第7話 聖女様、寝癖にしては硬すぎます
翌朝。
俺は、妙な違和感で目を覚ました。
かごの中はいつも通りだった。
柔らかい毛布。
増やしてもらったふかふかの布。
ベッドの横に置かれた、俺専用の寝床。
昨日より環境はいい。
かなりいい。
正直、森の草むらで目覚めた初日と比べると、天国みたいな場所だった。
ただし、ここは神殿である。
神聖な空気が、今もじわじわ俺の体を刺激している。
天国みたいな場所という表現は、魔物の俺にとって少し洒落にならない。
「きゅ……」
俺はかごの中で体を起こした。
その瞬間、耳がぴくりと動いた。
音が多い。
昨日より、ずっと多い。
廊下を歩く靴音。
遠くで開く扉。
誰かが小声で祈る声。
水差しが机に置かれる音。
リリアの静かな寝息。
扉の外で立っているアリアの、鎧がかすかに鳴る音。
全部、聞こえる。
いや、昨日も聞こえていたのかもしれない。
でも今は、音の輪郭がはっきりしすぎている。
さらに、匂いも濃かった。
花の香り。
石の冷たさ。
リリアのローブについた淡い薬草の匂い。
アリアの剣油の匂い。
神殿の聖属性の匂い。
そして、昨日の地下倉庫で嗅いだ、湿った嫌な匂いの残り香。
俺は思わず顔をしかめた。
顔をしかめたつもりだった。
たぶん見た目は、少し鼻先をくしゃっとさせただけだ。
ステータス画面が開く。
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スキル:危険察知
状態:感覚調整中
効果:周囲の危険反応に対する感度が上昇しています。
注意:慣れるまでは、不要な刺激も拾いやすくなります。
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不要な刺激も拾いやすい。
それを先に言ってほしかった。
つまり、昨日手に入れた危険察知のせいで、俺の感覚が鋭くなっているらしい。
危険を察知できるのはありがたい。
しかし、朝から情報量が多すぎる。
人間だった頃に、寝起きでスマホの通知が百件来ているようなものだ。
いや、それよりきつい。
通知なら画面を閉じればいい。
この耳と鼻は閉じられない。
俺はかごの中で丸くなった。
情報を減らすためだ。
決して二度寝したいわけではない。
ない。
……少しある。
その時、ベッドの上でリリアが身じろぎした。
「ん……」
柔らかな声。
朝の光を受けた金髪が、枕の上でゆるく広がっている。
リリアはゆっくり目を開けた。
そして最初に俺を見る。
「ノア……おはようございます」
「きゅ」
おはようございます。
今日も生きています。
今のところ。
リリアは起き上がると、真っ先にかごの前へ来た。
寝起きなのに、俺を見た瞬間にふわっと笑う。
「よく眠れましたか?」
「きゅ」
眠れました。
ただ、夢で頭に角が生えていました。
たぶん不吉です。
リリアは俺の頭を撫でようとして、ふと手を止めた。
「……あら?」
俺は固まった。
あら?
その「あら」は何ですか?
かわいいものを見た時の「あら」ですか?
それとも異常に気づいた時の「あら」ですか?
リリアは俺の頭をじっと見つめた。
俺も動かない。
心臓がうるさい。
いや、魔物にも心臓があるのかは分からないが、とにかく胸の辺りが騒がしい。
リリアは小さく首を傾げた。
「ノア、少し寝癖がついていますね」
寝癖。
俺はゆっくり息を吐いた。
よかった。
リリア判定では寝癖らしい。
なら大丈夫だ。
この聖女が寝癖と言うなら、世界は寝癖で回る。
そう思った瞬間、扉が開いた。
「聖女様、朝のお支度を……」
入ってきたアリアの視線が、俺の頭で止まった。
沈黙。
長い沈黙。
俺は嫌な予感がした。
アリアはゆっくり近づいてくる。
「ノア」
「きゅ」
おはようございます。
何もありません。
「動かないでください」
命令された。
俺は固まった。
アリアは俺の前にしゃがみ、俺の頭を見た。
そして、指先でそっと触れる。
こつ。
小さな音がした。
こつ?
