じていたプリチェット公爵とその一派を罰したという実績が欲しい。プリチェット公爵の罪に陛下たちが巻き込まれた場合、君にまで飛び火するからね」
ベアトリスは頷いた。
もとよりベアトリスは、父たちと国益を最大限に考えてプリチェット公爵とラドゥロフ帝国前皇帝の妻子との繋がりをヘンウッド国内で片付けるつもりでいた。
しかし、そこにはもう一つの問題も派生してくるのだ。
ヘンウッド国王と王太子がラドゥロフ帝国前皇帝の妻子とプリチェット公爵の関係に巻き込まれた場合、ベアトリスにも傷がつく。
父や兄が罪に問われたらベアトリスも巻き込まれると言うことだ。罪人となれば、エドワードとの離縁は避けては通れない。たとえエドワードが拒否したとしても、である。
国の関係強化のための縁談なのだ。国益を損ねるようであれば、そのような妻は離縁される。国の意思として。
「でも、わからないのは、どうしてプリチェット公爵はラドゥロフ帝国の前王朝の生き残りと関係を結ぼうと思ったのかしら?」
実際にプリチェット公爵の元にラドゥロフ帝国の前皇帝の妻子が匿われていると言う証拠はないが、ベンジャミンとラドゥロフ帝国の新皇帝率いる革命軍が、何もないのに警戒するはずがない。
つまり確度は高いと見ていいだろう。
だとしたら、プリチェット公爵は何故そのような危ない橋を渡っているのかという疑問が残る。
「それについてはここで考えても答えは出ないだろう。それに、休むと言う約束だ。横になるだけが休むと言うことじゃない。ちゃんと頭も休めてくれ」
ふに、と頬を軽くつねられてベアトリスは「はぁい」と小さく返事をする。
アンソニア・エアトンの後始末については、ベンジャミンがすべて引き受けると言っている。
というのも、このままだとベンジャミンの裏切りがあちらに悟られる危険性があるからだ。
そうなればベンジャミンも動きにくくなるため、少々小細工をすると言っていたがどうするつもりなのか。
気にはなるが、ベンジャミンが任せてほしいと言っている以上、ベアトリスは口を挟まない方がいいだろう。暗殺者のことは、彼の方が詳しい。どうすれば相手を欺けるかも、彼がよく知っているはずだ。
「ヘンウッド国に戻れば、君は否が応でも気が抜けなくなるんだろう? ならばせめて、この汽車に乗っている間は気を抜いていてほしい。俺に加えて味方が一人増えて今なら、君も少しは気が抜けるだろう?」
「ええ、そうね。ありがとう」
確かに、ヘンウッド国に入れば気は抜けない。
不思議なものだ。
向かう先は祖国なのに、思い返してみたら、ベアトリスは嫁ぐ前もあの国では気が抜けなかった。
ベアトリスはゆっくりと瞼を閉じる。
一つの問題に片が付いて安心したからだろうか。
久しぶりに、夢を見た。








