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第28話 聖女様、少し個性的な猫の扱いを会議します

 俺は今、神殿の会議室にいる。


 しかも議題は俺である。


 白銀の幼聖魔獣。


 特殊進化個体。


 角あり。


 銀紋あり。


 翼未満あり。


 鳴き声は「きゅ」。


 リリア認定では、少し個性的な猫。


 どう考えても、普通に扱っていい存在ではない。


 だが、俺としては声を大にして言いたい。


 俺は会議にかけられたくない。


 猫なら会議にかけないでほしい。


 いや、猫じゃないけど。


 でも、リリア基準では猫なのだ。


 その設定をもっと活かしてほしい。


 俺はリリアの膝の上……ではなく、会議用に用意された低い結界台の上にいた。


 進化後の体はまだ安定化中なので、普通の床に長時間いるのは避けた方がいいらしい。


 結界台の上には、新しく仕立て直された毛布が敷かれている。


 聖女の手作り毛布・改。


 ステータス画面で正式にそう表示された毛布だ。


 今の俺の体に合わせて、背中の翼未満に当たらないよう余裕があり、尻尾も出せる。


 角に引っかからないよう、前側も少し開いている。


 もはや装備品である。


 俺はその毛布の上で、できるだけ小さく丸まっていた。


 小さく。


 小さく見えるように。


 だが、進化前より二回りほど大きくなったせいで、以前のような子猫感は薄れている。


 今は小型犬くらいの白い何かだ。


 少し個性的な猫というには、かなり厳しい。


 でも、リリアは俺の横に座り、当然のように言った。


「ノアは、少し個性的な猫です」


 会議室が静まり返った。


 重い沈黙だった。


 司祭長。


 アリア。


 神官長。


 侍女長。


 結界担当の神官。


 医療担当の神官。


 警備隊の責任者。


 全員が、俺を見た。


 俺は鳴いた。


「きゅ……」


 見ないでください。


 そんな目で見ないでください。


 俺もそこまで猫だとは思っていません。


 でも、リリアが言い張っているので、できれば合わせてください。


 アリアが静かに口を開いた。


「聖女様」


「はい」


「猫は、通常、角を持ちません」


「はい」


「全身に銀紋もありません」


「はい」


「背中に翼状の器官もありません」


「はい」


「鳴き声も、にゃあではありません」


「少し個性的な鳴き声です」


「個性的すぎます」


 その通りです。


 そこは俺も認める。


 にゃあ、ではない。


 きゅ、である。


 猫として押し通すには、鳴き声の時点でだいぶ無理がある。


 アリアはさらに続けた。


「魔性干渉を変換したり、聖力糸と接続して進化したりもしません」


「はい」


「では、猫ではないのでは」


 かなり正論だった。


 誰が聞いてもそうだと思う。


 俺もそう思う。


 だが、リリアは少し考えてから言った。


「でも、ノアは猫に似ています」


 似ている。


 だいぶ後退した。


 猫です、から、猫に似ています、になった。


 それでも粘っている。


 アリアは俺を見た。


 白い毛。


 丸くなった姿勢。


 尻尾。


 そして、角。


 銀紋。


 翼未満。


 アリアはほんの少しだけ間を置いてから言った。


「似ている部分は、白い毛並みと、丸まる仕草くらいです」


「大切な部分です」


「否定はしませんが、分類には不十分です」


「では、猫に似たノアです」


 新しい分類が生まれた。


 猫に似たノア。


 それはもう、分類ではなく名前なのではないか。


 司祭長が白い髭に手を当てながら、ゆっくりと言った。


「正式な記録上は、特殊進化個体として扱う必要があります」


 ですよね。


 リリアが少しだけ眉を下げる。


「特殊進化個体……」


「ええ。魔物ではない、と断定するには慎重さが必要です。しかし、通常の魔物とも明らかに異なる。聖力への適応、魔性干渉への抵抗、そして聖女様との接続安定。どれも前例がありません」


