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前世で書いた鬼シナリオの回収は、サポート令嬢の私にかかっている  作者: 紫嶋桜花


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二年目③ 冬のダンス

「お二人に、ご相談があるんですけど」

 冬に差し掛かったころ、シェリルが突然切り出した。

 その日は、リジーと三人、学園内のカフェでアフタヌーンティーを楽しんでいたところだった。


「あら、あなたが相談なんて珍しいわね。どうしたの?」

 リジーにうながされて、シェリルは実は、と打ち明ける。

「生徒会長が、何か皆さんが楽しめる会を開催したいんだそうです」


 あ、なるほど。

 シェリルの統率力とクレイ王子からの好感度がある程度高まると発生するイベントだ。

 プレイヤーはお楽しみ会を企画、実施して、成功すればその二つのパラメーターが大きく上昇する。

 よし、これはぜひ協力しないと。


「すばらしいお考えですわ。シェリルさんは、何かアイデアはおありなの?」

「ううん、まだ。……ただ、高貴な方々だけでなく、私たち平民も楽しめるといいなあ、って思うんだけど」

「なるほど、それは大事ですわね」

 シェリルらしい発想である。


 リジーは少し思案し、口を開いた。

「そうね、このくらいの季節の社交っていうと、慈善パーティーがよく催されるわね」

「慈善パーティー、ですか?」

「そう、劇を上演したり、ちょっとした売り物を並べたりして、招待客からお心遣いをいただくの。それをまとめて王都の教会なんかに寄付するんだわ」

「へぇ……確かに、街の教会では年末年始には無料の催しがあったりしますね」

「ええ。それを、生徒向けにアレンジしてみるっていうのはどう?」

「いいかもしれません!」


 私も言葉を添える。

「ちょっとした売り物とは、コックのお菓子だったり貴婦人の手芸だったり、そういったものですわ。文化部の皆さんにご協力願えないかしら?」

「確かに! 美術部や手芸部、文芸部……あとはさっきのお話だと、演劇部や吹奏楽部、合唱部にも声を掛けられそうですね」

「そういうことよ」

「はいっ。……あ、でも、それだけだと文化祭との違いがつけづらいですね……?」

 そうだなあ。


「……あとは、ええと。最近の社交界では、何かテーマを設けてみるお茶会や夜会が流行してますわよ」

「テーマ?」

「ええ。赤い花を身に着けるとか、ある演劇の登場人物をイメージした小物を取り入れるとか」

「ふんふん、それよさそう。……小さくてもいいなら、私たちでも真似できそうだし」

 シェリルは乗り気だ。

「いくつか考えて、生徒会長に提案してみますね。お二人ともありがとうございます!」

「いえいえ」

「いいのよ。楽しみにしてるわね」

「はい!」



     *



 ──それがどうしてこうなった。

 十二月の下旬、私は学園の大ホールで生ぬるい微笑みを浮かべていた。


 壇上では開会のあいさつをしたクレイ王子が(あで)やかな姿を披露している。

 その長身を包むのは、布をたっぷり使った紅色のドレスだ。


「やあ、セラ。楽しんでるかい?」

 声をかけてきたキルシェも、華麗な衣装をまとっている。

 騎士の制服をモチーフにしたオリジナルのパンツスタイル。──つまり、男装である。

 シェリルの考えたテーマは、「異性装、またはそのモチーフを取り入れること」だった。


「ええ、おかげさまで。シェリルさんにアイデアをうかがったときは、斬新すぎやしないかと思ったものですけど……、こうして見ると皆さま見事に着こなされてますわね」

 さすが乙女ゲームのキャラたちである。なんとも複雑だが、目の保養だ。

「ふふ、そう言うセラだってしっかり着こなしているじゃないか」

「いえいえ、わたくしなんて」

 私など所詮モブ。兄が少年時代に着ていた上着がそのまま着られたので、間に合わせで羽織ってきただけだ。


 平民や下位貴族の皆も、男子は髪飾りをつけたり、女子は男性用のネクタイなど小物を身につけたりしてめいめいに楽しんでいるようだ。

「おや、ブリッツ。素敵なリボンをしてるじゃないか」

 キルシェが、そばを通ろうとしていたブリッツに声をかけた。

 彼は一つ結びにした黒髪に、シックな水色と白いレースの重なったリボンを飾っていた。


「……まあな。姉貴に借りたんだ」

「へえ、いい趣味のお姉さんだね」

「ええ。よくお似合いですわ」

 私たちがほめると、少し居心地悪そうではあるが、まんざらでもなさげにしている。


 ぱちん。いいことを思いついた、というふうにキルシェが指を鳴らした。

「なあ、せっかくだからあたしと一曲踊らないか?」

 そう言ってブリッツに手を差し出す。

「えっ。いや待て、俺こんなところで踊ったことないよ」

「ダンスの授業の通りにやればいいんだ。女性パートを踊れとは言わないからさ」

「……うーん……。男性パートなら、まあ……練習はしたけど……」


 ちらっとブリッツが私を見る。

 ……助け船を期待してるなら、無理です。私はモブなので。

「お二人が踊られるところ、わたくしも拝見したいですわ」

「うっ……いや、二人で話してたんじゃないのか?」


「──それならセラ嬢は僕と踊っていただけませんか?」


 わっ。

 後ろから声をかけてきたのはアルトだった。いつからそこにいたの?


