さくせん:適材適所
「あたしの婿殿? 少なくともあたしよりは強くないと困るかも」
キルシェ・バウム。ブリッツルートのライバル令嬢だ。
王国騎士団長の娘であり、本人も女騎士として女性王族の近衛になることを目指している。
「それに、あたしと結婚するなら未来の騎士団長への道も開かれる。強さだけじゃなく、志がないと」
ふむふむ。
ブリッツは男爵家の次男で、幼い頃領地が魔物災害に見舞われている。
そのとき救援に来てくれた騎士団に憧れ、いつか自分も人を救う立場になりたいと、剣術を修めてめきめきと才能を伸ばしたというキャラだ。
相性は良さそうだ。あとはルートの事件をうまく解決してもらうだけ……。
「そうなんですのね。ふさわしい方が見つかることを祈っておりますわ」
秀才ヴァルナールートのライバル令嬢は、ヴィシとか言ったはず。
そういえば他クラスの図書委員にそんな人がいたような……。
図書館に行ってみれば、いた。
カウンターにいるのがライバルエンドのスチルに描かれた彼女に違いない。
ヴァルナーは、と見れば自習エリアにいるのが確認できる。
そうそう、ゲームで彼の友好度を上げるには、図書館に通って接触回数を増やす必要があるんだよね。
……なるほど、図書委員だから自然と友好度が上がるってことか……。
「とはいえ、友好度で発生するイベントがちゃんと起きてるか、時々チェックしに来たほうがよさそうかな」
ルカルートのライバル令嬢は、なんと公爵令嬢だ。
美しいものと才能のある人間に目がないお嬢様で、変人だが魔法にかけては天才的なルカを気に入ってパトロンになる、みたいなエンディングだったはずだ。
さすがに公爵令嬢に伝手はない、ので。
とりあえず夏休みの合宿に参加して魔力を上げ、上級魔法クラスに入ってルカの方と接触することにした。
「セラさんって向上心があるんだね。見習わなきゃ」
……なぜかシェリルも合宿に参加して、二学期には一緒に上級魔法クラスに入ることになったのは意外だったけど。
いや、意外ではないのか、もともと全員の攻略ができるポテンシャルのあるヒロインだ。
だが、シェリルにはルカルートじゃなくてクレイ王子ルートを攻略してほしいなあ、というのが本音である。
というのも。
「クレイ王子のライバル令嬢はエンディングだけに出てくる友好国の王女様だから、シナリオ終盤の陰謀撲滅イベントには間に合わないんだよなぁ……」
*
というわけで、シェリルには統率力を上げてもらわないといけない。
もともと目を引く子なので、体育祭や文化祭では自然とクラスをまとめるようなポジションになってはいたが……。
「統率力上げイベントは、先生の手伝いをしたり、生徒会の雑用係になったりだったっけ……」
先生の手伝いはたまにしているようだけど、生徒会のほうが効率がよかったはず。
……ちょっと生徒会の様子をうかがってみようか。
「先輩、これって、文化祭での生徒会長の写真ですわよね?」
「そうそう、紙面に使わなかったやつ」
学園新聞部の部室でちょうどいいものを見つけた。
「とてもきれいに撮れておいでですわ。生徒会長にお渡ししてはいかがです?」
進言してみたら、先輩は、「えっ」と尻込みした。
平民枠の生徒なので、殿下やその側近に声をかけるのは恐れ多いらしい。
……ラッキー。
「では、私がお持ちしてもよろしいでしょうか? 春のインタビュー記事のときに生徒会の方とはお会いしましたので」
二つ返事で許可が出て、意気揚々と生徒会室に向かう。
ノックをすると返事があり、数ヶ月ぶりの生徒会室にお邪魔した。
「ごきげんよう」
「こんにちは、えっと君は、学園新聞部のセラさんだったね」
「覚えておいででしたか」
部屋にはあの時と同じように、アルトが一人で座っていた。
写真を渡して喜ばれ、確実に殿下に渡すと約束してもらう。
「……えっと、殿下は相変わらずお忙しくていらっしゃるのですか?」
「そうですね。他の皆も、補佐だの見回りだのでやることが多くて。ご覧のとおりなんですよ」
言われて部屋の中を見渡せば、全体的に書類が重なっていたり、道具が出しっぱなしになってどんよりとしている。
これはあれか。フラグが立っている?
