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前世で書いた鬼シナリオの回収は、サポート令嬢の私にかかっている  作者: 紫嶋桜花


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7/10

三年目① 不審な魔宝石

 三年目。私たちは最終学年になった。

 公爵令嬢のリジーは、春に卒業して一足先に大人の仲間入りを果たしている。


 原作の乙女ゲームでは、一学期にルカルートの事件、冬にクライマックスとなるクレイ王子ルートの事件を配置してあった。

 この二つは大詰めということもあり、去年起こった事件よりも攻略の難易度は高めの設定である。

 とはいえ、原作では単純に、シェリルのパラメーターとキャラからの好感度を積み上げておけばキャラクターたちが解決してくれるような作りだったのだが……。


 実際にそう簡単に行くかはわからない。

 なので、私はシェリルの能力値上げを手伝いつつ、情報収集につとめていた。



     *



「おかしい」

 ルカが突然つぶやいた。

 上級から一つ上がった、特級魔法クラスの講義中である。


「おかしいよ、これ。みんな実験やめた方がいい」

「え?」

 特級魔法クラスは、ルカ、シェリル、私の他に四人ほど在籍している小さな教室だ。

 その中でもルカは天才として一目置かれていて、彼の突然の言葉に、みんな戸惑いつつも手を止めた。


「ルカ、おかしいって何が? 私にもわかるように説明できる?」

 彼の隣にいたシェリルが尋ねた。

「魔宝石。反応がおかしい。今ちょっと魔力を流し込んだだけで火花が散ったから、続けてたら、ぼくらの魔力なら爆発するかも」

「爆発っ!?」

「それは本当ですか、ルカ君!?」

 教室は騒然となった。

 私は、あ、こうなるのか……と目を瞬いていた。



 ルカルートの事件に入ったのだ。

 でも、シナリオとは少し違いがある。

 シナリオでは、まず校内で小火や爆発事件が発生。

 シェリルとルカが調査するうち、原因が魔宝石だとわかる──という流れだった。


 あれか。ちょっとシェリルとルカの魔力が上がりすぎてこうなったのかも。

 シェリルの体力と知力を上げる必要がもうなかったから、一緒に実験だの講習だのと、魔力上げばかり手伝ってたもんなあ。



 私が遠い目をしているうちに、魔宝石は片付けられ、ルカは担当教師に詳しい説明を求められていた。

「なんだろう、石に力を流すと、壁? みたいなのがあって、そこにぶつかって火花が散った」

「壁、ですか? 石の中に?」

「うん。もう一回試していいです? そしたらもっと詳しく言えると思う」


 担当教師は少し迷っていたが、私たちに教室から出て、防護魔法を張ることを命じてからルカに許可を出した。

 そして。


 バチッ。

「──ああ、これ、クラックだ。ヒビですよ、先生」

「ヒビ。それが壁みたいに感じたってこと?」

「うん。でも今までクラックが入った魔宝石なんて聞いたことも触ったこともない。おかしいな……」

 なるほど。ゲーム的にはただ『爆発する石』としていたが、原理はそういうふうになるのか。




 この件は上に報告しておきます、と担当教師が約束し、私たちはその日の授業を終えた。

 これで三つ目の事件も解決したんだろうか? あっさりだなぁ、と思っていたら、そうは問屋が卸さなかった。



     *



「ってわけなんだけど、リジー様は見たことあります? クラック入りの魔宝石」

「……聞いたことないわね」

 そう。ルカは放課後、私とシェリルを引っ張って、リジー様のお宅に突撃したのである。

 向こうは社会人だぞ? たまたま用事がなかったのか、ご在宅だったリジーが快く門を開けてくれたからよかったものの。

 これだから天才は。


「インクルージョン、ええと、混ざりものね。それが入った魔宝石はあって、そういうのを好んで愛でる人もいるけど、ヒビ入りは見たことない。もちろん、産地では出るのかもしれないけど、流通にはのってないわよ」

