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前世で書いた鬼シナリオの回収は、サポート令嬢の私にかかっている  作者: 紫嶋桜花


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2/10

サポートキャラのお仕事

 桜舞い散るあの日から、早くも一ヶ月後。

 新入生たちはそれぞれ学園に馴染んで、今日も教室で賑やかに談笑していた。


 ゲームの舞台でもあるこの学園は、平民から貴族、王族まで分け隔てなく受け入れている教育施設だ。

 もちろん平民が入学するにはそれなりの学力が必要になるが、それさえクリアしてしまえば、学費や学用品の補助もあり、地方出身者は寮に入ることもできる。

 学園生活の上でも取り立てて身分差を意識しなければならないということもなく、さすがに王族は敬意を持って遠巻きにされているが、貴族と平民が対等に会話を交わす姿も日常茶飯事だ。


 私は休み時間、窓際の席にいる女子生徒に話しかけた。


「シェリルさん、お聞きになった? 次の魔術基礎の授業、小テストがあるらしいですわよ」

「えっ、本当!?」

 主人公ちゃんことシェリルは、慌てて魔術基礎の教科書とノートを取り出した。

「復習しておかなきゃ、セラさん、いつもありがとう。本当に耳が早いね」


 シェリル・ブロッサム。

 ゲーム『君と紡ぐ約束』の主人公で、平民出身の学生だ。

 ふわふわとウェーブのかかった髪を肩の上で切りそろえた、なかなかの美少女である。

 今、私に向けてくれた感謝の微笑みもなかなかの威力だ。流れ弾を受けた背後のモブ男子学生がぼーっとしている。


 セラ・グリーンフィールドは、原作ゲームではお助けキャラと呼ばれるNPCだ。

 シェリルと最初に仲良くなり、季節のイベントや攻略対象のちょっとした噂話を教えてくれる役回りである。

 作中では、「実家の伯爵家が商売をやっていて情報に敏感だから」という設定だった。


 実際、シナリオの流れやイベントのタイミングは完璧に頭に入っているし、うっかり一般人は知らない原作知識をぽろっとこぼしてしまっても、情報通キャラを徹底しておけば怪しまれないだろう。

 そんなことを考えて、新学期が始まってからの数週間をシェリルやクラスメイトたちへの情報提供と、ときには本当に情報収集して自分の知識との齟齬がないか確かめながら過ごしていたのだが。


「え、小テスト? マジで?」

「セラさん情報!」

「わあ、じゃあマジだ!」


 ……思惑通り、すっかり情報通として定着したようで何よりだ。

 周りの生徒たちもそれぞれ復習を始め、結果、このクラスの小テストの結果は教科担任が褒めるほどの出来だった。



 授業の後、何人かの女子に声をかけられる。平民組から伯爵令嬢まで混ざった気さくなグループだ。

「セラさんほんと助かった〜! ね、放課後カフェテリアのアイスクリーム食べない? お礼にみんなでおごるから!」

 魅力的なお誘いだったが、あいにく先約があった。

「ごめんなさい、今日は新聞部のほうで取材があるの。また誘ってくださる?」

「あら、それなら仕方ないか……。また今度行こうね」

「ええ、ぜひ」


 私の情報収集手段のメインがこれである。学園新聞部。

 一年生から最上級の三年生までが所属し、自分たちの足で取材を行って記事に起こす。

 その中でも私は主に、生徒会関連を担当させてもらっていた。


 生徒会長は、五月から王子クレイ殿下に交代することが決まっている。一年生ではあるが、慣例に加え殿下自身リーダーシップが認められたことによる。

 同学年だが、シェリルや私はC組、殿下はA組なので、お近づきになるには生徒会に入るしかない。

 プレイヤーであるシェリルが生徒会の正式なメンバーになるには、来年四月の改選を待たなければならない。が、その前から雑用を手伝うことは可能だ。

 いずれも、ゲーム的には一定の能力値……この場合ならば統率力ポイントを上げておくことが必要となる。


 同じように、魔法使いのルカはB組で、先に魔力を上げて魔術の上級クラスに入らないと接触できない。

 比較的楽なのが同じクラスの剣士ブリッツと秀才ヴァルナーで、最初から会話ができる。ただし、一定以上の好感度を獲得するにはやはり体力と知力を上げなければならないが。


 ブリッツとヴァルナーは既にどちらも学年で人気があり、特に気さくなブリッツは話しかけるのも自然にできそうだ。ルカはまだ魔法の実技が始まっていないので、目立っていない。