 前例がありません。


 また出た。


 俺はもう、この言葉を聞くと少し身構えるようになっている。


 前例がない。


 記録にない。


 つまり面倒。


 だいたいそういう流れだ。


 神官長が硬い表情で俺を見た。


 彼はリーネ事件で疑いを向けられていた人物だ。


 今は潔白が確認されているが、神殿内の混乱はまだ完全には収まっていない。


「司祭長。神殿としては、ノアを公にするわけにはいきません」


 神官長は慎重に言葉を選んだ。


「聖女様のそばに、正体不明の特殊個体がいる。しかも進化した。そう広まれば、神殿内外に混乱が生じます」


 その通りだ。


 俺は毛布の上で耳を伏せた。


 すでに神殿内ではかなり噂になっているだろう。


 白い珍生物。


 聖女の部屋。


 リーネ事件。


 ガルディアス。


 第一進化。


 情報が漏れたら、とんでもないことになる。


 聖獣扱いされるのも困る。


 魔物扱いされるのも困る。


 珍しい猫扱いは無理がある。


 詰んでないか?


 俺は小さく鳴いた。


「きゅう……」


 リリアがすぐにこちらを見る。


「ノア、不安ですか?」


「きゅ」


 はい。


 かなり。


 リリアは俺に向けて、細い聖力糸を少しだけ揺らした。


 今は低出力で接続している。


 進化後、完全に切っても大丈夫かどうかはまだ試していない。


 だが、細い糸だけでも十分安定している。


 痛くない。


 温かい。


 俺は前足をその糸に重ねる。


 少し落ち着く。


 リリアは会議室の面々に向き直った。


「ノアを危険な存在として扱うことには反対です」


 声は柔らかい。


 だが、はっきりしていた。


「ノアは、何度も私を守ろうとしてくれました。ガルディアスの干渉も拒みました。器にならないと、自分で選びました」


 俺はリリアを見た。


 自分で選んだ。


 そうだ。


 俺は選んだ。


 ガルディアスの器にならない。


 リリアを守りたい。


 でも、自分を捨てない。


 ノアのまま強くなる。


 その道を選んだ。


 リリアはそれを、ちゃんと覚えてくれている。


「だから、ノアを封じることも、隔離することも、私は望みません」


 会議室がさらに重くなる。


 封じる。


 隔離する。


 その可能性があったのだろう。


 いや、当然ある。


 神殿側からすれば、俺は危険物かもしれない。


 ガルディアスに狙われている。


 正体不明。


 進化する。


 聖力と魔性の両方に関わる。


 封じたくなる気持ちは分かる。


 分かるが、俺としては絶対に嫌だ。


 また狭い箱の中に入れられるのは嫌だ。


 黒い石の声がした封印箱を思い出す。


 俺は無意識に毛布へ身を沈めた。


「きゅ……」


 アリアが俺を見る。


 その目は冷静だったが、以前ほど冷たくはない。


「ノアは隔離を嫌がっています」


 通訳された。


 正しい。


 ものすごく正しい。


 司祭長が頷く。


「隔離は、むしろ危険でしょう。ガルディアスは閉じた構造を利用する。ノアを強く封じれば、その封じ目を逆に使われる可能性があります」


 助かった。


 司祭長が味方に回ると強い。


 神官長が眉を寄せる。


「では、どう扱うのですか。聖女様の部屋に置き続けるのですか」


「今は、それが最も安定しています」


 司祭長は静かに答えた。


「リリア様との接続がノアの安定に関わっている。無理に離すべきではない」


 神官長は難しい顔をした。


「しかし、聖女様への負担が大きすぎます」


 それは本当にそう。


 俺はリリアを見た。


 リリアは休んだとはいえ、まだ完全には回復していない。


 顔色も少し白い。


 俺のために聖力糸を維持し続けるのは、明らかに負担だ。


 ここは俺も何とかしたい。


「きゅ」


 俺は鳴いた。


 リリアが首を傾げる。


「ノア?」


 俺は前足に触れている聖力糸を見て、それから少しだけ離してみた。


 糸から前足を浮かせる。


 ちり、とわずかな喪失感。


 だが、痛みはない。


 体も崩れない。



聖力接続:一時低下


状態:安定



 いける。


 俺はもう一歩、いや前足一つ分だけ糸から離れた。


 リリアが少し不安そうにする。


 俺も怖い。


 だが、体は安定している。



聖力接続:微弱


状態:安定



 大丈夫だ。


 進化前なら危なかった。


 でも、今は耐えられる。


 俺は小さく鳴いた。


「きゅ」


 少しなら離れても大丈夫です。


 リリアの顔が明るくなる。


「ノア、糸を弱めても大丈夫なのですね」


