◆第4話:世界が終わるまでの365日(3)
「“あれ”の様子が、最近おかしい?」
「はい」
霞家の廊下。
監視役の一人が声を潜め報告を上げる。
それを聞いた陣午の父は、足を止めた。
「よく書物を読むようになったり、体を鍛え出したり……全て“仕事”の為だと報告を受けているが」
陣午の父は想起する。
一年ほど前から、陣午はやたらと書籍を要求するようになった。
更に、檻の中で精神統一や瞑想のまねごとを始めたり、肉体を鍛えたりもしているようだ。
しかし、それは全て“仕事”の為。
現に、陣午は依然、霞家の忠実な道具として働いている。
仕事内容は更にレベルアップし、以前に比べ利益も向上している。
この家にとって、何の文句も無い変化だった。
「隠し書きの類いもないのだろう?」
「はい、牢屋内は定期的に確認していますので……ただ」
「ただ?」
監視役は、目線を泳がせる。
「何というか、時々目付き違って見えるというか……」
「どういう事だ?」
「以前までの、人の心を失った、単なる道具のような目じゃない……何というか、何かを見据えているような……」
監視役の曖昧な表現に、陣午の父は眉を顰める。
「脱出を企てている、とでも言いたいのか?」
「断言はできませんが……」
「馬鹿らしい」
あの地下牢は堅陣だ。
鍛えた程度でどうにかなる構造じゃない。
仮に出たとしても、外の世界で逃げ切れるわけがない。
霞家の名と金で、警察だろうが世論だろうが、いくらでも裏から動かせられる。
「そんな事も分からぬマヌケじゃないだろう。心配は不要だ。仕事さえしていればいい」
「はい……」
監視役は大人しく引き下がる。
「……何を考えている。気味が悪い」
何かを企んでいるのかもしれない。
しかし、その目的が分からない。
この時の霞家において、陣午に対する印象は、その程度のものだった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
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【予告】
《THE・World》Ver.2.0.0
アップデート予定日:20日後
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あれから、300日以上が経過した。
計画は順調に進行している。
深夜。
静寂の中、監視役が暇潰しに眺めているテレビの音だけが聞こえてくる。
俺は牢の中で、換気窓の外に浮かぶ月を眺めていた。
……ふと考えたのは、家族の事だった。
もう間もなく世界が崩壊し、新しく生まれ変わる。
その騒乱に乗じ、俺は確実にここから脱出できるだろう。
外に出られる。
その後――この家の人間達は?
脳裏に、皆の顔が蘇る。
牢越しに俺を見て来た、あらゆる目。
『道具として生かせ』
冷たい目で俺を見下ろす当主。
『解け』
自分の子供ではなく、道具の一つとしてしか俺を見ていない父。
『悍ましい……』
自分の腹から産まれたのが忌み子だと知り、汚らわしいものを見るような目を向けて来た母。
『うわ、ばい菌がついた』
時々こっそり侵入してきては、悪戯感覚で俺をつつき、嘲笑う子供達。
『黙れ。もっと痛めつけられたいのか』
教育と称し、時には苛立ち紛れに俺を殴打した監視役達。
俺を牢に閉じ込め、いいように利用してきた者達。
人としての生を奪い、軽んじ、蔑んできた者達。
……復讐するか?
「……いや」
俺の答えは、ハッキリと出ていた。
どうでもいい。
復讐は、コストに見合わない。
世界が生まれ変わる動乱の中、余計なノイズでしかない。
この家の人間達は、もう俺には関係無い。
家族ですらない。
「切り捨てるも何も、もう既に切り捨てられているのは俺の方だ」
復讐は、俺の人生をもう一度霞家に縛りつける。
それが一番、くだらない。
ここから出た暁には、霞家とは無縁の……ただ一人の人間として、生きていくだけだ。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
あれから365日。
準備は整った。
やるべき事はやった。
そして――。
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【予告】
《THE・World》Ver.2.0.0
更新まで:23:59:59
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世界が壊れるその時を、俺は静かに待つ。
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