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第26話 聖女様、珍生物が少し大きくなりました

 光が弾けた。


 白銀の光。


 眩しいはずなのに、不思議と痛くない光だった。


 俺の体を包んでいた熱が、ゆっくり引いていく。


 角の奥で脈打っていた痛みも、背中を這っていたぞわつきも、尻尾の銀紋の熱も、すべてが一つの形に収まっていく。


 変わった。


 それは分かった。


 何がどう変わったのかは、まだ分からない。


 ただ、今まで小さな器に無理やり詰め込まれていたものが、少しだけ広い場所へ移されたような感覚があった。


 苦しい。


 でも、さっきまでの苦しさとは違う。


 臨界安定で止められていた時の、膨らみ続ける風船みたいな怖さは消えている。


 体の内側にあった圧が抜けた。


 それだけで、俺はしばらく何も考えられなかった。


 光が薄れていく。


 部屋の輪郭が戻る。


 壁。


 聖印。


 結界台。


 扉の前に立つアリア。


 杖を構えた司祭長。


 そして、俺の前足につながる聖力糸を握りしめるように維持しているリリア。


 リリアの顔が見えた。


 泣きそうで。


 でも、笑いそうで。


 どちらにも見える表情だった。


「ノア……?」


 リリアが俺の名を呼んだ。


 その声を聞いて、ようやく俺は息をした。


「きゅ……」


 返事をしたつもりだった。


 だが、自分の声に少し驚いた。


 鳴き声は同じだ。


 きゅ。


 そこは変わっていない。


 だが、響きが違う。


 前よりも少し澄んでいる。


 小さな鈴を水の中で鳴らしたような、不思議な余韻があった。


 進化しても、俺の鳴き声は「きゅ」なのか。


 そこは変わらないのか。


 助かるような。


 助からないような。


 いや、いきなり「グルル」とかにならなかっただけ、かなり助かったのかもしれない。


 俺がそんなことを考えていると、リリアの目がぱっと輝いた。


「ノア、声が少しきれいになりましたね」


 そこ?


 最初にそこ?


 俺は思わず固まった。


 いや、確かに声は変わった。


 俺も気づいた。


 でも、今見るべきところはそこなのか?


 進化したのだ。


 たぶん見た目も変わっている。


 角とか。


 背中とか。


 銀紋とか。


 そっちを先に確認した方がいいのでは?


「きゅ……?」


 俺が困惑気味に鳴くと、リリアは嬉しそうに頷いた。


「はい。前より、澄んでいます」


 アリアが一歩近づいた。


「聖女様。問題は声の透明感ではなく、体格と角と紋様です」


「でも、声も大切です」


「否定はしませんが、優先順位が違います」


 いつもの会話だった。


 ものすごくいつもの会話だった。


 さっきまでガルディアスの黒い糸が部屋中を這い、俺は器にされかけ、第一進化の光に包まれていたはずだ。


 なのに、最初の会話が声の透明感。


 この聖女様、やっぱり強い。


 強い方向が少し変だが、間違いなく強い。


 俺はゆっくり体を動かそうとした。


 その瞬間、違和感が一気に来た。


 体が重い。


 いや、重いというより、大きい。


 前足を少し動かしただけで、毛布がずれた。


 リリアの手作り毛布。


 さっきまで俺を包んでいたはずの毛布が、今は背中に少しかかっているだけになっている。


 あれ。


 足りてない。


 明らかに足りてない。


「きゅ……」


 俺は毛布を見た。


 小さい。


 いや、毛布が小さくなったわけではない。


 俺が大きくなったのだ。


 結界台の上で、自分の前足を見る。


 白い毛。


 前より長く、密度がある。


 小さな丸い前足だったものが、少ししっかりした形になっている。


 爪は鋭くない。


 だが、前よりも確かに力が入りそうだ。


 尻尾を動かす。


 ふわりと白い尾が揺れた。


 前より長い。


 銀色の細い紋様が、尾の根元から先に向かって淡く走っている。


 尻尾まで進化している。


 複雑だ。


 次に、背中。


 俺は恐る恐る振り返ろうとした。


 振り返った。


 そして固まった。


 背中に、何かある。


 翼。


 ……と言うには、まだ小さい。


 羽ばたけるほど大きくない。


 白い毛の間から、薄く透けるような白銀の膜が左右に伸びていた。


 子どもの翼。


 いや、膜?


