表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
青い島の朝――海賊の骨は歌わない  作者: Kentarou Tou / Kentarou Theater


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4/10

第四話「教会の地下」


地下には、さらに奥があった。


ハルも入ったことがなかった。


棚の後ろに、木の扉があった。


鍵は錆びていた。


ミナが、死体洗いに使う鉄の棒で鍵を叩いた。


一度。


二度。


三度。


鍵が落ちた。


ハルは言った。


「神父に怒られる」


「怒るなら、隠した者に怒ればいい」


扉の奥は、狭い部屋だった。


壁に十字架がかかっていた。


床に木箱がいくつも置かれていた。


その一つに、総督家の紋章があった。


ハルは箱を開けた。


中には、手紙が入っていた。


公文書ではなかった。


封印が切られていた。


宛名があった。


総督。


商人。


司祭。


同じ名前が、何度も出てきた。


ハルは読んだ。


読みながら、声が小さくなった。


ミナが言った。


「大きく読め」


「読まない方がいいかもしれない」


「読め」


ハルは読んだ。


そこには、島の借金のことが書かれていた。


不作。


嵐。


砂糖の失敗。


港の修理費。


兵への未払い。


そして、子供たち。


孤児。


混血児。


身寄りのない者。


総督は、その子供たちを島の外へ送ろうとしていた。


奉公に出すという名目だった。


しかし、金額が書かれていた。


一人につき銀貨いくら。


健康な者は高い。


熱のある者は安い。


女児は別価格。


ハルは手紙を置いた。


指が冷たくなっていた。


ミナは、手紙を取って読んだ。


読み終えると、別の手紙を開いた。


さらに読んだ。


顔色は変わらなかった。


「海賊は」


ミナが言った。


「子供を買ったのか」


ハルは首を振った。


「分からない」


「では、何をしに来た」


「取引は行われず、と日誌にはあった」


「総督の兵が港にいた、とも」


ミナは手紙を机に並べた。


「海賊が買いに来たなら、総督は兵を置かない」


「代金を奪われると思ったのかもしれない」


「それなら、取引はする」


ハルは黙った。


地下の空気は重かった。


蝋燭の火が揺れていた。


ミナは言った。


「海賊は、取引を止めに来たのかもしれない」


「海賊が」


「悪人が、別の悪を止めることもある」


「それだと、島の伝説と違う」


「伝説は、誰が作る」


ハルは答えなかった。


ミナは言った。


「勝った者だ」


ハルは、台帳を見た。


洗礼名。


死亡記録なし。


航海日誌。


総督の手紙。


紙の中で、百年前の島が動き始めていた。


ハルは、今まで記録を信じていた。


記録は、死者に残された最後の公平さだと思っていた。


しかし、記録を書いた者が嘘をつけば、紙は嘘を長生きさせる。


ハルは言った。


「僕は、何を書いてきたんだろう」


ミナは言った。


「今から、違うものを書けばいい」


「書けば変わるのか」


「死んだ者は変わらない」


ミナは手紙を畳んだ。


「でも、名前の置き場所は変えられる」


(第四話 了)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