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◆第3話:世界が終わるまでの365日(2)


――――――――――――――――――――


【予告】

《THE・World》Ver.2.0.0

アップデート予定日:205日後


――――――――――――――――――――




 世界が更新され、一変する。


 そう告げるこのログは、一体どこから流れてくる情報なのだろう?


 ふと、そんな事を思った。


 けれど、深く考える事は止めた。


 この世は、何か途轍もなく巨大な意思……人知の及ばないシステムによって運営がされている。


 そして俺は偶然にも、それを受信する才能と、理解する才能に恵まれた。


 それだけでいい。


 霞家に利用されるだけだったその才能を、今度は俺だけの為に利用する。


 心が壊された今の俺に、灯った感情はただ一つ。




 ――新しい世界で生まれ変わる。




「さて……」



 あれから100日以上が経過し、有り余る程の時間を“情報収集”と“魔素対策”に費やした。


 その甲斐もあって、世界崩壊後の行動プランは着実に組み上げられている。


 精神の制御も完璧だ。


 元々感情が死んでいた事もあってか、瞑想による精神統一や、自身理解も深いところまでマスターする事が出来た。


 自分の体の中を流れる血、空気、感覚……全てを把握できる。


 この万能感を覚えた瞬間、俺の脳は瞬時に“理解”した。




 ――ああ、わかる。




 ――この世に魔素という異次元の要素が現れたとしても、自分はそれを制御できる、と。




「次は第三フェーズ……“魔素の操作”だ」



 魔素の制御は完璧。


 つまり、自分は魔素の影響を受け支配されるだけの傀儡ではなくなった。


 ならば次は更にその上、魔素を逆にコントロールする立場になる。



「そもそも、魔素とは何なのか……」



 不定期に頭の中にポップするログ――その断片的な情報から、俺は魔素というものにある程度の定義を作った。


 一、魔素とは新世界に追加される自然現象である。


 二、魔素は一部の動植物に影響を与える(モンスター化する)。


 三、魔素は精神の状態次第で制御が可能(影響を受けなくなる)。



「ウィルス……細菌……」



 魔素を、仮にウィルスのようなものだとイメージする。


 それは空気中に漂っており、生物に触れれば何らかの悪影響を及ぼす。


 悪影響……だが、精神状態次第では制御が出来るのだとするなら、ウィルスや細菌の類いとは言い難い。



「じゃあ、気流……エネルギーの流れか?」



 透明なエネルギーが、空気中を循環しているようなイメージ。


 まるで風のように。


 魔素は生命に悪影響を及ぼすものではない。


 ただ単に、行き場を失えば暴走するもの。


 ならば――。



「“通り道”を用意してやればいい……」



 膨大なエネルギーに、意味のある通り道を与える。


 入り口。


 流路。


 出口。


 それだけあればいい。


 更に、その流れの過程で、エネルギーを別の現象に変換する事が出来たら?



「……ははっ」



 全身に鳥肌が立つのを理解した。


 もしかしたら自分は今、この世界に新しい法則を生み出そうとしているのかもしれない。


 期待と興奮。


 微かながら、生まれて初めて、そういう感情を抱いた瞬間だったかもしれない。


 それから――俺は集中した。


 何度も言うが紙には書き置きできない。


 全てが頭の中でのシミュレーションだった。


 魔素を操作する際には、人体を通過させる必要がある。


 安定した精神状態で、体内に取り込んだ魔素を操作し、射出する。


 腕に、足に、全身に、魔素の流路をイメージする。



「ぐっ……」



 頭に痛みが走る。


 冷や汗が滴るほど吹き出て、鼻の奥から血が流れ落ちた。


 単なるイメージなのに、脳の負荷がハンパない。


 いや、それだけ克明に、真剣にイメージしているからこそだ。


 俺が今やっているのは、妄想遊びじゃない……新世界に適応し生き残るための、本気のイメージトレーニングだ。


 俺は修練を続けた。


 人知れず、静かに、水面下で。


 そんなある日、脳内にログが表示された。




――――――――――――――――――――


【捕捉ログ】

魔素は肉体強度にも相互的に影響を及ぼします


――――――――――――――――――――




 一言で言うなら、耐えられる体が必要という事だ。



「……ははっ、そりゃそうか」



 今更ながら、当然の情報だと思った。


 計画は第四フェーズに移行する。


 即ち、“肉体強化”だ。




 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆




 どちらにしろ、荒廃した世界で重要になるのは健康で頑丈な肉体だ。


 それが更に、魔素を制御・操作する上でも大きな影響を受けるというのであれば、鍛えない手は無い。




――――――――――――――――――――


【予告】

《THE・World》Ver.2.0.0

アップデート予定日:165日後


――――――――――――――――――――




 時間はまだ十分にある。


 俺は、監獄の中で筋トレを始めた。


「監獄の中では体が鈍って仕方が無い」「軟弱な体では抗体も作られず、病気に罹りやすくなる」「だから、鍛えたい」


 監視役を何とか説得し、必要な参考書を手に入れた。


 こんな監獄の中では、大した訓練はできない。


 あくまで健康のため、最低限の運動。


 その程度の認識に留めさせる。


 実際、ここでの食生活と設備だけでは、筋骨隆々の逞しい肉体なんてものは手に入らないだろう。


 けれど、囚人だって刑務所内で体を鍛える事ができるのだ。


 不可能なんて無い。


 何より、肉体強度を上げるというのは、単に筋肉を付けるだけじゃない。


 体幹、関節の可動域、更に言えば痛みへの耐性。


 俺が目指しているのはボディビルダーやスポーツ選手じゃない……新世界でも生き残れるサバイバーだ。


 魔素の操作、肉体強度の向上――それ等を並行し、時間の許す限り鍛え続けた。


 新世界の為の体が、出来上がりつつあった。


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