「きゅ」


 はい。


 たぶん。


 司祭長が目を細めた。


「なるほど。進化後、リリア様との接続は必須ではなくなりつつある。ただし、完全に不要ではない」


 アリアが問う。


「つまり?」


「一定時間なら離れても安定する可能性があります。ですが、精神的な安定や外部干渉への抵抗には、リリア様との関係性がまだ大きく影響している」


 それは分かる。


 ステータス画面にも関係性補正が出ていた。


 リリアが近くにいるだけで、俺は安定する。


 糸がなくても、声や気配が支えになる。


 神官長は少し考え込んだ。


「ならば、聖女様の負担を減らすため、接続時間を管理するべきです」


 アリアが頷く。


「賛成です。聖女様が無理をしない仕組みが必要です」


 リリアが何か言いかけた。


 俺とアリアが同時に見た。


 リリアは口を閉じた。


 そして、言い直した。


「……私も、管理された方がよいと思います」


 えらい。


 本当にえらい。


 俺は感動した。


 聖女様が自分の無理を認めた。


 これは大きい。


 アリアも満足そうに頷く。


「よろしいです」


 完全に保護者である。


 リリアの護衛というより、生活指導の先生みたいになってきた。


     ◇


 会議は、俺の扱いについてさらに続いた。


 まず、外部には公表しない。


 これは満場一致だった。


 神殿内にも、詳細は伏せる。


 表向きには、リリアが森で保護した珍しい小動物が、聖力環境に適応して少し姿を変えた、ということにするらしい。


 かなり無理がある。


 でも、リリアは嬉しそうだった。


「では、やはり少し個性的な猫ということで」


 神官長が頭を抱えそうになった。


「聖女様、その表現は正式文書には使えません」


「なぜですか?」


「猫ではないからです」


「猫に似ています」


「似ている、では文書上の分類になりません」


「では、猫型保護個体」


 お。


 少しそれっぽい。


 神官長が微妙な顔をした。


「……猫型、という表現も誤解を招きます」


 司祭長が助け舟を出す。


「神殿内記録では『白銀個体ノア』としておきましょう」


 白銀個体ノア。


 少し格好いい。


 いや、格好よすぎて落ち着かない。


 俺は小さく鳴いた。


「きゅ……」


 リリアが俺を見る。


「ノアは、少し恥ずかしそうです」


 分かるのか。


 分かるよな。


 アリアが言った。


「では、通常会話ではノア。公式記録では白銀個体ノア。外向きには保護個体。この三段階でどうでしょう」


 できる女だ。


 整理が早い。


 神官長も頷いた。


「妥当でしょう」


 リリアが小さく手を挙げた。


「私は、ノアと呼びます」


「それは問題ありません」


 アリアが即答する。


「猫とも呼びます」


「……正式な場以外であれば」


 アリアが譲歩した。


 リリアが少し嬉しそうにする。


 俺は毛布の上で小さく息を吐いた。


 よかった。


 猫呼びが残った。


 いや、喜ぶところなのかは分からない。


 でも、リリアに白銀個体と呼ばれるよりは、猫の方がずっといい。


 白銀個体ノア。


 それは遠い。


 ノア。


 それがいい。


 少し個性的な猫。


 かなり無理はある。


 でも、リリアの声で言われるなら悪くない。


 次に決まったのは、俺の居場所だった。


 基本はリリアの部屋。


 ただし、警備を継続。


 窓、扉、床下、壁面聖印の旧修復痕はすべて再確認。


 神殿の古い接続部を洗い出し、ガルディアスが利用できないよう順に封じる。


 俺の結界台も、常設のものに更新される。


 毛布は正式に安定補助具として扱う。


 毛布が正式装備になった。


 どういうことだ。


 司祭長が真面目に言う。


「ノアの精神安定に明らかに寄与しています。中立紋も織り込まれている。立派な補助具です」


 立派な補助具。


 聖女の手作り毛布・改が、神殿公認補助具になった。


 俺はもう何も言えなかった。


 リリアはとても嬉しそうだった。


「では、もう一枚作った方がいいですね」


 アリアが即座に反応する。


「聖女様は休んでからです」


「はい」


 即答。


 えらい。


 でも、もう一枚作るつもりではあるらしい。


 俺は複雑だった。


 欲しい。


 正直、欲しい。


 でも、リリアには休んでほしい。


 この矛盾。


 俺は毛布の上で悩んだ。


「きゅう……」


 リリアが柔らかく笑う。


「大丈夫です。無理せず作ります」


 その大丈夫は許すべきか?


