表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
青い島の朝――海賊の骨は歌わない  作者: Kentarou Tou / Kentarou Theater


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

5/10

第五話「海賊の墓地」


山の奥に、墓地があった。


教会の墓地ではなかった。


道もなかった。


島の者は、近づかなかった。


海賊の墓地と呼ばれていた。


昔、捕らえられた海賊たちが吊るされ、首を落とされ、そこに埋められたという。


昼でも暗い場所だった。


木が高く伸びていた。


蔓が絡んでいた。


鳥の声が遠かった。


ハルは、ミナと山に入った。


ミナは、山道に慣れていた。


死体が浜に上がらない日は、彼女は薬草を採ることがあった。


切り傷に効く葉。


熱を下げる根。


腐臭を消す花。


死者と生者の間にあるものを、彼女はよく知っていた。


墓地には、石が並んでいた。


名前はなかった。


ただ、印が刻まれていた。


錨。


剣。


十字。


鳥。


星。


ハルは数えた。


二十七。


日誌にあった海賊の数と近かった。


「ここに埋められたのは、本当に海賊だ」


「子供の墓は」


ミナが言った。


ハルは周囲を見た。


小さな石はなかった。


子供の墓に使うような小さな印もなかった。


「ない」


「やっぱり」


ミナは、墓地の端へ歩いた。


そこに、大きな木があった。


根が地面を割っていた。


根の間に、石板が埋もれていた。


ミナが土を払った。


文字があった。


古い文字だった。


ハルは膝をついて読んだ。


「罪なき者のために」


それだけだった。


名前はなかった。


「海賊の墓地に、なぜこんな言葉がある」


ミナは言った。


「海賊が掘ったのかもしれない」


「自分たちのために?」


「違う」


ミナは木の根元を見た。


「子供たちのために」


風が吹いた。


葉が揺れた。


海は見えなかった。


しかし、遠くで波の音がした。


ハルは、航海日誌の一節を思い出した。


子ら十二名、夜明け前に上陸。


泣く者あり。


二名、熱あり。


女の一人、名を言わず。


ハルは言った。


「子供たちは、ここに来たのか」


「来たかもしれない」


「そして消えた」


「違う」


ミナは石板に手を置いた。


「隠されたのかもしれない」


ハルは顔を上げた。


「誰に」


「総督から」


「海賊が子供を隠した?」


「悪人が、全部悪いとは限らない」


ハルは、墓石を見た。


名前のない二十七の石。


島では、彼らは悪魔のように語られていた。


聖女殺し号。


子供を攫う船。


夜に来る船。


しかし、ここには静かな石しかなかった。


骨は歌わない。


言い訳もしない。


嘘もつかない。


ただ、埋まっている。


ハルは言った。


「掘れば、分かるかもしれない」


ミナは首を振った。


「骨を掘るのは、最後でいい」


「なぜ」


「骨は逃げない」


ミナは立ち上がった。


「逃げるのは、生きている者の記録だ」


(第五話 了)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