三年目③ オールスタープロジェクト
──で、どうしてこうなった。
しばらくして、落ち着きを取り戻した私は、生徒会室の中を見渡していつか思ったようなことを考えていた。
「じゃ、どこから話してくれるの?」
目の前にはシェリル。それはいい。
「やっと話してくれる気になった? セラは本当にさあ……」
その横で呆れたようにため息をついているのはキルシェである。さらにはブリッツまで肩をすくめている。
「結局こうなるんだって。わかってたよ。だから呼んでねって言ったじゃん」
これはルカの言だ。というか、まさか彼にまで呆れられている?
「まあまあ。とりあえずセラさんのお話を聞いてからにしませんか」
机の上に紙と筆記具を用意して、書記の準備をしているのはヴァルナーである。その後ろでは婚約者のヴィシが苦笑していた。
「ちなみに、殿下は王宮で、陛下と宰相閣下のお時間をとっていただけないか調整中」
「へっ!?」
背後からアルトに言われて、私は文字通り飛び上がった。
話、でっかくなりすぎてない!?
思わずシェリルをジト目で見ると、彼女はこともなげに笑った。主人公スマイルの無駄遣いである。
「だって、せっかくなら、みんなの力を合わせたほうがいいでしょ?」
……あー。これが、上げきった統率力の成果かぁ……。
*
「……なるほど。筋は通っているように思えますね」
私の話を聞いて、一通りメモを取ったヴァルナーはそう感想づけた。
さすがに、前世のシナリオだのスチルがどうとかは言っていない。爆発魔宝石が消えたこと、異様な風体の隣国人の特徴をした男を見かけた(ここはちょっと話を盛った)ことを中心に話した。
それから、今までの事件は「夢で見た」で通した。
これについては、アルトが「そういうお告げを夢で見る人物がいるとは聞いたことがある」と言ったので、皆にも不審がられずに受け入れられた。
「自分でも、そんな事件が本当に起こらなければいいとは思っていたのですけど……」
これはこれで嘘ではないし。
「他に、これから起こることについて夢で見たりはしてない?」
ルカに尋ねられる。えーと、あれは言っていいかな。
「そうですわね、何か……レンガでできた建物の中に、例の爆発魔晶石がたくさん集められている夢を見ましたの」
「レンガの建物。……他に特徴は?」
「特には……。周りに高い建物がなさそうだった、ということくらいしか」
キルシェが眉を跳ね上げた。
「もしかして、その建物を探してた?」
「あ、……ええ……」
思わず小声になる。
「お説教はあとにするけど。やっぱり、その建物を見つけるのが最初だよね」
……されるんだ、お説教。
「うーん……周りに高い建物があまりない、レンガの建造物、ですか。思いつくのは倉庫街、河岸、下水関連の施設……ですが」
「放火に使うというなら、下水施設近くは避けるんじゃないでしょうか。河岸……も半々かな。……ああ、あとは今再開発中の、騎士団の古い訓練場だった場所はどうでしょうか?」
「ありえますね」
ヴァルナーとヴィシは、どこかから大きな王都内の地図を持ってきて印をつけている。
シェリルが腕を組んで首をひねっている。
「探すならやっぱり、人海戦術だと思うんだけど……。キルシェさんのお父様経由で騎士団を動かしてもらうとしても、特徴がない建物だと難しいよね」
「騎士団だけじゃなく、王都全体を守ってる守備兵も動かせると思うよ。陛下の許可は殿下が取ってくれるだろうし」
「わ、助かる。……でもねぇ」
「うん。特定できなきゃな」
「見つけたとして、報告はどうするの?」
これはルカからの疑問だ。
「ああ、連絡用の魔宝石を携帯してるんだよ。騎士は全員、守備兵は分隊単位でになるけどね」
「魔宝石……それだ!!」
シェリルがぱっと顔を輝かせた。
「ルカ、爆発魔宝石の場所って、魔法で探知できない?」
「ん。ある程度近くに反応があるかないかなら、一時間で組める」
「おお……!」
「特に、今回はたくさん集まってそうなんでしょ。……でも」
そこで天才は顔を曇らせた。珍しい。
「正確な距離とか方角を出すための術式は、数日かかるかな……」
シェリルも難しそうな顔をした。
「数日か……そこから量産して、兵士さんたちに持ってもらうとして……」
「量産?」
「あ、うん。ルカの組んだ魔法を、魔宝石にこう、入れて。連絡用の魔宝石と一緒に持っていってもらって……」
「まさしく人海戦術だね。……加工は?」
