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前世で書いた鬼シナリオの回収は、サポート令嬢の私にかかっている  作者: 紫嶋桜花


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1/10

伝説の桜(仮)の木の下で

 学園の裏庭には、伝説の大樹がある。

 なんでも、卒業式の日にここで誓いを交わせば、その誓いは神に祝福されるという。

 うららかな日のさす春の午後。

 広がった枝には薄紅色の花がこれでもかと咲き誇って、一足先に散り始めた花びらは、それを見上げる私に景気よく降りそそいでていた。


 西洋風の剣と魔法の世界の学園なのに、どうして桜ふうの大樹なのか。


「それは、日本人が作ったからですね……」






 ときは四月。学園の入学式の日である。

 正門や寮に続く通用門のほうからは、緊張と期待に上気した顔の新入生たちや、それを歓迎する先輩たちのにぎやかなざわめきが風に乗って届いてくる。

 が、この裏庭に用のある人はいないらしく、見事に誰の姿もなかった。

 それをいいことに、咲き乱れる桜(仮)の幹におでこをゴンゴンとぶつけた。


「ああぁ〜……確定しちゃった……薄々、いやかなりそうじゃないかと思ってたんだけど、そうであってほしくはなかったなぁ……」


 ここはどうやら、乙女ゲーム『君と紡ぐ約束』の世界だ。

 私はセラ・グリーンフィールド、商いを生業とする伯爵家の娘。

 ゲームの中では、サポートキャラと呼ばれるNPCである。

 ──そして、前世の記憶がある。

『君と紡ぐ約束』は、私がかつてシナリオを担当していたゲームの名前だ。


 従来の乙女ゲームに、戦略ゲームの要素を加えた意欲作。

 主人公は前世でいうところの高校に相当する学園に入学し、王国の次代を担う男子たちとお近づきになる。

 攻略キャラは五人だ。王子クレイ、宰相の息子で秀才のヴァルナー、類稀なる剣の才能を持つブリッツ、秘めた魔力は歴史上でも五指に入るというルカ、隠しキャラのアイテール。

 それぞれのキャラクターと仲を深めるためのパラメーターが、王国の国力とも連動している。王子は統率力、秀才は知力、といった具合だ。


 自信をもって送り出した作品だったが、世間の評価はいまいちだった。一部の層には刺さったらしいが、その程度。


 というのも、こだわりにこだわった戦略部分が『鬼難易度』とされてしまったのだ。

 攻略キャラ一人一人に、国を揺るがすレベルの事件や災害が紐づけられていたのがよくなかったのかもしれない。攻略を間違えると実際に国が滅ぶので、それを回避するには全員の好感度を稼がなければならなかった。


 つまり、単独ルートに入りづらい。ハーレムエンドや友情エンドならば楽に回収できるのだが、まさに「恋と国家運営の両立って難しい……!」を再現してしまっていたのである。

 ファンディスクを出せたら、やりたい話や掘り下げたいキャラもいたのにそれは叶わなかった。残念……!


「……いや、今の問題はそこじゃない」


 攻略が、鬼難易度。

 間違えると、国が滅ぶ。


「うわあああ……!」

 私は桜(でいいや、もう)の根本にくずれ落ちた。

 どうしてそんなシナリオを書いてしまったのか……。

 もう少し手心を加えていれば、今回の人生も安泰だったろうに。


 わかっている。ノリノリの戦略ディレクターたちに、私もついうっかりノセられてしまったのが悪い。

 さっき、ちらりと入学式で主人公ちゃんの姿を見かけたが、私の目には、前世の記憶も野心もないただの普通の女の子に見えた。

 国の行く末を、あんないたいけな少女に負わせるわけにはいかないとも思った。

 ……いや、そんなゲームを作ったのは我々なんだけど。


「──よし」


 私は頷く。覚悟を決めた。

 かくなる上は、鬼難易度の攻略を、私が人知れずアシストするしかない。

 王子の暗殺。王都の大炎上。その他。

 数々の困難が控えている。

 だが、考えたのは私で、解決の筋道を立てたのも我々制作チームだ。


「なんとかなる……ううん、なんとかする」


 前世の記憶をフル回転させて、サポート令嬢の私が、鬼シナリオを回収するのだ。




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