第27話 聖女様、珍生物はノアとして目を覚まします
目を覚ました。
……いや、正確には、目が覚めたというより、意識が浮かび上がった。
どれくらい眠っていたのかは分からない。
ただ、今度の眠りは黒煙によるものではなかった。
ガルディアスの声も聞こえない。
頭の奥に、嫌な黒いざらつきもない。
体は重い。
だが、それは危険な重さではなく、単純に疲れ切ったあとの重さだった。
久しぶりに、ちゃんと休めた気がする。
俺はゆっくり目を開けた。
視界に入ったのは、白い天井。
神殿の聖印。
柔らかく抑えられた聖灯の光。
それから、俺の前足に細く触れている聖力糸。
糸はまだあった。
ただし、進化前よりずっと細い。
ほとんど、白い髪の毛みたいな光だ。
それでも、ちゃんとリリアの気配がする。
痛くない。
熱くない。
少しだけ温かい。
俺は前足を動かし、糸にそっと触れた。
「きゅ……」
声が出た。
やっぱり、鳴き声は「きゅ」だった。
ただ、響きは前より澄んでいる。
自分の声なのに、まだ少し慣れない。
小さな鈴のような余韻が、部屋の空気に溶けていく。
その声に反応して、すぐ近くでリリアが顔を上げた。
「ノア、起きましたか?」
リリアは椅子に座っていた。
目元には疲れが残っている。
髪も少し乱れている。
それでも、俺を見る表情は柔らかかった。
眠っていたのだろうか。
いや、たぶん少しは休んだのだと思う。
でも、完全に寝ていた感じではない。
聖力糸を維持したまま、浅く休んでいたのだろう。
また無理をしている。
そう思った瞬間、リリアが先に言った。
「私は、ちゃんと休みました」
「きゅ」
本当ですか?
疑いの声が出た。
リリアは少しだけ目をそらした。
「……少しは」
少しは。
やっぱり。
俺はじっと見た。
リリアは困ったように微笑む。
「ノアに疑われています」
アリアの声が横から飛んできた。
「疑われて当然です」
アリアは扉の近くではなく、部屋の中央寄りに立っていた。
剣は鞘に収まっている。
だが、いつでも抜ける位置に手がある。
顔には疲労が見えるが、姿勢は崩れていない。
「聖女様は休んだと言いますが、実際には短い仮眠を二度取っただけです」
「アリア」
「事実です」
リリアは少しだけしゅんとした。
俺は低く鳴いた。
「きゅう……」
ちゃんと休んでください。
頼むから。
リリアは小さく頷いた。
「はい。ノアが安定しているなら、もう少し休みます」
アリアがすぐに言った。
「今です」
「え?」
「もう少し、ではなく今です」
「でも、ノアが起きたばかりで」
「ノアは今、聖女様に休めと言っています」
アリアさん。
完璧な通訳です。
俺は鳴いた。
「きゅ」
その通りです。
リリアは俺とアリアを交互に見て、諦めたように息を吐いた。
「分かりました。では、ノアの様子を確認したら休みます」
「確認が長くならないようにしてください」
「はい」
本当にこの聖女様は、見張りがいないと自分を後回しにする。
そして今、その見張り役に俺も加わっているらしい。
進化した珍生物の最初の仕事が、聖女様の休憩管理。
どういう立場なのだろう。
◇
俺は体を起こそうとした。
そして、すぐに失敗した。
「きゅっ」
前足に力を入れた瞬間、体が予想より前へ出た。
尻尾で支えようとしたら、尻尾が前より長くて、思った場所に来ない。
背中の翼未満が毛布に引っかかり、体が少し横へ傾く。
結果、俺は結界台の上で、もぞもぞと不格好に転がった。
恥ずかしい。
進化して強そうな見た目になったはずなのに、起き上がることすら満足にできない。
鏡で見た姿は、白銀の角と銀紋と翼未満のある特殊進化個体だった。
でも中身は、まだこの体の操作を知らない。
リリアが慌てて手を伸ばしかけ、途中で止めた。
俺の聖属性耐性は上がったが、進化直後に不用意に触れるのは避けた方がいいと司祭長に言われているのだろう。
代わりに、聖力糸をほんの少し太くして、俺の前足を支えてくれた。
「ノア、ゆっくりです」
「きゅ……」
はい。
分かっています。
でも、体が分かっていません。
俺は慎重に前足を置き直した。
前より長い。
前より力が入る。
そのせいで、少し動くだけで体が大きく動く。
次に後ろ足。
これも前と感覚が違う。
尻尾。
長い。
重心が後ろに流れる。
背中の薄い膜。
邪魔。
いや、もしかすると役に立つのかもしれない。
