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暗殺者の手掛かり 4

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 木箱には以下のようなものが入っていた。


 細いナイフが二本。

 薬瓶が三本。

 いくつかの手紙。

 懐中時計。

 香水瓶。

 細い紐のようなものが数本。

 吹き矢。

 そのほか細々としたものがいくつか。


 ベアトリスはそのうちの懐中時計を手に取った。

 一見すると何の展哲もない懐中時計だが、スクリューを回して蓋を開けると、内側に刻印が彫ってある。

 ベアトリスはベンジャミンに聞こえないように小声で言った。


「暗殺者って、身元が割れるものは基本的に持ち歩かないんだけど、所属があればその限りではないのよ。たとえばヘンウッド王家所属の暗殺者の場合だけど、彼らは一部を除いて誰が同僚なのか、その顔も知らないの。仕事上そのほうが都合がいいこともあるからそうしているのよ。だけど、顔も知らない同僚と任務中に出くわすことが稀にあるの」


 その昔、任務にあたっていた暗部の暗殺者が、そうと知らずに同僚を敵側とみなして殺害したことがあった。

 それ以来、ある程度仲間内で顔を見せ合うようになり、顔を知らない同僚と出会ったときに自分の身分を示すものを持ち歩くようになったのだ。


 もちろん、「暗殺者である」と主張させるものを持たせるわけにはいかないため、例えばヘンウッド国では暗部の大本である「情報局」の紋章を彫らせた小物を持ち歩くようにしている。多くが懐中時計にその細工がされた。

 そして、アンソニア・エアトンの手荷物にあった懐中時計の内側に彫られている紋章はプリチェット公爵家のものだった。


 説明を受けたエドワードは、軽く首を傾げた。


「懐中時計に紋章が彫られているからと言って、必ずしも暗殺者とは限らないんじゃないか?」

「このナイフを見て。ああ、刃先に毒物が仕込まれている可能性もあるから、触らない方がいいわ。上から見るだけよ」


 ベアトリスに言われてナイフを見たエドワードは怪訝そうに眉を寄せ、それから瞠目した。


「アンソニア・エアトンの背中に刺さっていたナイフと同じに見えるな」

「ええ。あとはこの薬瓶。香水瓶もかしら。このあたりの成分分析をドクターにお願いしたらより確実性が増すと思うわ。きっと毒物ね」

「待ってくれ。そうなるとあれか? アンソニア・エアトンは実は君を暗殺するために部屋に忍び込み、そして殺されたと言うのか。首の後ろを指された後、自分のナイフを背中に突き立てられて?」

「これで、ナイフの謎が少しばかり解けたわね」


 ナイフを背中に刺していたのは、彼女を殺害した犯人が彼女自身の身分を暗示させる証拠として残しておいたと言うことだ。

 とはいえ、何故背中に刺したのか。ここはまだ疑問は残る。


 恐らくだが、アンソニア・エアトンを殺害した何者かは、彼女の首の後ろを細い針で刺したのち、アンソニアが持っていたナイフを奪い取って背中に刺したのだ。

 そのまま放置していても、アンソニアはナイフを手にしたままその場に倒れただろう。その方がアンソニアが何者であるのか、ベアトリスは早く勘づいたはずだ。


 部屋が荒らされていたこともそうである。

 あれではアンソニアが泥棒で、その泥棒が何者かに殺害されたように見せるためにミスリードしているようにも見えるではないか。

 それも、ベアトリスが疑問を持つ程度のお粗末なミスリードの仕方だ。


「なんだか、揶揄われているみたいだわ」


 相手は、ベアトリスがそうと気づく証拠を残している。

 同時に、騙そうともしてきている。

 いったい何が目的なのか。


「とにかく、ドクターに頼んで薬品と香水瓶を調べてもらいましょう。念のためナイフに毒物が付着しているかどうかもね。少なくとも、アンソニアがプリチェット公爵と繋がっているとわかったのは一つの収穫だわ」


 そして、運がよかったとも言える。

 もしあの日、エドワードが追いかけてきていなくて、ベアトリスが医務室に移動せずにコンパートメントで眠っていたら、今頃命がなかったかもしれない。

 そう考えると、アンソニアを殺害した「何者か」はベアトリスを守ろうとしたのか。

 いや、楽観視するには時期尚早だ。

 何故なら「何者か」は不可解な高度を取っている。

 その不可解な行動の理由が判明するまで、やはり「何者か」――もう一人の「暗殺者」は敵であると考えた方がいいだろう。


「でも、そうね。アンソニアがプリチェット公爵の息のかかった暗殺者なら、彼女が死んだのは本当に悔やまれるわね。味方に引き入れるか、尋問してプリチェット公爵を追い落とすための情報の一つでも得たかったところだけど」

「逆に俺は安心したけどね。つまり、君を狙っている人間の、最低でも一人は消えたというわけだ。もう一人の目的が判明しない限り、本当の意味で安心することはできないけどね。二人を相手にするよりはましだろう」

「それは微妙なところよね」

「どういう意味だ?」

「だって、『暗殺者』をあっさり殺害する『暗殺者』がいると考えられるわけじゃない。残っているのはアンソニアよりよほど厄介な相手よ。……そして、欲しい人材よね」

「俺としてはそんな危険人物を君に近づけたくないところだが、まあ、本当に味方になるのなら心強いとも言えるだろうな」


 ベアトリスは「ええ」と頷いてから、ベンジャミンを振り返った。


「ドクターにこの薬品と香水瓶の毒物検査を頼んでいただいてもいいかしら? それから、無理を承知でお願いするのだけど、その他の懐中時計とか手紙とかを、いただいていってもいいかしら?」


 ベンジャミンは少し考えるそぶりを見せて、それからそっと唇に人差し指を立てた。


「トランクの底にそのような箱が入っていたのは誰も知りませんので」


 内緒ですよ、とベンジャミンは笑う。

 ベアトリスはお礼を言って、三本の薬瓶と香水瓶を残して他のものをすべて木箱の中に戻すと、それを自分たちのコンパートメントまで運ぶことにした。

 トランクに張られていた布はベンジャミンが残しておいてくれると言う。


「ここは冷えますので、後片付けは私が。どうぞお戻りください」


 ベアトリスは再び彼にお礼を言うと、あとを任せてコンパートメントに戻ることにした。





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