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前世で書いた鬼シナリオの回収は、サポート令嬢の私にかかっている  作者: 紫嶋桜花


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4/10

二年目① 学園剣術大会

 裏庭の桜の木は、ふたたび見事な花をつけている。

 私達は二年生になった。


 この学園は、三年間クラス替えなしの持ち上がりだ。

 席順や委員会などはそれなりに入れ替わる。シェリルとヴァルナーはこの春、新しく生徒会入りした。

 シェリルは雑用でその能力が認められ、ヴァルナーは王子の側近として仕事のやり方を学ぶのだろう。


 二年の春にはイベントが控えている。

 生徒たちが腕を競い合う剣術大会。その当日、王子暗殺事件が起こるのだ。


 最初のイベントということで、よほどのことがなければ阻止できるようにはしてあった。

 ゲーム的には、体力を上げて、ブリッツの好感度も一定まで上げていればいい。



     *



 校庭に作られた特設会場には、熱気がみなぎっている。

 私が控室にいると、キルシェに声をかけられた。

「シェリル、セラ。調子はどう?」

 キルシェはもちろんシェリルも、なんと私まで選手の一人だ。

 ブリッツとキルシェが順調に距離を縮めているか探りを入れているうちに、二人の鍛錬に巻き込まれ、あれよあれよとこんなことになっていた。


「うう、どきどきする……。キルシェさんは去年も出てたでしょ? もう余裕?」

 シェリルはさすがに緊張しているようだ。

「余裕……、かどうかはわからないけど。どきどきというよりは、わくわくするかな?」

「それが余裕って言うんだよ。ね?」

「ええ、私もそう思いますわ……」

「ははは、そうかな」

 ……私はまあ、別の意味でどきどきなのだが。



 王子暗殺事件の阻止には、ルートが二つある。

 シェリルがこの時点で体力を上げ切っている場合と、そこそこの場合だ。


 上げ切っていれば、シェリルは決勝戦でブリッツと対戦する。

 その、会場の興奮が最高潮になったところを狙って、暗殺者が客席に姿を現すのだ。

 シェリルとブリッツは、会場中央に作られた競技エリアでそれを察知し、すぐそばの生徒会専用席にいるクレイ王子を守ることになる。


 そこそこのルートでは、シェリルは客席で決勝観戦中に暗殺者を見つけ、警告を叫ぶ。

 その声にステージのブリッツが気が付いて、同じく凶行を阻止する、という流れだ。




「キルシェさん、がんばれー!!」

「応援していますわー!」

 というわけでサクサクと試合は進み、決勝戦である。


 対戦するのはもちろん、ブリッツとキルシェだ。

 ちなみに私は二回戦で敗退(一回勝っちゃったほうがびっくりなんだけど!)、シェリルは準々決勝まで進んでいた。

 一緒に客席でキルシェを応援することになったので、さりげなく暗殺者が現れるはずのポイントの近くに陣取った。


 王子を直接守るのはキルシェとブリッツに任せるとして。

 私は、原作そこそこルートのシェリルの代わりを務めるつもりだ。

 そのために仕込んできた魔宝石をギュッと握る。


 これは、前世の防犯ブザーにヒントを得て作った、警報用の魔宝石だ。

 魔力を通すとすごく大きな警報音が出る仕組みになっている。ちなみに、魔法の構築はルカに相談したら嬉々としてやってくれた。

 この件がうまく片付いたら、女性や警備を仕事にしている人に売り出すのもいいかもしれない……。

 なんて、緊張をほぐすためによけいなことを考えていると、試合が始まった。


「ふたりともすごい!!」

 隣でシェリルが歓声を上げている。

 やはり、ブリッツは強い。

 だけどキルシェもしっかり対策してきているようで、彼の剣をうまくいなしている。

 客席が二人の戦いに意識を集中しつつある……、このタイミングだ。

 私は客席の間の通路に目を凝らす。


 ──きた!

 黒装束の人影が現れた。手は懐だ。ナイフを隠し持っているのだ。

 私のすぐ横を通るルートだ。


「誰ですか!?」

 最初に上げた声はやはり、弱くかすれてしまった。

 ──握りしめた魔宝石に魔力を注入する。



 ピーーーーーッ!



「!?」

 狙い通り、警報音は喧騒を切り裂いて響き渡った。

 ざわついていた周囲の人々が、一斉にこちらを向くのを感じる。

 もちろん、黒装束の男もだ。


「…………!」

 ぶわっと、男の殺気を感じた。

 抜かれたナイフの鈍い光。──殺される!