今、こつって鳴った?
毛ではない音がした。
アリアの表情が険しくなる。
「聖女様」
「はい」
「これは寝癖ではありません」
「頑固な寝癖ですか?」
「硬いです」
「では、かなり頑固な寝癖ですね」
「寝癖は硬質化しません」
アリアさん。
正論です。
正論ですが、もう少しだけ寝癖方向で粘ってください。
俺は自分の頭を確認したいが、前足では届かない。
いや、届いても見えない。
ステータス画面を開く。
---
状態:聖域適応中
進化ゲージ:49%
身体変化:頭部に微小な硬質突起を確認
備考:まだ角とは呼べません。
---
硬質突起。
やっぱり何か生えている。
ただし、まだ角とは呼べないらしい。
備考が妙に気を遣っている。
いや、呼べないだけで生えていることに変わりはない。
俺はかごの中で絶望した。
まずい。
第一進化前なのに、もう変化が出始めている。
アリアに気づかれた。
リリアは寝癖扱いしている。
この三者の温度差で風邪をひきそうだ。
リリアは俺の頭を優しく見つめた。
「でも、小さくてかわいいです」
「聖女様、かわいいかどうかと正体不明の突起が生えていることは別問題です」
「成長の証かもしれません」
「昨日も成長していました」
「成長期ですね」
「成長期で頭から硬いものは生えません」
「では、特別な成長期です」
「新しい概念を作らないでください」
アリアは朝から疲れていた。
リリアは朝からいつも通りだった。
俺は朝から終わりかけていた。
「きゅ……」
俺は小さく鳴いた。
アリアが俺を見る。
「痛みはありますか」
「きゅ?」
痛み。
そういえばない。
違和感はあるが、痛くはない。
俺は首を横に振りかけて、止まった。
反応しすぎると、知性を疑われる。
いや、もうかなり疑われている。
今さらか。
俺は控えめに首を横へ振った。
アリアの眉が動く。
「……やはり理解していますね」
しまった。
でもアリアはそれ以上追及しなかった。
「痛みがないなら、今すぐ切除などは必要ないでしょう」
切除。
怖すぎる単語が出た。
俺はかごの奥へ下がった。
「きゅう!?」
リリアが慌てて俺をかばうように手を出す。
「切ってはいけません」
「切りません。必要ないと言っただけです」
「ノアが驚いています」
「その反応も普通の獣より明らかに理解が早いのですが」
「賢い寝癖ですね」
「寝癖を主語にしないでください」
アリアが深く息を吐いた。
そして、俺の頭をもう一度確認する。
「司祭長に報告します」
俺は固まった。
司祭長。
あの、何かを見抜いていそうな老人。
高濃度聖属性の指先。
丸くなるでなんとか耐えた相手。
また会うのか。
嫌だ。
かなり嫌だ。
リリアも少し困った顔をした。
「司祭長に?」
「昨日の件もあります。黒牙鼠、腐食鼠、傷つけられた浄化印。それにノアの変化。無関係とは言い切れません」
アリアの言葉に、リリアの表情が真面目になる。
さすがに事件が絡むと、リリアもふわふわだけではいられないらしい。
「分かりました。朝の祈祷の前に、司祭長に報告しましょう」
「はい」
「ノアも一緒に」
「きゅう!?」
俺は思わず叫んだ。
行きたくない。
今すぐかごの底に沈みたい。
アリアが冷静に言う。
「当事者ですから」
当事者。
珍生物なのに。
当事者にされた。
リリアは俺を優しく抱き上げた。
「大丈夫ですよ、ノア。司祭長は怖くありません」
怖いです。
昨日から何度も言っていますが、怖いです。
俺はリリアの腕の中で丸くなった。
新しく生えた硬質突起が、布にこつんと当たる。
小さな感触。
夢で見た角。
まさか、本当に近づいているのか。
ステータス画面の進化ゲージは四十九%。
あと一%で半分。