 いや、文脈的にはまだ危ない。


 俺がじっと見ると、リリアは慌てて言い直した。


「無理だと思ったら、すぐ休みます」


「きゅ」


 よし。


 許します。


 アリアが小さく頷いた。


「ノアの許可制になっていますね」


 なっていますね。


 俺もそう思います。


     ◇


 会議の終盤、空気が少し重くなった。


 議題はガルディアス。


 二十年前に追放された魔性研究者。


 俺を器と呼び、リリアを狙い、神殿の古い傷を利用して干渉してきた男。


 今回の進化干渉は退けた。


 だが、倒したわけではない。


 むしろ、これからが本番だと司祭長は言った。


 神官長が低い声で問う。


「ガルディアスの目的は、ノアだけでしょうか」


 司祭長はすぐには答えなかった。


 少し考え、リリアを見て、俺を見た。


「当初は、ノアを器として狙っていたと思われます。ですが、最後の言葉が気になります」


 次は、聖女の側から開かせる。


 その言葉を思い出し、俺の背中がぞわりとした。


 翼未満がぴくっと動く。


 やめろ。


 感情で動くな。


 会議中だぞ。


 アリアが俺を見た。


 見られた。


 恥ずかしい。


 だが、誰も笑わなかった。


 それだけ言葉が重いのだ。


 司祭長は続ける。


「ガルディアスは、リリア様の聖力を媒介にして、ノアを開かせようとした。しかしノアはそれを拒んだ。ならば次は、リリア様自身の聖力、あるいは聖女としての立場を利用する可能性があります」


 リリアは静かに聞いていた。


「私が狙われる、ということですね」


「ええ」


 アリアの表情が険しくなる。


「護衛体制を強化します」


「必要でしょう。ただし、過剰な聖結界は逆利用される恐れがあります。これまで通り、強く閉じるのではなく、流れを鈍らせ、分け、封じる結界を使うべきです」


 アリアが頷く。


「承知しました」


 俺はリリアを見る。


 リリアは怖がっていないわけではない。


 表情の奥に、不安はある。


 だが、それを隠して平気な顔をしているわけでもない。


 ちゃんと怖いと分かっていて、その上で前を見ている。


 リリアは成長している。


 いや、元から強かったのだろう。


 俺がそれに気づけるようになっただけかもしれない。


「ノア」


 リリアが俺の名を呼んだ。


「きゅ」


 はい。


「心配してくれているのですね」


「きゅ」


 しています。


 かなり。


「ありがとうございます」


 リリアは微笑む。


「でも、ノアも一人で背負わないでください」


 俺は黙った。


 それを言われると弱い。


 リリアのことばかり心配しているが、俺も無茶をする。


 ガルディアスにそこを狙われた。


 聖女を守りたいなら器になれ。


 その誘導に、俺は揺れた。


 これからも、きっと揺れる。


 だからこそ、リリアは言うのだ。


 一人で背負うなと。


 アリアも静かに言った。


「ノア。聖女様を守るのは、あなた一人の役目ではありません」


 俺はアリアを見る。


「私もいます。神殿の警備も、司祭長もいます。あなたが無理をして倒れれば、聖女様も悲しみます」


 正論。


 本当に正論。


 アリアはいつも正しい。


 たまに怖いくらい正しい。


 俺は小さく鳴いた。


「きゅ……」


 分かりました。


 たぶん。


 リリアが少しだけ笑う。


「たぶん、ですね」


 バレている。


 俺の鳴き声、もはや筒抜けでは?