 そのときさっと、何かが視界をさえぎった。


「セラさん!!」

「セラ!」

「危ない!!」


 いくつかの声が飛び交い、私は強く引っ張られる。

 すぐにガッと衝撃音がして、暴力の気配がする。

 しかしそれもすぐに終わって、



「……びっくりした……」

 頭の上からシェリルの声が聞こえた。

 その向こうからはアルトの声も。

「セラさん、……大丈夫ですか? 怪我はない?」

 気が付いたら私はシェリルに抱きかかえられ、さらに男との間にはアルトが立ちはだかっていた。

「あ……大丈夫、です……ありがとう」

 二人にお礼を言って、そっと男がいた場所をのぞき込む。


 男はブリッツによって地面にうつぶせに拘束されており、近くにはもう一本、試合用の剣が落ちていた。

「キルシェさんが身体強化魔法で投げた剣ですよ」

 私の視線の先に気づいて、アルトが親切に教えてくれる。


 そうか。

 キルシェがとっさの判断で剣を投げ、男がひるんだ隙に駆け寄ったブリッツが制圧したのか。

 やはり、二人に任せておいて間違いなかった。



     *



 男は学園の警備員に引っ立てられていき、騎士団に引き渡されるようだ。

 そして私は、というと。


「なんであんな危ないことをしたんですか」

 腕組みをして正面から詰問するのはアルトである。

「それは、ええと、どう見ても怪しかったから……」

「ならセラが注意を引くのは危ないってわかっただろ?」

「そうだよ。警備隊に知らせればよかったのに」

 キルシェとシェリルもお怒りモードだ。

「ま、間に合わないと思って……」

「だからって君のような女の子が、しかも丸腰で立ち向かう相手じゃないでしょ」

 さらには、ブリッツにまで説教を受けていた……。


「……はい。今後気をつけます……」

「──そんなに責めてやるな」

 四人に囲まれて謝り倒していると、意外な助け船が入った。

「おかげで大事に至らず、皆無事だったのだから」

 クレイ王子その人である。


「今日この会場にいて命を狙われるような者は、わたしの他におるまい。礼を言うぞ、セラ嬢」

 浅い角度だが頭を下げられて、慌てて手を振って否定する。

「そんな、私は何も……ブリッツさんとキルシェさんのご活躍のおかげですわ」

「謙遜するな、よくぞ気づいた。それに、あの響かせた音はなんだ?」

「あ、これは、我が商会の新商品で……」

「ほほう」

 ずっと握りしめて固まっていた手をなんとか開いて、魔宝石をお見せすると、王子は興味深そうだ。




 というわけで、防犯ブザー型魔宝石は後日、王子殿下のお墨付きで大々的に売り出せることになった。

 彼なりの感謝の気持ちらしい。

 ルカにもロイヤリティを支払わなきゃ。技術が認められたと聞けば喜んでくれるだろうか。


 ブリッツとキルシェも、事件解決に多大な功があったとして、二人そろって優勝者として名が刻まれた。

 こうして王子襲撃イベントは無事阻止。




「よし」

 私は運動着から制服に着替えると、ほっと息をついた。

 このやり方で、シナリオを回収していけそうだ。

 確かな希望が見えた気がする。


 さて、家からの迎えの馬車が来ているはずだ。ロータリーに向かおうとすると、廊下の壁にもたれかかっている人影がいた。

「セラさん。今帰り?」

 アルトである。

「……えっ。あ、はい」

 まさか、お説教の続きだろうか。


 思わず身構える私のもとに、アルトは数歩近寄ってきて、顔を歪めた。

 泣き笑いのような不思議な表情だ。

「……手」

「…………?」

 何を言われたのかよくわからなくて戸惑っていると、彼は勝手に私の手を取って引き寄せた。


「……まだ、震えてる」

「あっ……」

 途端に二重の恥ずかしさが襲ってくる。

 男子に手を取られていること。

 恐怖を、悟られていたこと。


「すみません……」

 もはや自分でも何について謝っているのかだが、口をついて出たその言葉をアルトは首を振って打ち消した。

「いいよ、謝らなくて。だけど一つだけ、約束して」

「約束……」


「君の周りには、頼りになる人たちがたくさんいる。だから、ちゃんと頼って?」

「…………」

 頼っている、つもりなのだけど。

「もちろん、俺でもいいから」


 私が返事できずにいると、アルトはふっと笑ってその手を離した。

「じゃあ、セラさん。気をつけて帰ってね。また」

 背中を向けて片手を降る。

「……あ、はい……、ごきげんよう……」




 彼が去った後、私はしばらく呆然と廊下に立ち尽くしていた。

「……何だったんだ、今の……」

 手の震えはおさまっていた。



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