嫌な予感がした。
◇
司祭長の執務室は、神殿の奥にあった。
高い天井。
壁一面の本棚。
古い羊皮紙の匂い。
窓から差し込む朝の光。
そして、部屋の中央に置かれた大きな机。
司祭長はその向こうで、静かに書類を読んでいた。
白い髭。
白と金の祭服。
穏やかな顔。
だが、目は相変わらず深い。
底が見えない。
「おはようございます、リリア様」
「おはようございます、司祭長」
「アリアも。昨夜はご苦労でした」
「はっ」
司祭長の視線が、リリアの腕の中の俺に落ちる。
「ノアも、よく眠れましたかな」
「きゅ……」
まあまあです。
頭に何か生えました。
司祭長は俺の頭を見た。
ほんの少しだけ眉が動く。
気づいた。
絶対気づいた。
アリアが一歩前に出る。
「司祭長。昨夜の地下倉庫の件、それからノアの変化について報告があります」
「聞きましょう」
アリアは簡潔に説明した。
孤児院の床下で黒牙鼠の毛を見つけたこと。
夜に神殿の地下倉庫を確認したこと。
黒牙鼠四体と腐食鼠一体を発見したこと。
排水路の浄化印が傷つけられていたこと。
そして、ノアが危険に反応して行動したこと。
最後に、今朝ノアの頭に硬質の突起が確認されたこと。
淡々としているが、内容だけ見るとかなり大ごとである。
俺はリリアの腕の中で小さくなっていた。
話が大きくなっている。
俺が一番避けたかった方向だ。
司祭長は静かに聞いていた。
途中で口を挟まない。
全部聞いた後、ゆっくりと俺を見た。
「ふむ」
ふむ、じゃない。
怖い。
「ノアの頭を見ても?」
リリアが俺を抱き直す。
「ノア、少しだけ見せてくださいね」
「きゅ……」
少しだけでお願いします。
高濃度聖属性タッチはやめてください。
司祭長は立ち上がると、俺に近づいた。
昨日と同じように、指先に静かな聖力が宿っている。
俺の危険察知が、ほんのり反応した。
---
危険察知:微反応
対象:司祭長の聖力
危険度:低〜中
推奨:長時間接触を避けてください。
---
やっぱり危険扱いだ。
司祭長の指は、ゆっくり俺の頭に近づく。
俺は反射的に丸くなりかけた。
だが、司祭長は触れる直前で手を止めた。
「……触れぬ方がよさそうですな」
お。
分かってくれた?
司祭長は目を細める。
「昨日、わしが触れた時も、ノアはずいぶん怯えておりました。聖力の刺激に敏感なのでしょう」
正解に近い。
かなり近い。
でも、魔物だからです。
そこまでは行かないでください。
リリアが心配そうに俺を見た。
「ノア、司祭長の聖力が苦手なのですか?」
「きゅ……」
苦手です。
かなり。
司祭長は穏やかに笑った。
「珍しい獣です。体質も珍しいのでしょう」
助かった。
珍しいで処理された。
この単語、本当に便利だ。
アリアはまだ納得していない顔だったが、反論はしなかった。
司祭長は机に戻り、古い本を一冊開いた。
「頭部に硬質突起を持つ小型獣は、いくつか記録があります。森兎の亜種、白角鼬、雪山に住む小型の角狐……」
司祭長がページをめくる。
「しかし、ノアのような白毛で、聖女様の治癒に耐え、なおかつ人の言葉に反応する個体は、記録にはありませんな」
人の言葉に反応する。
そこも記録しているのか。
俺は視線をそらした。
リリアが嬉しそうに言う。
「ノアは賢いですから」
「ええ。賢いことは良いことです」
司祭長は穏やかに頷く。
アリアがぼそりと言う。
「程度によります」
昨日も聞いた気がする。
司祭長は少し考えた後、リリアに向き直った。
「リリア様。ノアについては、引き続きあなたのもとで保護して構いません」
よかった。
とりあえず処分も隔離もない。
「ただし、いくつか条件をつけましょう」
条件。
来た。
俺は耳を立てた。