 翼未満。


 飾り以上。


 何だこれ。


 俺は混乱した。


「きゅう……!?」


 変なの生えてる。


 すごく変なの生えてる。


 リリアが両手を胸の前で合わせた。


「まあ……ノア、背中にも個性が増えましたね」


 個性。


 また個性。


 角の次は翼未満の何かも個性扱い。


 便利すぎる。


 アリアが真顔で言った。


「聖女様。背中のそれは、個性で済ませてよいものではありません」


「では、大切な新しい個性です」


「増やしても同じです」


 司祭長が、少し離れた位置から俺を観察していた。


 目が怖い。


 研究者の目だ。


 いや、悪い意味ではない。


 ガルディアスみたいな目ではない。


 だが、完全に未知の現象を見ている顔だ。


「……記録にありませんな」


 出た。


 司祭長の、記録にありませんな。


 もう何度目だろう。


 俺の人生、いや魔物生は、記録にないことばかりらしい。


 司祭長は慎重に言葉を続けた。


「角は伸びています。銀紋は全身に広がった。しかし魔性の暴走は見られない。むしろ、聖力との調和が進んでいるように見えます」


 俺は自分の頭を見ようとした。


 無理だった。


 角は頭についているので、自分ではよく見えない。


 だが、重さは分かる。


 前より少し長い。


 たぶん、ただの小さな突起ではなくなっている。


 リリアが俺の視線に気づいたのか、そっと鏡を持ってこさせた。


 侍女長が緊張した顔で、少し離れたところに鏡を置く。


 俺はそこに映った自分を見た。


 白い生き物がいた。


 前より一回り、いや二回りくらい大きい。


 子猫サイズだったのが、小型犬くらいにはなっている。


 全身の毛は白く、ところどころに薄い銀の紋様が流れている。


 頭には、短い白銀の角が二本。


 鋭いというより、まだ幼い形。


 背中には、淡く透ける小さな翼のような膜。


 目は赤くない。


 そこが一番安心した。


 鏡の中の俺の目は、青みがかった銀色だった。


 元の色とは違う。


 でも、ガルディアスが見せた幻影の赤い目ではない。


 黒い鎖もない。


 俺は、俺だ。


 たぶん。


 俺は小さく息を吐いた。


「きゅ……」


 よかった。


 本当に。


 赤目じゃない。


 鎖もない。


 器っぽくない。


 いや、角と翼っぽいものがある時点で、普通ではない。


 普通ではないが、ガルディアスの幻影とは違う。


 それだけで十分だった。


 リリアが鏡越しに俺を見て、ふわりと笑った。


「ノア、大きくなりましたね」


 来た。


 ついに来た。


 予想通りすぎる台詞。


 この状況で、やっぱりそれを言った。


 アリアが深く息を吸った。


「聖女様」


「はい」


「大きくなりましたね、で済ませてはいけません」


「でも、本当に大きくなりました」


「それは事実です。ですが、問題は大きさだけではありません」


 アリアは俺を指さしかけて、途中で手を止めた。


 たぶん礼儀として指さすのをやめたのだろう。


 律儀だ。


「角が伸びています。銀紋が全身にあります。背中に翼のようなものがあります。声も変化しています。体格も変わっています」


「はい」


「普通の猫ではありません」


「少し個性的な猫です」


「少し、の範囲を超えています」


「では、とても個性的な猫です」


「聖女様」


 アリアの声が少し低くなる。


「形容詞を増やせばよいわけではありません」


 リリアは俺を見た。


 そして、少し困ったように微笑んだ。


「でも、ノアはノアです」


 アリアは黙った。


 司祭長も、何も言わなかった。


 俺も、何も言えなかった。


 鳴くことすら、少し遅れた。


「きゅ……」


 その言葉が、今は一番ありがたかった。


 大きくなった。


 角が伸びた。


 背中に変なのが生えた。


 声も変わった。


 でも、リリアは俺をノアと呼んだ。


 少し個性的な猫だと言い張った。


 無理がある。


 かなり無理がある。


 でも、その無理のおかげで、俺は少しだけ安心できた。


     ◇


 ステータス画面が開いた。


---


第一進化が完了しました。


種族:白銀の幼聖魔獣


分類:特殊進化個体


状態:進化直後/安定化中


獲得スキル:聖魔変換膜


獲得スキル:浄火の瞬き


獲得耐性:聖属性耐性・小


獲得耐性:魔性干渉耐性・小


関係性補正:リリア・セレスティアとの接続安定


備考:毛布の再調整を推奨します。


---


 情報量が多い。


 まず種族。


 白銀の幼聖魔獣。


 もう完全に魔獣である。


 しかも聖魔獣。


 何だそれ。


 聖と魔が混ざっている。


 分類は特殊進化個体。


 低級魔物からだいぶ遠くなった気がする。


 獲得スキル。


 聖魔変換膜。


 ついに仮ではなくなった。


 浄火の瞬き。


 これも正式取得らしい。


 耐性は聖属性耐性・小。


 小。


 小なのか。


 いや、十分ありがたい。


 今まで聖女の治癒で消えかけていたことを考えると、小でもかなり大きい。


 魔性干渉耐性・小。


 これもありがたい。


 ガルディアス相手には、たぶん小では足りない。


 でも、あるのとないのでは違う。


 関係性補正。


 リリアとの接続安定。


 これはかなり大事そうだ。


 そして備考。


 毛布の再調整を推奨します。


 そこ?


