もう一人の目的 4
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ベンジャミンは、驚くそぶりを見せなかった。
ただ穏やかにヘーゼル色の瞳を細める。
「おっしゃる意味がわかりかねますが、理由があってのことですか?」
「もちろんです」
ベアトリスは悟った。
ベンジャミンは誤魔化すつもりはなさそうだ。ただ、ベアトリスの反応を見て、推理を聞いて楽しんでいる。
エドワードが警戒を強め、剣の柄を握った。
彼はモロニー・ロイヤル・エクスプレス内において、就寝時以外は常に帯剣している。
ベンジャミンはエドワードの手が剣の柄に移動しても、ただ一瞥しただけだった。
彼はいったい、何者なのだろう――そんな漠然とした問いがベアトリスの脳裏をよぎる。
彼が「もう一人の暗殺者」であることに、ベアトリスは半ば確信を抱いていた。
その上で思う。――彼は、何者であるのかと。
ベンジャミンはソファにゆったりと腰かけてベアトリスの話に耳を傾けている。
疑いをかけられても、狼狽することも、逃げ出すこともない。
彼は最後までベアトリスの話を聞くつもりだ。
ならば、自分の推理をすべて語ろう。その上で、彼の反応を見たい。
「さっきも言った通り、アンソニア・エアトンは暗殺者でした」
「ええ、びっくりしました」
まるで驚いていない声で、彼はそんなことを言う。
「そして、アンソニアの狙いはわたしです。けれど彼女がわたしのコンパートメントを訪れたのは、昨夜でした。わたしが不在の、昨夜」
「きっと、モラン公爵夫人が医務室にいらっしゃることを知らなかったんでしょうね」
「そうでしょうね。もしくは、誰かにそそのかされたか。たとえば、協力者だと思っていた暗殺者に、とかね」
アンソニアがベアトリスの不在に気づいていなくても、それはまあ頷ける。
問題はここからなのだ。
ではなぜその日、アンソニアがベアトリスのコンパートメントで殺害されたか。これが問題なのである。
「アンソニアを殺害したのは、もう一名の暗殺者です。プリチェット公爵がアンソニアに協力して仕事にあたるように指示していた、二人目の暗殺者」
「それが私だと?」
「ええ」
「実に面白い推理ですね」
ベンジャミンの顔には余裕があった。
どこから生まれる余裕なのかはわからない。
何を言われても言い逃れできるからなのか、はたまた正体を知られてもいいと思っているからなのか。
ベアトリスは後者だと思う。
何故なら彼は、ベアトリスに自分の存在を気づかせようと、あえてアンソニアの背中に短剣を突き立て、コンパートメントを荒らすというメッセージを残していったのだから。
「あの日、わたしがコンパートメントを不在にしていることを知っていたのは、三人です。わたしに付き添っていたエドワード、医務室のマイケル医師、そして一等車両付のコンパートメントであるベンジャミン、あなた。この三人」
「そうですね」
「アンソニアを殺害した何者かは、わたしがコンパートメントを不在にしていたことを知っていた。そうでなければ説明がつきません。部屋の主がいるときに協力していた――少なくともアンソニアは疑っていなかったでしょうから、ここではあえて協力と言わせいただきますが――暗殺者を殺害するために訪れるなんて、おかしい」
「そうですか? もしかしたら、あなたを殺害し、その罪をもう一人の暗殺者にすべて擦り付けるためにしたことかも」
「それなら、わたしを殺害した後でアンソニアを手にかけると思いませんか? わたしの生死を確認する前にアンソニアを殺害するとは思えません」
何故昨日の夜にもう一人の暗殺者はアンソニアを殺害したのか。
何故その日を選んだのか。
ベアトリスが、部屋にいなっかたからだ。
その答えにたどり着いたとき、もう、犯行が可能であったのは物理的に一人しか残らなかった。
「あなたは、わたしを巻き込むつもりがなかった。あなたの目的は最初からアンソニアだった。いいえ、アンソニアの殺害と、その先にあるもう一つ――すなわち、わたしの反応を見、何かを考えるためだった」
ベンジャミンは「続けて」とでもいうように、手のひらをベアトリスに向けた。
「あの夜、何が起きたのか。ここからはわたしの推測です」
ベアトリスはそう前置きして、一度目をつむると、まっすぐにベンジャミンを見つめて続けた。
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