↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/57

追いかけて来た夫 4

お気に入り登録、評価などありがとうございます!

 けれど、その予定は少し変更になった。

 ベアトリスの体調が悪化したのだ。


 エドワードはベンジャミンを呼び、ベアトリスを連れて医務室へ向かった。

 モロニー・ロイヤル・エクスプレスには、車内で体調不良者が出た時のために医者が同乗しているのだ。

 医者の診断を受けたあと、ベアトリスは医務室のベッドで一夜を明かすことになった。エドワードも付き添うと言うので、特別に、二人分の夕食を医務室に運んでもらった。本来夕食はルームサービスを行っていないが、病人に対しては別である。


 夕食を取り、医者が処方してくれた薬を飲んでベアトリスがベッドに横になると、エドワードがベッドの縁に座ってきゅっと手を握ってくれる。


「エドワードも寝た方がいいわ」


 広いベッドの隣を叩いて言うと、エドワードが繋いだ手の甲にちゅっとキスをした。

「君が眠ったら横になるよ」

「でも……」

「こうしていたいんだ」


 そう言われたら反論できない。

 素直に目を閉じると、エドワードがあやすように指先でベアトリスの手の甲をとんとんと叩いた。

 その一定のリズムに意識を向けていると、足元から睡魔が駆け上って来る。


「大丈夫だ、ベアトリス。俺はここにいるから、何も考えずに安心しておやすみ」


 柔らかい声に誘われて、意識が深い深い眠りの底に落ちていく。

 ベアトリスの意識は深層を、まるで波に揺られて浮き沈みを繰り返すように漂った。


 ――見つけた。君が、ベアトリス王女だろう?


 遠い昔。

 まだ、変声前だったエドワードの、少し高い声がする。

 ああ、あれは、エドワードとはじめて会った時のことだったろう。

 婚約の話が持ち上がり、エドワードが当時はまだ王太子だった王に連れられてヘンウッド国を訪れたときのことだ。


 本当ならば、お茶の席でエドワードと対面するはずだったベアトリスはしかし、あのとき、ちょっとしたトラブルに巻き込まれた。

 アンジェリカによって、城の客室の一つに閉じ込められてしまったのだ。

 アンジェリカとベアトリスは同じ年で、当時はともに十歳を迎える前――九歳だった。


 癇癪持ちで短絡的なアンジェリカが一人でベアトリスを騙して閉じ込めるなんて不可能だったろうから、あれには他の人間の意志――おそらくはプリチェット公爵の思惑が絡んでいたのだろう。

 アンジェリカと、それの共謀したメイドによってベアトリスは閉じ込められ、予定していたお茶会に出席できなかった。

 きっと、ベアトリスとエドワードの婚約を阻もうと企んでのことだったろう。


 実際、顔合わせの際にベアトリスが姿を見せなければ、婚約の話は立ち消えになってもおかしくなかった。

 大変なことになったと、幼いベアトリスは青ざめた。

 部屋から抜け出そうにも、扉は開かない。

 部屋の鍵は中からも外からも開け閉めできるタイプだったのに、扉を押しても開かないと言うことは、外に誰か大人が立って扉を抑えつけていたのだろう。


 幼い非力な女の子の力では、扉を押し開けることは不可能だった。

 窓から脱出しようにも、ここは二階。飛び降りるのは不可能だ。

 助けを呼ぼうとベアトリスはバルコニーに出たが、バルコニーを囲う壁の高さは身長ほどもあった。かろうじて頭のてっぺんが少しだけ飛び出すくらいだ。


 ベアトリスは大きく手を上げてぴょんぴょんとその場で飛び跳ねたが、彼女のたいしたことない跳躍力では外の様子をうかがうことはできなかった。


(どうしよう。今日は大切な日だって、お父様が言っていたのに)


 ベアトリスがお茶の席に現れなければ、ベアトリスの侍女のハンナが怒られてしまうかもしれない。

 ハンナに呼び出しがかかった隙に連れ出されたので、彼女は何も悪くないのに、きっとそんな言い訳は通用しないだろう。ハンナを呼び出したこと自体が嘘で、プリチェット公爵の企みだったかもしれないのだ。


 だんだんとプリチェット公爵が幅をきかせはじめている中、ベアトリスとオルブライト国第二王子エドワードとの婚約話は希望だった。

 オルブライト国の後ろ盾が得られるからだ。

 婚約がまとまれば、プリチェット公爵派の勢いに飲まれかけていた国王派は再び息を吹き返すだろう。

 この縁談は、絶対にまとめなければならない。


(そうだ、椅子!)


 ベアトリスは室内の椅子の存在に気付いた。

 子供には重たいそれを、一生懸命バルコニーまで持ち出して、椅子の上によじ登る。

 やっとバルコニーを囲う壁の上に頭が出た。

 あとは助けを呼べば――と、バルコニーの下を向いたベアトリスは、見たこともない男の子と目があった。


 黒髪に青い瞳の、ベアトリスより三歳くらい年上だろうと思われる男の子だった。

 彼は目を丸くして、それから言った。


「見つけた。君が、ベアトリス王女だろう?」


 その顔はとても誇らしそうだった。


「待ってて、場所はだいたい覚えた。すぐに行くから!」


 彼が、エドワードだった。


 あとから聞かされた話によると、両親の元にハンナが大慌てでベアトリスがいなくなったと報告に向かったと言う。

 父たちは先方に謝り、お茶会を一時中断。ベアトリスの捜索に乗り出した。

 そんな父たちにエドワードが「僕も手伝いますよ」と協力を買って出たのだそうだ。子供を探すのなら子供の方が気づくこともあるだろう、と彼の父親も賛同したという。


 エドワードがベアトリスが閉じ込められている部屋に駆けつけ、その後、部屋の外で扉が開かないように抑えつけていた衛兵の一人と、アンジェリカに協力したメイドが一人、処罰された。

 アンジェリカは知らぬ存ぜぬを押し通し、プリチェット公爵もまたしかり。

 しかしエドワードはその一件から、すでにアンジェリカをベアトリスの敵と認識したらしい。


 エドワードとの婚約はその半年後、無事にまとめられ、彼は暇を見つけてはベアトリスに会いに来るようになった。


 ベアトリスが優しい彼に恋に落ちるのは、あっという間のことだった。

 もしかしたら、閉じ込められたベアトリスを助けに彼が駆けつけてくれた時から、心惹かれていたのかもしれない。


 ――ベアトリス。


 少年が青年になっても、彼がベアトリスの名を呼ぶ甘さは変わらない。

 彼から離れようと思ったのがそもそもの間違いだったのだ。

 ベアトリスは、エドワードから離れられない。

 あの日、ベアトリスを助けに駆けつけた彼の笑顔を見た時から、彼はベアトリスにとって唯一の王子様で、やがてこの世の誰よりも信頼できる相手になったのだから。


 意識が、深層からゆっくりと浮上していく。

 そろそろ、目を覚ます時間だろうか。

 ベアトリスが微睡みながら目覚めの時間を感じ取ったそんなとき。


 慌ただしい足音が医務室に近づいて来て、バタン! と扉が開く大きな音がした。





面白い!続きが気になる!続きが読みたい!と思ってくださった皆様、

ブックマークや下の☆☆☆☆☆にて評価いただけると嬉しいですヾ(≧▽≦)ノ

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。