 ステータス画面まで毛布を気にしている。


 いや、確かに今の毛布は小さい。


 背中の翼未満の部分に引っかかりそうだし、角用の余裕も足りない。


 推奨されるのは分かる。


 分かるけど、進化直後の備考が毛布なのはどうなんだ。


 俺は小さく鳴いた。


「きゅう……」


 リリアが心配そうに覗き込む。


「ノア、毛布が苦しいですか?」


 伝わりすぎ。


 怖い。


 いや、今回は俺が毛布を見ていたからか。


 リリアはそっと毛布を外し、俺の背中に触れないように整えた。


 聖力糸はまだつながっている。


 ただ、進化前より刺激がかなり少ない。


 むしろ、少し温かい。


 痛みはない。


「きゅ……?」


 俺は前足を動かして、リリアの聖力糸に触れた。


 ちり、ともしない。


 前なら微かな刺激があった。


 今は、ただ柔らかい温度のように感じる。


 これが聖属性耐性・小か。


 小、すごい。


 かなりすごい。


 俺は思わずリリアの糸に前足をすり寄せた。


 リリアが目を丸くする。


「ノア、痛くないのですか?」


「きゅ」


 はい。


 かなりましです。


 リリアの顔がぱっと明るくなった。


「よかった……」


 その声は、本当に安心していた。


 俺が痛くないこと。


 聖女である自分の力が、俺を傷つけにくくなったこと。


 それが嬉しいのだろう。


 俺も嬉しい。


 だが、それと同時に気づいた。


 リリアの手が震えている。


 聖力糸は安定している。


 でも、リリア本人はかなり消耗している。


 当然だ。


 丸一日近く、俺のために糸を維持し続け、ガルディアスの干渉にも耐えていた。


 俺が進化したからといって、リリアの疲れが消えるわけではない。


「きゅ」


 俺は強めに鳴いた。


 休んでください。


 今すぐ。


 リリアは一瞬きょとんとした。


 それから、困ったように笑う。


「ノアに、休んでくださいと言われました」


 アリアが即座に頷いた。


「その通りです。聖女様、休憩を」


「ですが、ノアの安定が」


 司祭長が口を開いた。


「進化後、接続はかなり安定しています。完全に切るのはまだ避けるべきですが、聖力糸の出力は下げられるでしょう」


「本当ですか?」


「ええ。ノア自身の耐性が上がっています」


 リリアは俺を見る。


「ノア、少しだけ糸を弱めても大丈夫ですか?」


「きゅ」


 大丈夫です。


 今なら、たぶん。


 リリアは慎重に聖力糸を細くした。


 光がさらに弱くなる。


 それでも、俺の体は乱れなかった。


---


聖力接続:低出力化


状態:安定


---


 よし。


 いける。


 俺は頷くように鳴いた。


「きゅ」


 リリアがほっと息を吐いた。


 その瞬間、少しだけ体が揺れた。


 アリアがすぐに支える。


「聖女様」


「……すみません。少し、力が抜けました」


「座ってください」


「座っています」


「では、背もたれに体を預けてください」


「はい」


 アリアの指示が細かい。


 でも正しい。


 リリアは椅子の背もたれに体を預けた。


 聖力糸は細く保たれている。


 俺は結界台の上からそれを見て、胸の奥が痛くなった。


 俺のために、ここまでさせてしまった。


 そう思いかけた瞬間、リリアが目だけで俺を見た。


「ノア」


「きゅ……」


