青い斑点
男は一本の釣竿を手にして父の車に乗った。父は言った。
「今日は釣り、できるかな?」
天気は曇り。少しの雨粒が風に乗ってフロントガラスにぶつかる。助手席に座った男は窓の外を見つめた。
「雨だね。」
男はそう言った。車の後部座席には古いクーラーボックスと、千円の釣竿が乗っていた。
パンを片手に運転していた父は、昔の釣りの話をした。もう二十年も前のことだった。男がまだ生まれてもない頃の話。
「ここら辺、久しぶりじゃないか? うずらの交差点」
男は地名板を見た。訪れるのは四年ぶりだった。
「そうだね」
男は四年前の釣りを思い出した。
男は延べ竿を垂らして、父のトイレを待っていた。半日同じ場所で釣り糸を垂らしていた。
釣竿に手ごたえを感じて、強く引き上げた。掛かったのは青い目のような斑点と、縞模様のギルだった。
「ねえ? もう食べないで。君じゃない子を釣りたいんだ」
男はブルーギルにそう話しかけながら針を外すために触れた。
「あつい、あついよ、やめてくれ……」
ブルーギルはそう言った。何度も叫んだ。男はその声を聴いていた。水に一度戻した。
血が広がっていった。男が針を掛けたギルは、やがて動かなくなった。
父が弟と一緒に戻った。父はそれを見ると同時に、竿を引き上げて頭をやけに優しくなでた。
「あーあー、いたそうだ」
父はあっという間に針を外した。沼の水に浮いたギルを二度も見ない。
「どうした?」
男はスナップにスプーンを付けながら、水面を見つめた。白い花が浮かんだ沼は酷く濁って見えた。