「あの、僭越ながら……生徒会は任期の途中でも補助として人員を募集していいことになっていたかと存じますが」
「ああ。雑用係のことですね?」
「ええ」
アルトは肩をすくめる。
「できれば誰か来てほしいんですけどね、ちょうどいい人材が見つからなくて。有能でよく気がついて、部活やクラブに入っていない子……」
よっしゃ来た。
「それでしたら、私のお友達を推薦できますわ」
アルトは前のめりで食いついた。
「本当!?」
*
半月後、二学期ももうすぐ終わりという頃。
廊下でアルトに声をかけられた。
「セラさん、先日はどうもありがとう」
「いえ、私がしたのは紹介だけですわ。その後いかがでしょうか?」
アルトはにっこり笑った。
「とてもよく働いてくれる、いい子ですね。助かっています」
「まあ、それは何よりです」
シェリルからも作業は順調、クレイ王子殿下はじめ生徒会の面々とも打ち解けた、と聞いている。
統率力上げと友好度上げが兼ねられて、私もありがたい。
挨拶だけかと思ったら、アルトの話はまだ続くようだ。
「シェリルさんを紹介してくださったお礼をしなければならないと、殿下とも話していたんですよ」
「まあ、そんな、大したことはしておりませんのに……」
「遠慮しないで、本当に地獄に……地獄に創造神だったんですから」
面白い言い回しだ。そういえばこの世界に仏教はないな。地獄はあったっけ?
ふむ。
実は、やんごとなき方々に助けていただけると嬉しいことが、一つあった。
「あの、私の実家で最高級の魔宝石が手に入ったのです。ぜひ、ふさわしい方にと思っているのですが、なかなか伝手がなくて……」
どうにかしてリジー様と繋がりができないかと、頑張って手に入れたものだ。
直接彼女でなくてもいいが、少なくとも貴族で魔宝石集めを趣味としている層には近づいておきたい。
「なるほど、それなら殿下に口をきいていただけるかもしれません。どういった方がふさわしいと思われるのか、イメージはありますか?」
やった。希望まで聞いてくれるなんて、なんて親切なんだ。
「そうですね、かわいらしいピンク色の魔宝石ですので、ご令嬢がよろしいかと存じますわ」
アルトは少し思案するようにしてから、やがて。
「……それでは、公爵令嬢のリジー様などはいかがですか? この学園の二年生にいらっしゃる」
「まあ! 願ってもないことですわ!」
ついはしゃいだ声を上げてしまった。
さすが隠しキャラのアイテール、有能すぎる……。
*
実際にお会いしてみれば、リジー様も大変気さくなお姉様だった。
魔宝石を実際に使うところも見てみたいとおっしゃるので、お友達としてシェリルとルカを紹介した。
そう、ルカはシェリルの秘めた魔力に興味津々で、上級魔法クラスでは自然と私と三人で行動するようになっていたのだ。
シェリルにはクレイ王子ルートを選んでほしいので少し心配もしたが、ここは純粋な友情を育んでいるらしく、一安心。
「すごいお屋敷ですね……なんだかずっといい香りもします。さすが公爵家です……」
「魔法で香を屋敷中に充満させてるんだろ。それより、魔宝石はどこ?」
「焦らないでくださいまし。今、わたくしのコレクションをお目にかけますわ」
三人の対面は、こんな具合である。
リジー様はマイペースなルカにも腹を立てることはなく、終始きらきらとした瞳でその魔法を見守っておられた。
……よし、いけるかもしれない。
こんな感じで、私の学園での一年目は終わった。
成果は上々。
二年目からは事件が起き始める。気を引き締めていかないと。




