もう一人の目的 7
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想定外の大物の名に、ベアトリスは思わず息のをんだ。
エドワードも目を見開いている。
エリストラートヴァ大公。
ラドゥロフ帝国は鎖国的な国であるが、その名前はあまりにも有名だった。
少し前に処刑された、ラドゥロフ帝国の前皇帝の弟にあたる人物だ。
そして今から十五年前、ラドゥロフ帝国内に置いて、国家転覆罪の容疑をかけられて処刑された人物でもある。
エリストラートヴァ大公が本当にその罪を犯したのかどうかは、残念ながら情報不足でベアトリスには判断が難しい。
しかし、国家転覆罪により、彼は処刑され、彼の家族は毒杯を飲まされたという話だ。
(家族は全員死んだと聞いているけれど、生きていたの?)
十五年前なら、ベンジャミンは十五歳かそこらだろう。
恩情で生かされたとはどうにも思えない。
つまり、何らかの方法で逃げ延びていたのだ。
「その表情を見るに、エリストラートヴァ大公については説明の必要はなさそうですね。父は処刑されました。国家転覆罪なんて、実に都合のいい罪状で」
「冤罪だったんですか?」
「ええ。父は何もしていませんよ。強いて言うならば、国民人気が高すぎた。これが罪に該当するのならばそうなのかもしれません。父の兄である前皇帝は、それが面白くなかったのでしょう。前皇帝は非常に猜疑心の強い人間でね。自分の地位を脅かすと恐れ、父を亡き者にした。私はそう考えています。まあ、理由なんて何でもいいんですがね。たとえ国家転覆罪が本当のことだったとしても、私は父を殺した前皇帝を許したりはしません」
ベンジャミンはそこで言葉を切り、立ち上がった。
エドワードが反応して剣を抜きかけたが、ベンジャミンに軽く手を上げられて動きを止める。
「長く話していると喉が渇きます。そうは思いませんか? 紅茶でも取って来ましょう。三人分。私がご一緒しても、もちろんいいですよね?」
「え、ええ」
「大丈夫、逃げ出したりはしませんよ。さっきも言った通り、私はあなたという隠れ蓑を欲していますので」
ベンジャミンはそう言ってコンパートメントを出て行った。
彼の姿が見えなくなると、ベアトリスは反射的に長く息を吐き出す。
緊張していたようだ。
エドワードがそっとベアトリスの隣に立ち、肩に手を回した。
「大丈夫か? 熱はぶり返してなさそうだが、心労が祟っているはずだ。無理はよくない」
「ありがとう。ベンジャミンとの話が終わったら、ちゃんと休むわ」
一人きりの汽車旅で気を張っていて、エドワードの姿を見て緊張の糸が切れたタイミングで殺人事件が起きた。
確かに、少々気疲れしているようだ。
エドワードが甘やかすようにベアトリスの肩を撫でる。
そっと彼の腰のあたりに側頭部を押し付けて、ベアトリスは肩の力を抜いた。
しばらくそうやってエドワードに甘えていると、ベンジャミンが三人分のティーカップを銀のトレイに乗せて戻って来る。
ベアトリスとエドワードにそれぞれのティーカップを置き、ベンジャミンは自分のカップを持ってさっきまで座っていたソファに腰を下ろした。
「安心してください。毒なんて入っていませんよ」
ベンジャミンがティーカップに口をつける。
ベアトリスも、出された紅茶に毒が混入しているとは思っていなかった。彼がベアトリスを隠れ蓑に欲しているのならば、今ここでベアトリスを殺害しては本末転倒だ。
そして、ベアトリスの命を狙っているのならば、ベンジャミンにはいくらでもチャンスがあった。今日までベアトリスが生きているのだから、彼の目的が彼女の命を奪うことではないのは明白だ。
「エドワードも座って?」
「……そうだな」
エドワードはベンジャミンを一瞥してから、テーブルを挟んでベアトリスの対面に腰を下ろす。
紅茶で喉を潤してから、ベンジャミンは続けた。
「どこまで話しましたか。ああ、エリストラートヴァ大公の息子で、ラドゥロフ帝国の前皇帝を憎んでいるところまででしたね。では、少しだけ長くなりますが、私についてお話しすることにします」
ベンジャミンはそう言って、ティーカップを置いた。
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