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もう一人の目的 3

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 ベルを鳴らせば、二分としないうちに一等車両付きの乗務員であるベンジャミンがやって来た。

 ベアトリスはエドワードと共に窓際のテーブルに移動しており、ベンジャミンに室内に入るように言う。


「少し相談したいことがあるのだけれど、いいでしょうか?」

「もちろんです」


 ベンジャミンはにこやかに応じた。

 室内に入っても立ったままでいるベンジャミンに、ベアトリスはソファをすすめた。

 彼は少し悩み、「失礼いたします」と断って着席した。


「相談の前に、あなたにいくつか聞きたいことがあるのだけど」

「なんなりと」

「では、アンソニア・エアトンと名乗る女性が殺害された夜のことを、もう一度教えてくれるかしら?」


 ベンジャミンははきはきと答えた。


「バー車両にいらした乗客の方――最後まで残られていたのは四名の男性ですね。彼らがバー車両を去る十一時四十分頃まで、私はこちらの車両の乗務員の待機用の椅子に座っておりました。その後、バー車両の乗務員を手伝い、バー車両の片づけを。それが終わったのが深夜零時十分頃のことで、その足でスタッフ車両へ向かい十五分ほど会議に参加いたしました。会議後、私はそのまま自分の寝支度をはじめました。というのも、一等車の三つあるコンパートメントのうち、アンソニア・エアトン様とエルトンご夫妻はすでにご就寝になられていたのを知っていたのです。エルトンご夫妻からは十一時ごろ、明朝七時ごろに起こしてほしいと頼まれ、その際に就寝のご挨拶をいただきました。アンソニア・エアトン様の方は、十一時十五分頃に水を一杯頼まれまして、その際に同じように就寝のご挨拶をいただいております。あなた方モラン公爵ご夫妻が医務室にいらっしゃることを知っていたので、私はその夜はそれ以上の仕事がないと思ったのです」


 よどみなく答えたベンジャミンはそこで一息つき、続けた。


「ただ、寝支度を整えて眠りにつこうとしたところで、私はふと、モラン公爵ご夫妻のコンパートメントの扉をきちんと施錠したかどうかが気になりました。ないとは思いたいですが、実際のところ過去に車内で窃盗事件が起こったことがございます。何かあれば大変だと思い、私は施錠確認に向かいました。それが深夜一時十分前頃です。するとコンパートメントの扉の鍵が開いており、しかも扉は半分ほど開いたままでした。気になったので中を覗きますと、女性が倒れております。ランタンの灯りをかざしたところ、背中には短剣が刺さっておりました。私は慌ててドクターを呼びに医務室へ向かったのです」


 彼の説明にはいくつかの補足があったが、追加された情報以外はすべて以前聞いたものと一致していた。

 ベアトリスは頷き、言った。


「あなたの証言の通りだと、アンソニア・エアトンが殺害されたのは十一時四十分頃から深夜一時の間のうち、深夜零時十分から二十五分の間、深夜零時三十五分から午前一時前の間の二つが考えられると思うんです」

「それはどうしてでしょう?」


 ベンジャミンはきょとんと首を傾げた。


「深夜零時十分から二十五分の間はあなたがた乗務員が全員スタッフ車両に集まって会議をしていた時間だからですよ。十一時四十分ごろから深夜零時十分の、あなたがバー車両で片づけをしていた時間帯を外したのは、一等車両に向かうにはバー車両を通るか、または二等客室側から図書・娯楽車両を通って向かうしかない。だけどバー車両には片づけをしているあなたたちが、そして二等客室と図書・娯楽車両にはその時間帯はまだ乗務員が待機していましたよね。だから、移動する人間がいたら必ず誰かが目撃しているはずなの」


 なるほど、とベンジャミンは頷いた。


「それなら理解できます。その時間帯に、スタッフ車両や食堂車から一等車両の方へ向かったものはおりませんでした。二等車両から一等車両に向かったものもいないでしょう。いたら見とがめられているはずです。トラブル防止のため、バー車両を閉鎖したのちの一等車側への二等客室のお客様への立ち入りは原則お断り申し上げておりますから。では、次の候補である深夜零時三十五分までの間の十分間を犯行時刻から除外したのは何故でしょう?」

「会議が終わった後、数名の乗務員が車内の見回りに向かうと聞いたからです。全員がスタッフ車両で会議していたのなら、見回りのために必ず一等車両の廊下を通るでしょう? その時、不審な人物がいたら気づくはずよ」

「確かにその通りですね。では、犯行時刻の候補はその二つのどちらかだと言うことですね」

「候補としては、ね。だけどわたしは、二つ目の候補である深夜零時三十五分から午前一時前の間だと考えています」


 ベンジャミンはどこか面白そうに目を瞬いた。


「どうしてですか?」

「アンソニア・エアトンの行動を考えたら、その時間帯が最も適切だからです」


 アンソニア・エアトンが泥棒だろうと暗殺者だろうとどちらにせよ、犯行が露見しやすい時間帯に行動するとは思えない。

 スタッフ会議の後で見回りの乗務員が車内を歩き回ることくらい把握していただろう。

 ベアトリスがアンソニアなら、乗務員の見回りが終わった時間帯を狙う。


 ベアトリスがそう言うと、ベンジャミンはまた「確かにそうですね」と頷いた。

 驚きも何もない。

 ただ淡々と、時折面白そうにベアトリスの話を聞いている。


「ベンジャミン、アンソニア・エアトンの正体は暗殺者でした。私の命を狙っていた暗殺者です」


 ベアトリスがアンソニアの正体を伝えると、ベンジャミンは軽く目を細め、そうですか、と頷いた。

 その反応を見て、ベアトリスは決める。

 もう彼はベアトリスの言いたいことに気づいている。

 ならば、回りくどいのはやめにした方がいいだろう。


 ベアトリスは一度息を吐き、それから大きく吸い込むと、言った。


「アンソニア・エアトンを殺害したのは、あなたですよね。ベンジャミン」





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