アルトの問いにシェリルはさらりと返す。
「宮廷魔術師団の皆さんに、お願いできない?」
アルトはヒュウと口笛を吹いた。
「……わお。そうか、その調整が僕と殿下の仕事ってわけだね。腕が鳴るなぁ」
「うん、お願い。その間に私はキルシェさんのお父様への説明をする。使う魔宝石は……セラさんのところから王宮に買い上げてもらえないかな。足りない分はリジー様にも声をかけて……」
気のせいじゃないなこれ。でっかい話になっちゃった……。
まあ、でも王都炎上という未曾有の危機を前にしていると考えれば、当然の規模なのかも。
「でも、問題は時間──」
「すみません、それですけど。反応のあるなしは一定の距離でわかるんですか?」
ヴィシが控えめに片手を上げて、会話に混ざってきた。
「うん。微弱な魔力を一度通せば、半日はもつ魔宝石にできるかな。で、特定の距離内に反応があったら光るようにする」
「なるほど。でしたら、反応が出る場所と出ない場所の境界が三点わかれば、石のありそうな中心地点を割り出すことができると思います」
「あ……円の中心か!」
ヴァルナーが一足先に理解して声を上げた。
なんだっけ。前世の数学でやったような……。
「ええ。もちろん、隠し場所が一箇所だと仮定した場合での話ですけど」
「そうじゃなかった場合のプランも考えておいたほうがいいですが、ひとまずそれで進めてもいいんじゃないでしょうか」
「そう思います。レンガ造りの建物の推定地点を中心に兵士の皆さんを配備して、そうでない場所は若干まばらに」
すごい。さくさくと方針が決まっていく。
私はもはや、ただの情報提供者だった。
──だけど、これなら。いけるかもしれない。
*
「こんなもんかな」
予告通り、ルカは一時間で爆発魔宝石探知の魔法を組み上げた。
その頃にはしっかり魔術師団に話が通っており、王宮近くの魔術師の塔に作業場が設けられている。
宮廷魔術師の皆さんは、噂の天才の発明した新しい魔法をいち早く試せると聞いて、わくわくしながら待機してくれているらしい。
「また何か首を突っ込んでるのね。ま、わたくしとしては王宮に貸しが作れそうだからいいのだけど」
とは我が家と一緒に大量の魔宝石を納めたリジー様のありがたいお言葉である。
コレクター仲間にも声をかけてくれて、膨大なコレクションのうち、手放しても惜しくないさざれ魔宝石をこれでもかと提供してくれた。
量産される探知魔宝石は、次から次へと騎士団の詰め所へ運ばれる。
「──来た!」
場所を王宮の宰相府に移して、私達は騎士団からの報告を次々とマッピングしていった。
やはり最初ににらんだ通り、倉庫街で反応がある。
「その隊にそこから通り沿いに、東に向かって移動しながら反応の境界を探ってもらうよう指示してください」
「承知した」
やがて、三点の境界から導き出された中心が明らかになる。
「なんていうか……特徴がないレンガ造りの倉庫だよ」
と、現地に走ったブリッツが通信で報告してくれた。
彼とキルシェは騎士団にまざって探知に参加していた。
「特徴がない、か……」
「突入させるか?」
「陛下のご判断を仰いでから──」
宰相府で、クレイ王子と国の偉いおじさんたちが話し合っているかたわら。
私は突然、不安に襲われた。
本当に、この建物で合っているのだろうか。
見落としは? 私の記憶に間違いは?
……何か、決め手がほしい。だけど建物に特徴的な紋章や表札があったわけではなかった──
──その時、他の部屋から戻ってきたアルトが、ブリッツと繋がったままの通信魔宝石に声を投げかけた。
「その建物、見張りはいる?」
すぐに、力強い声が返ってくる。
「あ! いる! 灰色の髪の男だ」
……あ!
「特徴を」
「身長は俺と同じくらい。顔の半分を包帯みたいな布で覆ってるな。ぶかぶかの服だけど、あの感じは中に鎧か何か着込んでると思う」
それは、あのスチルに描かれていた、『隣国からの潜入部隊のリーダー』の姿そのものだった。
思わず机を叩いて叫んだ。
「その人です! 私が見たの!!」
即座に王子が反応した。
「──よし! 突入の指示を出せ!」
「はっ!!」
にわかに慌ただしくなった部屋の中で、私は荒く息をついた。
すっと、目の前に水の入ったグラスが差し出される。
「おつかれさま。お手柄だ」
ねぎらうアルトの手から、私はひんやりしたグラスを受け取り、一気に水を飲み干した。