「一つ。ノアを神殿内で自由に歩かせないこと」
はい。
元々そんなに歩きたくありません。
「二つ。変化があれば、すぐアリアか私に報告すること」
これはまずい。
今後も変化する予定しかない。
「三つ。昨日のような危険箇所への同行は、アリアが必要と判断した場合のみにすること」
これはありがたい。
無理やり連れて行かれる機会が減るかもしれない。
「四つ。ノアのことを、外部に必要以上に話さないこと」
それ。
それが一番大事。
俺は心の中で司祭長に拍手した。
外部に話さない。
大ごとにしない。
すばらしい。
司祭長、意外と味方かもしれない。
リリアは頷いた。
「分かりました。ノアが怖がらないようにします」
たぶん論点は少し違う。
だが、結果は同じなのでいい。
アリアも頷く。
「承知しました」
司祭長は俺を見た。
「ノア」
「きゅ?」
「あなたも、無茶をせぬように」
あなたも。
やはり、この人は俺の理解力をかなり見抜いている。
俺は小さく鳴いた。
「きゅ」
無茶はしたくありません。
周囲がさせてくるだけです。
司祭長は静かに笑った。
その笑みは穏やかだったが、少しだけ何かを隠しているようにも見えた。
俺はこの人が怖い。
でも、今すぐ敵ではない。
それだけは分かった。
◇
報告が終わった後、リリアは朝の祈祷へ向かった。
俺は連れて行かれなかった。
司祭長の条件のおかげである。
代わりに、俺はリリアの部屋へ戻された。
護衛兼監視はアリア。
また二人きりである。
いや、一人と一匹か。
それとも一人と一珍生物か。
リリアがいない部屋は静かだった。
俺はかごの中に戻り、頭の突起が毛布に当たらないように気をつけて丸くなる。
アリアは机の近くに立っていた。
しばらく無言だったが、やがて口を開いた。
「ノア」
「きゅ」
「昨日、あなたを少しだけ信用すると言いました」
言ってました。
少しだけ。
「その評価は、今のところ変わりません」
上がってはいないらしい。
まあ、そうだろう。
朝起きたら頭に硬いものが生えていた珍生物を、すぐに信用しろという方が無理だ。
アリアは続ける。
「ですが、司祭長もあなたを保護対象として扱う判断をしました。ならば、私もそれに従います」
「きゅ」
ありがとうございます。
「ただし」
来た。
「聖女様に危険が及ぶ兆候があれば、私はあなたを拘束します」
拘束。
怖い単語だ。
この世界に来てから、処分、切除、拘束と怖い単語が順調に増えている。
俺はかごの中で小さく丸まった。
アリアはそれを見て、少しだけ息を吐いた。
「怖がらせたいわけではありません」
え。
そうなのか。
「私は聖女様を守るためにいます。あなたが何者であっても、それは変わりません」
「きゅ……」
アリアの声は、昨日と同じく真面目だった。
厳しい。
でも、理不尽ではない。
この人の中心には、いつもリリアがいる。
「……それに」
アリアは少しだけ視線をそらした。
「あなたが昨日、聖女様を守ろうとしたことも、事実です」
俺は耳を動かした。
「だから、私も無闇にあなたを傷つけるつもりはありません」
「きゅ」
ありがとうございます。
今度は、意識して少しだけ頭を下げた。
アリアはそれを見て、苦笑に近い表情を浮かべた。
「やはり、理解していますね」
もう隠しきれない気がする。
ただしアリアは、それをリリアのように「賢いですね」で済ませない。
かといって、今すぐ問題にもしない。
彼女は俺の理解力を知った上で、監視している。
俺にとっては怖いが、ある意味では話が早い相手でもある。
アリアはかごの前にしゃがんだ。
「ノア」
「きゅ?」
「聖女様を傷つけるつもりはありますか?」
俺は即座に首を横に振った。