 司祭長が会議をまとめる。


「では、当面の方針を確認します。ノアはリリア様の保護下に置く。ただし、神殿として白銀個体ノアを正式に記録し、警備と結界を整える。外部には公表しない。ガルディアス対策として、神殿の旧接続部を洗い出す」


 神官長が頷いた。


「異論ありません」


 アリアも頷く。


「聖女様の護衛体制は私が再編します」


 侍女長も静かに言った。


「ノアの毛布と寝床は、こちらで整えます」


 毛布と寝床。


 重要。


 かなり重要。


 俺は小さく鳴いた。


「きゅ」


 お願いします。


 リリアが嬉しそうに通訳する。


「ノアがお願いしますと言っています」


 侍女長は真剣に頭を下げた。


「承りました」


 重い。


 やっぱり扱いが重い。


 だが、前よりは怖くない。


 封じるためではない。


 追い出すためでもない。


 俺をリリアのそばに置きながら、守るための会議だった。


 それが分かるから、少しだけ安心できた。


     ◇


 会議が終わり、俺はリリアの部屋へ戻ることになった。


 歩く練習を兼ねて、自分で移動するかどうか一瞬考えた。


 だが、結論は早かった。


 無理。


 今の体で廊下を歩いたら、絶対によろける。


 しかも神殿内の人に見られる。


 白銀の角と翼未満を持つ小型犬サイズの猫っぽい何かが、よろよろ歩く姿。


 噂になる。


 いや、もうなっているかもしれないが、さらにひどくなる。


 というわけで、俺は専用の運搬かごに入れられた。


 進化前のかごでは小さすぎたため、急遽、大きめの柔らかいかごが用意された。


 毛布つき。


 中立紋つき。


 尻尾用の余裕あり。


 なんだこの待遇。


 リリアがかごを見て嬉しそうに言う。


「ノア、新しいかごです」


「きゅ……」


 ありがとうございます。


 でも、少し複雑です。


 アリアが淡々と言う。


「歩行が安定するまでは必要です」


 はい。


 分かっています。


 俺は大人しくかごに入った。


 リリアが隣を歩く。


 アリアが前。


 神官兵が後ろ。


 司祭長も少し離れてついてくる。


 護送?


 いや、保護移動。


 たぶん保護移動。


 廊下に出ると、遠巻きに何人かの神官や侍女がこちらを見ていた。


 視線。


 好奇心。


 驚き。


 少しの恐れ。


 俺は毛布の中に少し沈んだ。


 やっぱり見られる。


 リリアがそれに気づいたのか、かごの横でにこりと微笑んだ。


「ノアは、少し個性的な猫です」


 廊下の空気が固まった。


 俺も固まった。


 今ここで言うのか。


 いや、リリアなりに俺を安心させようとしてくれているのだろう。


 だが、周囲の人たちの反応がすごい。


 少し個性的。


 猫。


 誰も突っ込めない。


 アリアが小さく息を吐いた。


「……聖女様、廊下ではもう少し表現を抑えてください」


「では、ノアです」


「それでお願いします」


 最初からそれでいいと思う。


 でも、少し笑いそうになった。


 怖い視線の中で、リリアの無理のある猫認定が、なぜか俺を守ってくれている。


 ガルディアスは俺を白い獣と呼んだ。


 器と呼んだ。


 神殿は白銀個体ノアと記録する。


 でも、リリアは少し個性的な猫と言う。


 無茶苦茶だ。


 でも、その無茶苦茶さが、俺をただの危険物にしない。


 俺は小さく鳴いた。


「きゅ……」


 リリアがこちらを見る。


「はい。帰りましょう、ノア」


 帰る。


 リリアの部屋へ。


 俺の毛布がある場所へ。


 まだ安全とは言えない。


 ガルディアスは見ている。


 次はリリアを狙う。


 問題は山ほど残っている。


 だが、それでも。


 俺には帰る場所ができた。


 会議で決まったからではない。


 リリアがノアと呼んでくれるからだ。


 俺はかごの中で、少しだけ体を丸めた。


 聖女様。


 俺は正式に白銀個体ノアになりました。


 でも。


 あなたが少し個性的な猫だと言い張ってくれるなら。


 俺はもう少しだけ、その無理な分類に甘えてみようと思います。

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― 新着の感想 ―
第一章完結お疲れ様です。 私は続きを読みたいです。 ノアがどんな姿になるのか、肩書はこの後どれだけ増えるか、ハラハラするが期待もする。聖女の成長にも期待大。
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