第七話「売られた島」
島は、売られていた。
人だけではなかった。
砂糖畑。
港。
水。
森。
子供。
沈黙。
全部に値段がついていた。
ハルとミナは、数日かけて記録を集めた。
教会。
総督屋敷。
港の倉庫。
古い商人の家。
島の老人たちの話。
誰も、はっきりとは知らなかった。
しかし、誰もが何かを知っていた。
ある老人は言った。
昔、子供の泣き声が山から聞こえた、と。
ある女は言った。
海賊の墓地には近づくなと祖母に言われた、と。
ある漁師は言った。
岬の洞穴には、古い鎖が残っている、と。
ある司祭の写しには、こうあった。
「名を記すな。名を記せば、罪が残る」
ハルは、その一文を何度も読んだ。
名を記すな。
名を記せば、罪が残る。
つまり、罪はあった。
罪があるから、名を消した。
ミナは言った。
「名を消せば、罪も消えると思ったのか」
「消えたことになった」
「なっていない」
「百年は、なっていた」
ミナは黙った。
港の倉庫には、古い地下室があった。
そこに、鎖があった。
小さな鎖だった。
大人の手首には合わない。
子供の手首に合う大きさだった。
ミナはそれを見て、しばらく動かなかった。
ハルは、彼女に声をかけなかった。
声をかけることが、邪魔になる気がした。
地下室の壁に、傷があった。
文字のようだった。
ハルは蝋燭を近づけた。
名前だった。
十二人分ではなかった。
もっと多かった。
途中で削られていた。
残った文字もあった。
ハルは、一つずつ紙に写した。
ミナは言った。
「手が遅い」
「間違えたくない」
「間違えるな」
「分かっている」
「急げ」
「なぜ」
「ここに長くいると、息ができなくなる」
ハルは手を早めた。
名前を書いた。
半分の名前。
削られた名前。
読めない名前。
読めるだけのものを書いた。
外へ出ると、夕方だった。
港は赤かった。
海は金色だった。
美しい夕方だった。
ミナは、しばらく港を見ていた。
「ここから出されたんだ」
「たぶん」
「船に乗せられて」
「たぶん」
「戻れなかった」
ハルは答えなかった。
ミナは続けた。
「海賊は、それを止めようとした」
「まだ分からない」
「分かる」
「なぜ」
「日誌に、子供たちは上陸したとあった」
ハルは黙った。
「売るなら、上陸させない。船に乗せる」
ミナは海を見た。
「海賊は、子供たちを船から降ろした。島に戻した。だから総督は兵を置いた」
ハルは言った。
「そして海賊を捕らえた」
「英雄になった」
「子供たちは?」
「邪魔だった」
二人は、同時に黙った。
考えたくない答えが、二人の間に落ちた。
海は青くなっていった。
夕方の金が消えた。
夜が来た。
(第七話 了)