でも今は邪魔。
俺はなんとか座る姿勢になった。
「きゅ……」
できた。
ただ座っただけなのに、達成感がすごい。
リリアが小さく拍手しそうな顔をした。
だが、アリアの視線に気づいて手を止める。
「ノア、上手です」
いや、座っただけです。
でも、褒められると悪い気はしない。
俺は少しだけ胸を張った。
その瞬間、背中の翼未満がぴくりと動いた。
「きゅっ!?」
動いた。
今、勝手に動いた。
リリアの目が輝く。
「ノア、背中の個性が動きました」
個性が動くという表現。
だいぶ無理がある。
アリアが冷静に言う。
「翼状の器官が反応しました」
「個性です」
「器官です」
「大切な個性です」
「……機能の確認は必要です」
アリアが折れたのか折れていないのか分からない着地をした。
俺は背中に意識を向ける。
動け。
そう思う。
ぴく。
薄い膜が少しだけ震えた。
おお。
動く。
もう一度。
ぴこ。
片側だけ動いた。
左右同時に動かすのは難しいらしい。
これは翼なのか。
飛べるのか。
いや、この大きさでは無理だろう。
体重を支えるほど大きくない。
たぶん、滑空すら無理。
現状は、感情表現用の飾りに近い。
いや、そう思いたい。
下手に飛べると、また仕事が増える。
危険な場所へ飛ばされる未来が見える。
やめてほしい。
「きゅう……」
俺が不安げに鳴くと、リリアが優しく言った。
「大丈夫です。すぐに飛ばなくてもいいですよ」
飛ぶ前提で話さないでほしい。
アリアも真面目に頷く。
「飛ぶとしても、室内では危険です」
だから飛ばない。
飛べない。
たぶん。
司祭長は机の前で記録を取っていた。
「翼状器官は小型。現時点では飛行能力は低い、あるいは未発達と考えられますな」
よかった。
飛べないらしい。
いや、少し残念な気もする。
でも、今はよかった。
司祭長はさらに俺を観察する。
「ただし、聖力の流れを受ける器官として機能している可能性はあります。単なる飛行用ではないかもしれません」
単なる飛行用ではない。
つまり、また特殊な機能があるかもしれない。
やめて。
今は自分の足で立つ練習だけで十分です。
新機能の検証とか、今日は無理です。
俺ははっきり鳴いた。
「きゅう」
嫌です。
今はやりません。
リリアがすぐに頷いた。
「ノア、今は検査されたくないそうです」
司祭長は苦笑した。
「もちろんです。進化直後ですからな。観察だけに留めます」
よかった。
観察だけでも少し嫌だが、検査よりはましだ。
◇
問題は毛布だった。
リリアの手作り毛布。
俺の臨界安定を支え、ガルディアスの干渉に対抗し、進化直前には聖魔変換膜と連動までした、あの毛布。
だが、今の俺には小さい。
かなり小さい。
背中にかけると翼未満に引っかかる。
体を丸めると尻尾がはみ出る。
角用の余裕も、今の角には足りない。
進化前の俺に合わせて作られたものだから当然だ。
リリアは毛布を手に取り、真剣な顔で見つめていた。
「大きくしないといけませんね」
その通りです。
ただし、今すぐリリアがやる必要はありません。
休んでください。
俺は強めに鳴いた。
「きゅ」
リリアは少しだけ笑った。
「分かっています。私が全部やるとは言っていません」
よかった。
少し安心した。
「でも、最初の一針は私が入れます」
「きゅう」
休んでください。
「一針だけです」
「きゅう……」
その一針から増える未来が見えます。
アリアが横から言った。
「聖女様。今は一針も禁止です」
「アリア」
「ノアの意見と同じです」
アリアさん。
本当に頼もしい。
リリアは毛布を見つめて少し名残惜しそうにしたが、やがて素直に頷いた。
「……では、侍女長にお願いして、私はあとで確認します」
「確認も休憩後です」
「はい」
リリアが素直になっている。
進化したのは俺だけではない。
この聖女様も、確実に成長している。
侍女長が毛布を受け取る。
彼女もまた、俺を見て緊張と困惑を隠せていなかった。
無理もない。
昨日まで小さな珍しい猫扱いだった存在が、今は白銀の角と銀紋と翼未満を持つ小型犬サイズの何かになっている。
怖いだろう。
怪しいだろう。
普通なら距離を取りたいはずだ。
だが侍女長は、少しだけ姿勢を正して言った。
「ノア様のお体に合うよう、柔らかく仕立て直します」
ノア様。
様がついた。
俺は固まった。
「きゅ……?」
様?