 こちらは、壇上のクレイ王子とは対照的に、ベージュのマーメイドドレスをまとっていた。

 ラインは体に沿っていて、それでもエレガントである。この日のために仕立てたものなのだろう。当然か、正体は王子だもんね。

 ただでさえ整った(かんばせ)には、薄くおしろいが施され、頬と唇はほのかなピンクに染まっている。

 クレイ王子が大輪のバラなら、こちらは気高い百合のようだ。


「それはいい。お互い楽しもうね、セラ」

 私が返事をする前に、キルシェがそう言うとブリッツの手を取り踊りの輪へ向かってしまった。

 天才剣士は救いを求めるような目を私に向けてきたが、ごめん、こちらも同じ気持ちである……。




「では」

 アルトが手を差し出す。有無を言えない私はその手を取るしかなかった。


 男爵家の子息とは思えない堂々とした歩みで(正体ばれてもいいの?)ホールの中ほどに導かれる。リードされて、すぐに音楽に乗った。

「この格好でご令嬢をリードするのも不思議な感じだね」

 笑って囁かれる。私はステップについて行くので精一杯……と言いたいところだが、アルトがうますぎて、喋る余力があるのがなんだか悔しい。


「ええまあ、私では男性パートはできませんから……」

 くすっと笑われた。別にうけを狙ったつもりはなかったんだけど。


 ホールの別の場所では、ヴァルナーとヴィシもダンスを楽しんでいる。

 この二人は最近、婚約を結んだと聞いた。めでたい。

 壇上のクレイ王子の横には、少年貴族が着るような半ズボン姿のシェリルが控えている。


 私の視線の先に気づいたのか、アルトがまた口を開いた。

「……シェリルさんのアイデアは斬新でおもしろいね。彼女は、セラさんやリジー様に相談したと言っていたよ」

「……わたくしどもは、ちょっとした貴族の風習をお伝えしただけですわ。このような発想はあの方の才能のたまものですわね」


「そうかもしれないけど、殿下が信を置いている女性にあなたたちのような気心の知れた友人がいるのは、純粋に喜ばしいよ」

 ……そうなのか。やはり王子ルートも順調みたいだ。

「恐れ入ります」

「バザーの方も見てきたよ」

「ええ、皆さま力作ぞろいで」

「セラさんは書いたものを出さなかったの?」


 ……え?

「わたくし、ですか?」

 なんで私が、バザー?

「……ああ、ええと。あなたの記事のファンなんですよ、僕は。学園新聞の」

 なるほど?

 記事と文芸では、だいぶ違う気もするけど。

「あの……、お恥ずかしながら、バザーに出すようなものは、とてもとても」

「そうでしたか」

 そう言ったアルトの微笑を眺めながら、確かに、と思った。


 前世だったら、仮にも物書きである。

 率先して何かを創作し、出品していただろう。

 転生してからはそれどころではなく、創作活動からは離れていたけど……。

 そうか。

 全部片づいたら、宮廷詩人とか目指してみるのもいいかもしれないなあ。




 そんなことを考えながら音楽に揺られていると、アルトがそういえば、と声を潜めた。

「宰相府が調査した件、ある程度のルートは絞れたらしくて。一網打尽とは言えないけど、それに近いところまでは達成したみたい」

 えっ。

 思いっきりステップを踏み外したのを、アルトがこともなげにフォローする。


「……! ……!?」

 どう考えても今のは、秋に見届けたヴァルナールートの事件の後日談だ。

 アルトがその顛末を知っていること自体は不思議ではない。

 だが、どうしてそれを私に?


 混乱していると、アルトはいたずらっぽく笑った。

「知りたいだろうなと思って」

「はい!? ……いえ、そんな理由で流していい情報なんですか、今の!?」

 小声で抗議する。その顔じゃ騙されませんからね。


「詳細は言ってないから、いいんじゃない? あなたなら悪用するようなこともないだろうし」

 はあ……。

 なんだろうこれは。シェリルのお友達特典?

 どっと疲れて肩を落とすと、アルトはくすくす笑って壁際に導いてくれた。

 すぐに冷たい果実水のグラスをとって渡してくれる。至れり尽くせりだ。


 化粧までして磨き上げているイケメンにかいがいしくされると、変な気分になってしまう……。

 でも、まあ、そっか。

 薬物蔓延は防げたんだ。


 よかった。

 残りの事件はあとふたつ。地道にシェリルのステータスを上げつつ、各ルートの好感度をチェックして、イベントの発生を見逃さないようにしなきゃ。

 そして、できれば解決までアシストしたい。


 美しく微笑むアルトの横で、私は決意を新たにしていた。





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