「やっぱり。ぼくもクラックは普通の宝石では見たことあるけど、魔宝石では初めて見たから」

「でしょうね。もしかして、魔宝石として使うのに問題があるのかもしれないわね。魔宝石と宝石の違いって、実用性のあるなしでもあるから」


 リジーは紅茶を一口飲んで思案する。

「……どこ産かはわかった?」

「ぼくの目ではそこまでは。紅色だってことは確かだけど」

「紅色、ね……三つくらいの産地に絞れるわね」

「さすが」


「はぇ……」

 シェリルは、魔法オタクと魔宝石マニアの会話についていけず目を回しかけている。

 私も同じ気持ちでほけっとしていたら、突然二人がこっちを向いた。


「ねえセラ」

「セラんちって、魔宝石やってたよね?」

「はいっ!?」

 ……あ、そうか、うちの商会では確かに、魔宝石の取り扱いがある。

 リジーとお近づきになれたのもそれがきっかけだ。

「ありますわ。……けど、それが?」


「倉庫、見せてくれる?」

 ……天才と公爵令嬢のにっこりほど怖いものはない。

 息ぴったりじゃん二人。



     *



 王都のはずれにある倉庫街。

 その一角に、我が家の倉庫も建っている。

 リジーとルカ、そしてシェリルを連れて帰宅し、事情を話したら、父は二つ返事で倉庫の鍵を貸してくれた。

 公爵令嬢の威光もあるし、ルカは例の防犯ブザー以降、うちの商会と組んでいくつかヒット商品を飛ばしているので、家としては大歓迎なのだ。

 複雑な気持ちで鍵を開ける。

 念のため、公爵家と我が家の護衛も引き連れて。


 倉庫の中は魔法の灯りがついていて、梱包された魔宝石の箱が棚に並んでいる。

「札を見ると、このあたりが最近入荷したもののようですわね」

「新しいのから見ていこう。君たちもそっち開けて」

「え、えと」

 いいの? というふうにシェリルに視線を送られたので、もうなるようになれとばかりにうなずいた。


 じゃらじゃらと魔宝石を床に広げる。

「ふうん。質のよさそうなの揃ってるじゃん」

「美しさや大きさはそれなりだけど、実用性の高いものばかりね」

「ありがとうございます」

 マニアたちに誉められてしまった。やったあ。

 じゃなくて。


「……これを、どうしますの?」

「火花が出るか確かめよう」

「えっ」

 ちょっと待て。

「大丈夫、もう爆発させないコツはつかんだ。セラたちでもすぐできるんじゃない? 確かめるだけだから」


「じゃない、って」

「だけって……だけじゃありませんわよ?」

 ここにはたくさんの魔宝石があるのである。

 倉は頑丈でも、棚は可燃物だし。

「うーん、じゃあぼくが防護魔法を張って、その中に一個ずつ持ち込んで作業するのはどう」

「あー、それなら……」

 それならじゃありませんわよシェリル。


 とはいえ、この中にもし爆発を起こすような魔宝石が含まれていたら、事故に繋がるかもしれないのは確かである。

 それを売ったとすれば、我が家の名誉も失われかねない。

「……わかりましたわ。でもリジー様は念のため、護衛の方と一緒に倉庫からお出になって」

「そうね。そうさせてもらうわ」




 ……結果から言えば、火花を出す魔宝石は十数個見つかった。

「ほんとにあった……」

 自分の魔力を流し込んだ石がパリッと火花を散らしたときの驚きと言ったら。

 つい落としそうになってしまい、さらに焦った。

 ……その次からは床の上に置いたまま作業することにした。


「終わった?」

「はい。こちらが問題の石ですわ」

「見せてもらえるわね?」

「ええ」

 場所を譲ると、リジーは物怖じせず火花を出した石を取り上げ、持参していたらしいルーペで見たり灯りにかざしたりしていた。


「……そうね、確かにクラックが入っているわ。でもなんだか……宝石のクラックとは違った感じね」

「そうなんですか?」

「ええ、割れ目がきれいすぎる。果物にナイフを入れてから、またぴったり合わせたみたいな……」


「人の手が加わってるのかも」

 鋭い指摘をしたのはルカである。

「……あり得るかもしれないわ。この色と、インクルージョン……、隣国に近い男爵領の鉱山から出た石のようだけど、こんなに磨き上げられてるのは珍しい」


「隣国って、確か、魔宝石の加工技術が進んでましたよね?」

 シェリルの言葉にリジーはうなずく。

「そうよ。うちの国でも一流の職人ならこのくらいはできるけど、そんな腕の者は男爵領にはふつういない。でも、隣国を経由したのが混じってるとしたら──」


 三人は顔を見合わせた。

 私は内心、名推理に舌を巻いていた。

「……この石、預かってもいいかしら。公爵(おとうさま)を通じて報告させてもらうわ」

「ええ、お願いいたしますわ。一番新しい梱包にだけ入っていたようですの。時期的にはこちら」

 帳簿の控えをリジーに渡す。




 倉庫の外に出ると、日はとっぷりと暮れていた。

 シェリルはリジーが馬車に乗せて送ってくれるというので、お言葉に甘えることにした。


「それじゃ、ルカさんもお気を付けてお帰りになって」

「うん。セラもね」

「ええ。わたくしは護衛の者がおりますから」

「──じゃなくて」


 ルカは私をじっと見た。

「?」

「まだ何か、あるんでしょう」

「えっ」


 どきっとした。シナリオの先のことを感づかれているんだろうか。

「ええと……」

 なんと答えたらいいか、どもっていると、ルカは視線を落としてため息をついた。

「……これで終わるとは思えないから、気をつけて。何かあったら呼んでね」


「あ、は、はい……?」

 ……私が事件を起こして回っているわけではないのだが、何か怪しまれているのだろうか。

 くるりと背を向けて去っていくルカを見送ってから、私は大きく息をついた。


「天才、わからん……」


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