今、様って言いました?
リリアがぱっと笑う。
「ノア、様付けです」
聞こえています。
聞こえたから困惑しています。
アリアも少し眉を動かした。
「侍女長、その呼び方は」
「聖女様をお守りした存在です。無礼があってはなりません」
侍女長は真面目だった。
俺は毛布の中に隠れたくなった。
いや、毛布は今、仕立て直しに行こうとしている。
隠れるものがない。
困る。
ノア様。
違和感がすごい。
俺は珍生物である。
少し個性的な猫である。
いや、リリア基準では。
様は重い。
かなり重い。
「きゅう……」
俺が困った声を出すと、リリアは首を傾げた。
「ノアは様付けが落ち着かないようです」
よく分かりましたね。
その通りです。
侍女長は少し驚いた顔をした。
「では、ノア……でよろしいのでしょうか」
「きゅ」
はい。
それでお願いします。
リリアが通訳する。
「ノアでよいそうです」
侍女長は一度深く頷いた。
「承知しました、ノア」
呼び捨てでも丁寧すぎる。
だが、様よりはいい。
俺はほっと息を吐いた。
この神殿では、俺の扱いがどんどん重くなっている。
珍しい猫から、聖女を守った謎の存在へ。
できれば、猫枠に戻りたい。
無理かもしれない。
いや、リリアだけは戻してくれる。
たぶん。
俺はリリアを見た。
リリアは俺を見て、やわらかく言った。
「大丈夫です。ノアは少し個性的な猫です」
心強い。
かなり無理があるけど、心強い。
アリアは何か言いたそうにしたが、リリアの疲れた顔を見て、今回は黙った。
◇
リリアは休むことになった。
ようやく。
本当にようやく。
ただし、完全に聖力糸を切るのはまだ不安があるため、低出力の糸だけは維持したまま、長椅子で横になることになった。
アリアは最初、糸を維持しながら横になるのは難しいのではないかと言った。
だが、司祭長が調整用の小さな聖具を用意した。
糸を固定するための輪のようなものだ。
リリアの指先から伸びた聖力糸を、その輪に通す。
輪は俺の結界台の端に固定される。
これでリリアが少し姿勢を変えても、糸が急に揺れにくくなるらしい。
便利だ。
もっと早く出してほしかった。
いや、進化前は俺の状態が不安定すぎて使えなかったのかもしれない。
今なら耐性がある。
だから使える。
そう考えると、進化した意味は大きい。
リリアは長椅子に横になった。
アリアが毛布をかける。
リリア用の毛布だ。
俺用ではない。
当たり前だが、サイズが違う。
俺は結界台の上からそれを見守った。
少し前まで、俺が看病される側だった。
今もそうだ。
でも今は、リリアが休むのを見守っている。
変な感じだ。
「ノア」
リリアが横になったまま俺を呼んだ。
「きゅ」
はい。
「少しだけ、眠ります」
「きゅ」
そうしてください。
「何かあれば、起こしてくださいね」
「きゅう」
できれば何も起きないでほしいです。
リリアはくすりと笑った。
「そうですね」
アリアが真面目に言う。
「何かあれば私が起こします。聖女様は今は休んでください」
「はい」
リリアは目を閉じた。
今度は黒煙の眠りではない。
罠でもない。
本当に休むための眠り。
俺は聖力糸を通じて、リリアの気配が少し穏やかになるのを感じた。
よかった。
ようやく眠れた。
俺は前足を糸に添えたまま、静かに鳴いた。
「きゅ……」
おやすみなさい。
声は小さかったが、リリアの口元が少しだけ緩んだ気がした。
伝わったのかもしれない。
あるいは、たまたまかもしれない。
