アンソニアの謎 2
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エドワードに後ろから抱きかかえられるようにベッドに上半身を起こして座り、ベアトリスは自分がメモを取ったノートを見返した。
その時、外からまたドォオオオンという音が聞こえてきた。
一度目の爆音よりは小さく感じたので、使用する爆薬をその都度調整しているのだろう。
少し外の様子が気になるが、落石除去作業中は乗客は外に出ないようにと通達があったので、確認に出向くことは不可能だ。
「落石を細かく砕いたあとは人力で運び出すのよね。想像するだけで大変そうだわ」
「そうだな。ここへ向かう途中の汽車で聞いたんだが、巨大な落石がトンネルの入り口を塞いだのははじめてのことらしいぞ。雪の影響で運行見合わせになることはあっても、このように急な落石事故で立ち往生したことなどないそうだ」
「落石って、人工的に起こせるのかしら?」
「というと?」
「うん……考えすぎかもしれないけど、これもプリチェット公爵の計画のうちなのかしらってちょっと思ったのよね」
「落石が? さすがに無理があるだろう。ヘンウッド国内ならいざ知らず、ここはプリチャール国だ。国交はあるが、ヘンウッド国の特別友好国というわけでもない。そんな国で落石事故を発生させるような小細工をするなんて、いくら何でも」
「そうよね。そう思いたいわ。でも……」
汽車に暗殺者を潜り込ませていたのならば、落石事故だって起こしそうな気がしてしまったのだ。
ベアトリスはゆっくりと頭を振った。
三年、ヘンウッド国からもプリチェット公爵からも遠ざかっていたせいで、プリチェット公爵が得体のしれない、不気味で巨大なものになってしまったような勘違いをしているのかもしれない。
確かにプリチェット公爵は狡猾で油断ならない男だが、彼にだってできることとできないことは存在する。敵を過大評価しすぎて怯えていては、足元をすくわれるだろう。
「ううん。さすがに無理があるわね。それに、不審点があれば乗務員が気づくでしょうし。これは運悪くして起こったただの事故だわ」
「俺にとってはある意味幸運な落石事故だったけどね」
「エドワード、もう、ちょっと不謹慎よ」
口をとがらせて咎めると、エドワードが笑ってつむじに口づけを落とす。
「だが、この事故がなければ、少なくともヘンウッド国に到着するまでに君に追いつくことはできなかっただろうし……あんな殺人事件が起きた後だからな、余計にそう思う。もし俺が追いついておらず、刺されたのが君だったらと思うとぞっとすると。本当に」
ぎゅっと胴に巻き付いたエドワードの腕に力がこもる。
「ベアトリス。君はきっと正しく理解していないだろうから言うよ。俺は君がいなくてはもう生きていけそうにない。君は俺を危険に晒したくないといったが、それでもし君に万が一のことがあれば、たぶん俺は後を追うだろう。君が俺を聞けんから遠ざけたところで君に危険が及べば結末はきっと変わらない」
「そう言う言い方は、ずるいと思うの……」
ベアトリスは、エドワードにどれだけ大切にされているか、愛されているかを知っているつもりだった。
けれど、そんなことを言われると、自分がまったく理解できていなかったのだと思い知る。
彼の声には冗談めいた響きはまるでなくて、どこまでも本心だとわかるから、ベアトリスは安易に彼をおいて汽車に飛び乗ったことを心の底から後悔した。
ベアトリスはきっと、自分よりもエドワードの命を、そしてヘンウッド国の王女としての義務を優先するけれど、それで自分が命を落とせば、大切な人も巻き添えにするのだ。
同に絡まったエドワードの腕にそっと手を添わせ、ベアトリスは彼に体重を預ける。
こうしていると、エドワードに包まれている気がして気分が落ち着く。
「ねえエドワード」
「うん?」
「わたし、あなたの腕の中にいるときが、世界で一番幸せでとても落ち着くの」
「俺も、君を腕に閉じ込めていると安心するよ。君はすぐに飛び立って行こうとするからね」
「そんなことは……」
「ないと言いきれないだろう?」
「……今度からは勝手に飛んで行ったりしないわ。わたしが羽を休められるのは、あなたの腕の中だけだもの」
顔を上げると、ゆっくりとエドワードの顔が近づいてくる。
何度かついばむように口づけを交わし、それが深くなる予感がしてきたところで、ベアトリスはハッとした。
「って、今は時間がないわ!」
「……ベアトリス」
エドワードが情けない声を出したが、今は流されている時間が惜しいのだ。
ベアトリスがノートに視線を落とすと、エドワードは天井に向かってため息を吐き出した。
「本当に、アンソニア・エアトンを殺害した犯人が、俺は心の底から憎いよ……」
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