「謝らなくていいです」


 早い。


 まだ鳴いてもいない。


「私がそうしたくて、ここにいました」


 その声は弱い。


 疲れている。


 でも、はっきりしていた。


「だから、ノアが無事に変われてよかったです」


 俺は何も言えなかった。


 ただ、前足を聖力糸にそっと重ねた。


 今度は俺から支えるように。


 もちろん、実際に支えられているのは俺の方だ。


 でも、気持ちだけはそうしたかった。


     ◇


 ガルディアスの黒い糸は、完全には消えていなかった。


 進化の光と、アリアの斬撃と、司祭長の結界で大半は断たれた。


 だが、部屋の外側にはまだ黒い残滓が漂っている。


 司祭長は厳しい顔で結界を確認していた。


「本体ではありませんな」


 アリアが剣を構えたまま聞く。


「ガルディアス本人は来ていない?」


「おそらく。複数の旧接続部を使った遠隔干渉です。かなり強いものでしたが、本人が部屋の近くまで来たわけではない」


 やっぱり。


 本人はまだ出てこない。


 俺たちを試していた。


 俺の進化の瞬間を狙い、器にしようとした。


 だが、失敗した。


 では、次はどうする。


 そう思った瞬間、壁の聖印の一つが黒く揺れた。


 アリアが即座に剣を構える。


 司祭長が杖を向ける。


 リリアも体を起こそうとした。


 俺は反射的に前へ出ようとして――足元がぐらついた。


「きゅっ」


 進化直後の体に慣れていない。


 前足の長さも、体重も、尻尾のバランスも違う。


 背中の翼未満も邪魔だ。


 俺は結界台の上で、少しだけよろけた。


 恥ずかしい。


 めちゃくちゃ恥ずかしい。


 アリアがこちらを見た。


「ノア、無理に動かないでください」


「きゅ……」


 はい。


 今のは自分でもそう思いました。


 リリアが心配そうに言う。


「ノア、体に慣れるまではゆっくりです」


「きゅ」


 分かりました。


 たぶん。


 でも、壁の黒い揺れはまだ消えていない。


 そこから、かすれた声が漏れた。


『……成功ではない』


 ガルディアスの声。


 弱い。


 だが、確かに聞こえる。


『だが、失敗でもない』


 俺は毛を逆立てた。


 何だと。


『白い獣。お前は器にはならなかった。だが、開いた』


 司祭長が封印術を重ねる。


 壁の黒い揺れが小さくなる。


 それでも声は続いた。


『次は、聖女の側から開かせる』


 リリアの表情が強張る。


 俺も息を呑んだ。


 次は、聖女の側から。


 つまり、俺ではなくリリアを利用する。


 俺が器にならないなら、リリアの聖力を通じて何かするつもりか。


『三日目は終わった。だが、始まりでもある』


 ガルディアスの声が遠ざかる。


『ノア。名を持つ器よ。また会おう』


「きゅうっ!」


 器じゃない。


 そう叫んだつもりだった。


 俺の声は澄んだ響きを持って部屋に広がった。


 前より少し強い。


 白銀の音が、壁の黒い揺れを震わせる。


 司祭長がその瞬間を逃さず杖を振る。


「封じます!」


 壁の聖印が白く光り、黒い残滓を包み込んだ。


 声は消えた。


 部屋に、ようやく静けさが戻る。


 だが、誰も安心してはいなかった。


 ガルディアスは退いた。


 倒したわけではない。


 そして、次の狙いを残していった。


 聖女の側から開かせる。