どちらでもよかった。
◇
リリアが眠ったあと、部屋の空気は少し変わった。
張り詰めた戦場のような空気から、静かな回復室のような空気へ。
もちろん警戒は解かれていない。
アリアは扉と窓を見ている。
司祭長は封印した黒い残滓の確認を続けている。
神官兵たちも外で交代しながら警備している。
だが、ガルディアスの強い干渉は今のところない。
俺は結界台の上で、自分の新しい体を少しずつ確認した。
前足。
後ろ足。
尻尾。
角。
背中の翼未満。
首を動かす。
肩を動かす。
座る。
伏せる。
立とうとする。
少しよろける。
やめる。
地味だ。
ものすごく地味な訓練である。
しかし大事だ。
体に慣れなければ、いざという時に動けない。
いや、いざという時に動かなくて済むならそれが一番いい。
でも、どうせ何か起きる。
物語的にも。
ガルディアス的にも。
絶対に何か起きる。
俺は立ち上がる練習をした。
一度目。
前足に力を入れすぎて前へ沈む。
二度目。
尻尾でバランスを取ろうとして、尻尾に振り回される。
三度目。
背中の翼未満がぴこっと動いて、自分で驚く。
四度目。
何とか立てた。
「きゅ……!」
立てた。
リリアを起こさないように小さく喜ぶ。
アリアがこちらを見る。
「立てましたね」
「きゅ」
はい。
立てました。
アリアの表情がほんの少しだけ緩んだ。
「よくできました」
アリアに褒められた。
珍しい。
俺はちょっと嬉しくなった。
尻尾がふわりと揺れる。
背中の翼未満もぴこっと動く。
感情が出すぎる。
これはまずい。
アリアに見られた。
「……感情で動くようですね」
分析された。
やめて。
今のは見なかったことにしてください。
俺はすぐに伏せた。
「きゅ……」
アリアは少しだけ口元を押さえた。
笑った?
今、笑った?
アリアさんが?
リリアが起きていたら絶対に喜んでいた。
俺はちょっと惜しい気持ちになった。
司祭長が記録を取りながら言う。
「翼状器官は、感情表現と聖力感知の両方に関わっている可能性がありますな」
また記録された。
俺のぴこっが記録された。
やめてほしい。
だが、司祭長は真面目だ。
たぶん後で正式な資料に書く。
白銀の幼聖魔獣、感情により翼状器官が反応。
恥ずかしい。
かなり恥ずかしい。
「きゅう……」
俺は毛布が恋しくなった。
毛布があれば隠れられるのに。
今、毛布は仕立て直し中である。
早く戻ってきてほしい。
◇
しばらくして、侍女長が戻ってきた。
手には、大きく仕立て直された毛布がある。
早い。
さすが侍女長。
ただ布を足しただけではない。
俺の今の体に合わせて、背中の翼未満に当たらないような切れ込みがあり、角に引っかからないよう前側に余裕があり、尻尾が出せるよう後ろも工夫されている。
完全に専用装備だ。
珍生物用から、進化後珍生物用になっている。
俺は複雑な気持ちで毛布を見た。
「きゅ……」
すごい。
でも、何だこの形。
侍女長は少し緊張しながら言った。
「仮縫いです。ノアが苦しければ、すぐ直します」
「きゅ」
ありがとうございます。
俺は素直に鳴いた。
侍女長の表情が少しだけ柔らかくなる。
アリアが毛布を確認し、司祭長が中立紋の流れを見た。
「問題なさそうです」
「中立紋も乱れていませんな」
リリアは眠っている。
だから、毛布をかけてくれたのは侍女長だった。
少し緊張した手つき。
でも、とても丁寧だった。
俺の背中の翼未満に触れないように。