 クレイ殿下は学園全体から敬意をもって接されている。


 できれば私がパラメーターを上げて攻略していきたいのだけど、シェリルじゃないとイベントが起こらない可能性もある。

 なので、多少仲良くなれたことだし、彼女を勉強会や運動に誘い出すのがいいのだろうか、と画策しているのだが……。




 などと考えているうちに、放課後になり、生徒会室へ向かう。


「ごきげんよう」

「ああ、いらっしゃい」

 生徒会室には男子生徒が一人だけいた。ゲームでよく知っている顔だったので、ちょっとどきりとした。


 アルト・アーベル。アーベル男爵家の次男で、幼い頃からクレイ殿下の近くに控えている、側近中の側近だ。……表向きには。

 その隠された正体は、クレイ殿下の双子の弟、アイテール。

 五人目の攻略キャラその人である。


 彼のルートに入るには、統率力、知力、体力、魔力のすべてのパラメーターを一定まで横並びに上げたうえで、シナリオ中の特定の選択肢を何個も踏まなければならない。鬼難易度の隠しキャラにふさわしい面倒さである。

 ゲームならともかく、現実世界で実現できる気はしない。

 ただし幸いなことに、彼に紐付けられた特定の災害や事件はない。なので、彼の好感度が稼げなくても、国が傾くということはない。

 この際ありがたく、彼の攻略ルートは無視させてもらうことに決めていた。


「新聞部のセラ・グリーンフィールドです。今日は新生徒会長に就任のインタビューをお願いする予定だったのですが」

 生徒会室にクレイ殿下はいない。

 尋ねた私に、アルトはすまなそうな顔をした。

「はい、そのように聞いています。ただ申し訳ないんですが、殿下はお城での仕事もあって、今日はもう戻られたんです」

 ああ、そういう設定にしてたんだった。それで、殿下の好感度は上げづらいのだ。


「代わりに就任挨拶の原稿をお預かりしているんですが、こちらでも構いませんか?」

「拝見します」

 整った字で書かれた便箋を受け取る。

「……これは、殿下がご自身で?」

「はい。僕たちが書きますよと申し出たんですが、生徒の規範となるべき立場だから、ご自分で書かれるってきかなくて」

 そうそう、そういう完璧超人にしたんだっけ。

「お忙しいところ、恐れ入ります」


 記事としてはこれを掲載させてもらうだけでもよさそうだったが、情報収集の一環も兼ねて少し尋ねてみる。

「何でもご自身でされてしまう方なんですか?」

 アルトは苦笑した。

「そうですねえ。またそれが、できてしまう方なので。……とはいえ、僕たちも控えているんですから、全部一人でやらなくても、適材適所に割り振ってくれたらいいと思わないこともないですよ」


 …………!

 適材適所。それなだわ。


「……ありがとうございます! それでは、失礼します」

「えっ、あ……いやこちらこそ、よろしくお願いします……?」

 このひらめきを逃したくない。

 面食らったアルトをおいて、私は会釈すると足早に生徒会室を立ち去った。




 廊下を移動しながら考えをまとめる。


 私、もしくはシェリル一人で、全キャラを攻略しようと思うから大変なのだ。

 ライバルキャラに力を借りればいいのである。


 攻略キャラにはそれぞれ、攻略を失敗したときや別のキャラクターを攻略したとき、友情エンドになったときに、シェリルに代わってパートナーの座に収まるライバル令嬢たちがいる。

 彼女たちのパラメーターは設定していないが、パートナーの座をかっさらっていけるくらいなのだから、スペックは足りているのではないだろうか。

 確か、剣士ブリッツの相手は同じクラスにいたはずだ。

 さっそく探りを入れてみよう。


 私は心からアルトに感謝した。



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