今度は隠さなかった。
アリアの目が細くなる。
「そうですか」
短い返事。
でも、その声は少しだけ柔らかかった。
「なら、今はそれで十分です」
アリアは立ち上がった。
俺は少しだけ力を抜いた。
少しだけ。
アリアとの距離は、昨日よりは縮まった気がする。
まだ信用されてはいない。
でも、敵ではない。
それだけで十分だった。
その時、危険察知がかすかに反応した。
ほんの小さな、針でつつくような感覚。
俺は耳を立てる。
アリアがすぐに気づいた。
「何かありますか」
俺は周囲を見回す。
部屋の中ではない。
廊下でもない。
もっと遠い。
神殿の奥。
昨日の地下倉庫とは違う方向。
かすかな嫌な気配。
---
危険察知:微反応
位置:神殿奥/詳細不明
危険度:低
備考:現在、直接的な危険はありません。
---
直接的な危険はない。
だが、何かある。
俺は神殿の奥の方を見た。
アリアもそちらを見る。
「……またですか」
「きゅ……」
またみたいです。
正直、俺も嫌です。
アリアはしばらく考えた後、言った。
「今は動きません。司祭長の条件もあります」
助かった。
すぐ突撃しない。
非常にありがたい。
「ただし、後で報告します」
はい。
それでお願いします。
俺はかごの中で丸くなった。
危険察知を手に入れたことで、確かに少し安心できるようになった。
でも同時に、今まで気づかなかった危険まで見えるようになってしまった。
傘を手に入れたと思ったら、空の黒い雲まで全部見えるようになった気分だ。
便利だけど、落ち着かない。
その後、リリアが祈祷から戻るまで、特に何も起きなかった。
ただ、俺の頭の硬質突起は消えなかった。
それどころか、リリアに撫でられるたびに少しだけ存在感を増している気がした。
「ノア、本当にかわいい寝癖ですね」
「きゅ……」
寝癖ではありません。
たぶん、角の赤ちゃんです。
言えないけど。
リリアは俺を抱き上げて、楽しそうに笑った。
「このまま伸びたら、もっと個性的になりますね」
ならないでほしい。
いや、たぶん伸びる。
俺の中で進化ゲージはじわじわ動いていた。
---
聖属性微量接触を確認しました。
進化ゲージ:49% → 50%
---
半分。
ついに半分まで来た。
その瞬間、体の奥が一度だけ、どくんと震えた。
俺はリリアの腕の中で固まる。
ステータス画面に、新しい文字が浮かぶ。
---
進化ゲージが50%に到達しました。
第一進化の予兆が始まります。
身体変化が段階的に進行します。
---
予兆。
始まります。
やっぱり、これは始まりだった。
俺は恐る恐るリリアを見る。
リリアは俺の頭を見て、満面の笑みを浮かべていた。
「ノア、朝より少しだけ寝癖が立派になりましたね」
立派になりましたね、じゃない。
アリアが横から低く言う。
「聖女様、それはもう寝癖ではありません」
「では、個性ですね」
「便利な言葉に逃げないでください」
俺は小さく鳴いた。
「きゅ……」
第一進化まで、あと半分。
しかし俺の体は、もう少しずつ変わり始めている。
聖女リリアは、それを寝癖と呼んだ。
アリアは、それを異常と見た。
そして俺だけが、それが進化の予兆だと知っていた。
このまま進めば、俺はきっと大きく変わる。
問題は、その時まで俺が「珍しい小動物」でいられるかどうかだ。
いや。
リリアの中では、たぶん大丈夫だ。
角が伸びても、体が大きくなっても、翼が生えても。
この聖女はきっと言う。
個性的ですね、と。
俺はリリアの腕の中で、もう一度小さく鳴いた。
「きゅ」
頼むから、せめて第一進化までは騒ぎになりませんように。
そう願った直後。
危険察知が、神殿の奥でまた小さく震えた。