角に引っかからないように。
尻尾を潰さないように。
そっと、毛布がかけられる。
温かい。
サイズが合っている。
すごい。
さっきまで小さくて背中に引っかかっていた毛布が、今はちゃんと俺を包んでいる。
⸻
安定補助:聖女の手作り毛布・改
状態:安定
⸻
改。
改になった。
ステータス画面、そういう表記するのか。
俺は思わず鳴いた。
「きゅ……」
侍女長が心配そうにする。
「苦しいですか?」
「きゅ」
違います。
ちょうどいいです。
リリアが起きていたら、きっと喜んだだろう。
そう思ってリリアを見ると、彼女は眠ったままだった。
よかった。
起きていない。
ちゃんと休めている。
俺は毛布の中で丸くなった。
新しい体でも、やっと落ち着ける姿勢ができた。
前足に聖力糸。
背中に毛布。
部屋にはアリアと司祭長。
リリアは眠っている。
ガルディアスは今のところ来ていない。
久しぶりに、静かな時間だった。
このまま続いてほしい。
そう思った時、俺の危険察知がかすかに反応した。
強くはない。
だが、完全な無反応でもない。
⸻
危険察知:微反応
対象:神殿外部
危険度:低
備考:遠距離からの観測痕を確認。
⸻
まだ見ている。
遠くから。
ガルディアスか。
あるいは、彼の魔性具か。
攻撃ではない。
ただの観測。
でも、消えてはいない。
俺は窓の方を見た。
アリアが即座に気づく。
「ノア?」
「きゅ……」
外。
遠いです。
でも、何かあります。
アリアの表情が引き締まる。
司祭長も杖を取った。
「強い反応ではありません。ですが、監視は続いていると考えるべきでしょう」
やはり。
ガルディアスは退いたが、諦めていない。
次は聖女の側から開かせる。
あの言葉が頭をよぎる。
俺は眠っているリリアを見た。
この子を利用させるわけにはいかない。
リリアは俺をノアとして守ってくれた。
なら、今度は俺も守る。
ただし、自分を捨てずに。
ノアのまま。
俺は毛布の中で、前足を聖力糸にそっと重ねた。
小さく、澄んだ声で鳴く。
「きゅ」
大丈夫。
今度は俺も、ちゃんと見ています。
リリアは眠ったまま、少しだけ穏やかな顔をしていた。
その顔を見て、俺は思った。
少し個性的な猫。
リリアはきっと、これからもそう言い張る。
角が伸びても。
背中に翼未満があっても。
銀紋が全身にあっても。
声が変わっても。
彼女はきっと、ノアはノアだと言う。
なら俺も、その言葉に応えたい。
俺は器じゃない。
白い獣でもない。
少し個性的な猫かどうかは、かなり怪しい。
でも。
リリアがそう呼ぶなら、今はそれでいい。
聖女様。
毛布も大きくなりました。
俺も少し立てるようになりました。
だから今は、ちゃんと休んでください。
次にガルディアスが来た時は。
今度こそ、俺も少しは役に立てるようにしておきます。
俺は、リリアの眠る横で小さく息を吐いた。
神殿の外には、まだ黒い視線が残っている。
ガルディアスは終わっていない。
俺の進化も、たぶんこれで終わりではない。
けれど。
森で震えていた低級魔物は、もういない。
ここにいるのは、リリアがノアと呼んでくれる、少し個性的な猫である。
……猫かどうかは、かなり怪しいけれど。
それでも今は、その名前で生きていく。
これにて第一章完になります。
ここまで読んでくださってありがとうございました。
面白かった方は是非コメントや評価を頂けると励みになりますので、よろしくお願い致します。m(_ _)m




