真夜中の殺人 4
お気に入り登録、評価などありがとうございます!
コンパートメントを移った後で、ベアトリスはエドワードと共に食堂車へ向かった。
朝食を取るためだ。
ついでに食堂車に集まった乗客を改めて観察するためでもある。
列車の進行方向に向かって、左手側に二人掛けのテーブル。右手側に四人掛けのテーブルが並んでいる。
テーブルには真っ白いクロスが駆けられており、若草色の椅子が部屋に彩を添えていた。
テーブルの上にはすでにナプキンとグラスが並べてられいる。
「ベアトリス、熱は下がっても無理は禁物だ」
奥まった二人掛けテーブルを陣取って、情報をメモするためのノートをテーブルの端に準備していると、エドワードが眉を寄せて言った。
「でも、落石除去が終わって汽車が出発する前に犯人を見つけておきたいわ」
駅に到着して逃げられたら元も子もない。
本日の朝食が終わった頃に、爆薬を使って落石を粉砕する予定らしく、そのあと残骸の撤去と安全確認が終わり、問題がないようであれば明後日には出発する予定なのだ。猶予は二日しかない。
「君は変なところで言い出したら聞かないからな」
「あら、それはエドワードもじゃないの」
「似たもの夫婦だからな」
ふっと吐息を吐くように笑われると、ちょっとくすぐったく感じる。
確かに言い出したら聞かないところは、似ているかもしれない。
喋っている間にも、食堂車には続々と乗客が集まって来た。
乗務員がスープとパンを乗せたワゴンを押しながら通路を歩き、パンを皿の上に三つ、スープをスープ皿に注いでいく。
そのあとでサラダとゆで卵が運ばれてくる。
だいたい朝のメニューはこんな感じだ。
パンにはジャムとバターが添えられており、ジャムは毎回違うものが用意されているので、これがひそかな楽しみだったりする。
食後は紅茶かカフェオレが選べて、事前に頼んでおけば食事が終わる頃に熱々を用意してもらえる。ベアトリスとエドワードは揃ってカフェオレを頼んでおいた。
エッグスタンドに乗せられている卵の上半分の殻を向きながら、ベアトリスは他の乗客たちに視線を向けて見た。
当たり前だが、特に変わった行動をとる人間はいない。
せいぜい卵の殻を半分剥くか全部剥くか、スープを後で飲むか先に飲むか、その程度くらいしか違う部分は見られなかった。
だいたいが皆食事に没頭しているので、変な行動をとる人間などいようはずもない。
(まあそもそも、犯人が乗客の中にいるとは限らないものね)
この汽車には乗務員もいれば、荷物運搬人もいる。コックもいるし、医者もいる。もちろん汽車の操縦者だって。あとは、落石除去のためにやって来た救援部隊もそうだ。
乗務員や救援部隊を含めれば、全体で五、六十人ほどになるだろうか。救援部隊の人数によってはもっとかもしれない。
これだけの人数の中から犯人を絞るのはなかなか大変そうだが、やるしかなかった。
(アンソニアの口を後ろから塞いで身動きを取れなくして後ろから刺した……犯人は男かしら? ああでも、訓練された女性なら可能でしょうね)
男性か女性かも絞り込めないのは厄介な話だ。
上半分の殻をむいた半熟卵をスプーンですくって口に入れつつ、ベアトリスの視線は後方の四人掛けの席へ向かう。
チャド・ゴダード 三十二歳。実業家。昨日、最後までバー車両にいた。焦げ茶色の髪に黒い瞳。
モートン・ヒルズ 三十五歳。実業家。同じく、昨日、最後までバー車両にいた。銀色の髪に灰色の瞳。
ランドル・ムーア 三十歳。ムーア子爵。同じく、昨日、最後までバー車両にいた。赤茶色の髪に焦げ茶色の瞳。
ショーン・グレグソン 三十七歳。グレグソン伯爵令息。三男のため継ぐ爵位はない。同じく、昨日、最後までバー車両にいた。金髪に緑色の瞳。
この四人はビジネス関連の友人同士で、二つ前の駅からモロニー・ロイヤル・エクスプレスに乗り込んだ。この次の駅で降りる予定で、用件は仕事だそうだ。ベンジャミンに聞いた。
昨日、最後までバー車両に残っていたのがこの四人だという。
かなり酔っていたようで、乗務員が「そろそろおやめになった方が」と止めて、渋々二等車のコンパートメントに戻ったという。
この四人のうちの誰かが犯人だとしても、四人連れ立って移動していたのだから、一度部屋に戻ってから戻ってくるしかあるまい。ついでに言えば、二等車両のコンパートメントはそれぞれ二人部屋だ。部屋を出れば同じコンパートメントを使っている人間が気づくだろう。
このあたりは、あとから二等車両を担当している乗務員に聞き込みをして調べてもらった方がよさそうだ。
「そう言えば、六号車の図書・娯楽車両は、昨日の夜は何時に閉まったのかしら?」
「図書・娯楽車両にも担当の乗務員がいるんだろう?」
「ええ、そうね。あとで聞いてみようかしら」
「ああ。あとでね。ほら、考え事をしていないで食事に集中して。手が止まっているよ?」
エドワードに指摘されて、卵を半分食べた切り手が止まっていたことに気が付いた。
ベアトリスは思考に没頭するのを中止して、目の前の食事に集中することにした。
体調不良で胃が弱ったのか、パンを全部食べ切ることができず、残ったひとつはエドワードに食べてもらう。
乗務員が食器とグラスを片付けて、代わりにカフェオレを二つ運んで来た。
熱々のカフェオレに息を吹きかけて冷ましながら飲んでいると、静かにベンジャミンが近づいてくる。
「モラン公爵、公爵夫人、例の件ですが、ドクターの検査が終わったようです」
例の件とは、アンソニア・エアトンの背中に刺さっていたナイフの毒物検査のことだろう。
ベアトリスは表情を引き締め、カフェオレを半分残して立ち上がった。
面白い!続きが気になる!続きが読みたい!と思ってくださった皆様、
ブックマークや下の☆☆☆☆☆にて評価いただけると嬉しいですヾ(≧▽≦)ノ