 嫌な言葉だった。


 リリアが俺を見る。


「ノア」


「きゅ……」


「私は、利用されません」


 疲れているはずなのに、その声は強かった。


「そして、ノアも渡しません」


 俺は小さく鳴いた。


「きゅ」


 はい。


 俺も、渡されません。


 いや、渡される側が言うのも変だが。


 アリアが静かに剣を下ろした。


「ひとまず、直近の干渉は遮断されました」


 司祭長も息を吐く。


「ええ。ただし、警戒は解けません。むしろ、これからが本番かもしれない」


 これからが本番。


 やめてほしい。


 俺は進化したばかりなのだ。


 体にも慣れていない。


 毛布もサイズが合っていない。


 リリアも疲れている。


 アリアも司祭長も、神官兵たちも限界に近い。


 今くらい休ませてほしい。


 俺はそう思った。


 すると、リリアが俺の顔を見て言った。


「ノア。今は、少し休みましょう」


 俺は目を瞬かせた。


 リリアは続ける。


「本当に休める時に、ちゃんと休みましょう。そう言いましたから」


 そうだった。


 黒煙で眠らされかけた時、リリアは言った。


 本当に休める時に、ちゃんと休みましょう。


 今が、その時なのかもしれない。


 完全に安全ではない。


 でも、ガルディアスの本命干渉は退けた。


 進化も終わった。


 聖力糸は低出力で安定している。


 少なくとも、さっきよりは休める。


 俺は毛布を見た。


 小さい。


 今の体には合わない。


 するとリリアが、眠そうな目で少し笑った。


「毛布は、あとで大きくしましょう」


「きゅ」


 お願いします。


 アリアが即座に言う。


「聖女様も、あとでではなく今休んでください」


「はい」


 リリアは素直に頷いた。


 本当に成長した。


 俺も、今度こそ結界台の上で体を伏せた。


 大きくなった体で丸くなるのは、まだ少し難しい。


 尻尾の位置が違う。


 背中の翼未満が邪魔。


 角も気になる。


 だが、何とか落ち着く姿勢を探す。


 リリアの聖力糸は、細く俺の前足に触れている。


 痛くない。


 温かい。


 俺は目を閉じかけた。


 今度の眠気は、黒煙のものではない。


 普通の疲れだ。


 本当に休むための眠気だ。


---


状態:進化直後/安定化中


聖力接続:低出力維持


危険察知:待機


推奨:休息


---


 ようやく。


 ようやく推奨が休息になった。


 俺は小さく息を吐いた。


「きゅ……」


 リリアが囁く。


「おやすみなさい、ノア」


 まだ昼なのか夕方なのか、時間感覚はぐちゃぐちゃだった。


 でも、その言葉はありがたかった。


 俺は目を閉じる。


 進化しても、鳴き声はきゅのまま。


 体は大きくなった。


 角も伸びた。


 背中に変なのも生えた。


 ガルディアスはまだいる。


 リリアを狙うと言い残した。


 問題は山ほどある。


 でも。


 俺は器にはならなかった。


 ノアとして進化できた。


 それだけは、確かだった。


 聖女様。


 大きくなりましたね、で済ませようとするのはどうかと思います。


 でも。


 ノアはノアだと言ってくれたことは、たぶん一生忘れません。

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