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赤き神狼イグニス、今日も全力!  作者: 石火


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第七話 赤き神狼とBBQ

 交易都市ルーエンへ全力疾走中のイグニスでっす!


 もう楽しみ過ぎて足の回りが、異次元の動きをしてますよ!合間に挟むステップでギューンと跳んじゃいます。


 街に向っているという事実だけで口角が上がり笑みがこぼれる。


(なんだか良い匂いがするな、これは肉を焼いてる匂いだな!BBQか!)


 匂いの元へ近づくにつれBBQが現実のものと確信する!

 火を囲み肉を焼く男へ向かって大きく跳躍し、そのまま上空から飛び降りた。


 俺はタンッとスマートに、焼けた肉を持つ男の横へと着地した。


(最高のタイミング!最高のポジション!最高の着地だ!早くその肉をよこせよ!)


 五人の男たちがいきなり現れた俺を見て驚いている。


 しかし、あろうことか肉を持った男が肉を投げ捨て、腰に佩いた剣を抜き、俺に向けて構えた。


 もう後は俺の口に肉を入れるだけだったのに……土煙も立たない最高の着地だったのに!


 自然と牙がむき出しになり喉が鳴る。


『肉の恨み!お前ら許さん!!』


 その言葉に雷撃が載り、五人の男はバチバチという音と煙を上げながら倒れ伏した。


『何してんだよせっかくの肉を!他の肉上手く焼けるかなぁ』


 そう愚痴を零すと、少し離れた馬車からガタガタと震える声が上がった。


「ひ、ひいいっ!神狼様。お助けください、その男どもは盗賊なのです!」


 手足を枷で縛られた商人らしき男と、怯える大人たちが数人。……なるほど。


(嘘じゃなさそうだけど、助ける理由にはならないな。それより落ちた肉どうするかな……)


「神狼様!僕がお肉を美味しく焼きます!!」


 馬車から聞こえた幼い声に俺はバッと振り向いた。


(えっ!?焼けるの?しかも美味しく!?)


『ならば焼いてみるがいい』


 俺は即座に雷撃の残光で少年の枷だけを弾き飛ばした。


『他の奴らを助けるかは、肉が美味しかったらだ!』


 だって美味しいが一番大事なんだから!


『少年よ、ちなみに肉焼きの経験は?』


「自信があります!先ずはこの肉ではなく、ルーエンに届ける予定だったビッグホーンの肉を使います」


(やば!この少年、出来る子なんじゃない!?急に往年の一流シェフに見えてきたんだけど!)


「余分の脂身などの掃除は終わってますので、カットしていきますね。そして、塩、胡椒。焼きます!」


(お願いします!!)


 肉がジューと焼けて、よだれがポタッ


 ジュー、ポタッ


 ジュー、ポタッ


「あー、家に行けば最高のタレがあるというのに……」


 肉を焼きながら少年が呟いた。


(最高のタレ……いや、あわてるな、まだこの肉を味わってもない)


「お待たせしました。お召し上がりください」


 恭しく差し出された皿には見事な厚切りステーキが載せられていた。


『うむ。頂こう』


 大きく三等分にされた肉を口内へと送り込む。口内を肉の旨味が走り抜ける。


『うっまーい!!』


 三切れを食い終わり、おかわりと言おうとした瞬間……


「おかわりでございます」


(分かってるね!最高だよ少年!)


 五回のおかわりをし、満足した俺は少年に問うた。


『少年よ、名は何という?』


「ティオです!」


『よしティオ!約束通り他の奴らも解放してやる! あと、あの盗賊どもの荷物と身柄は全部お前のものだ!』


ティオが戸惑って商人の男を見るので、俺は大人たちをキッと睨みつけた。


『おいお前ら、ティオに変な横槍を入れたら雷落とすからな? 証人としてティオをしっかりサポートしろよ!』


「「「は、はいぃぃっ! 畏まりました神狼様!!」」」


(よしよし。これでティオは金持ちになって、もっと美味い肉を育てるに違いない!)


『では、我は行く!』


「ぜひ今度はヴェルディに食べに来てください! 最高のタレでお迎えします!」


 最高のタレ、だと……!?


 俺は力強く首肯すると、次の目的地『ヴェルディ』……ではなく、当初の目的であるルーエンへ向かって、勢いよく跳び去ったのだった。


(……最高のタレ、マジで期待してるぞティオ!!)



***



「い、行ってしまわれた……」

「命があった……。あの一撃で盗賊団を壊滅させるお方が、まさか我らをお助けくださるとは……」


 大人たちが胸を撫で下ろし、ガタガタと震える膝を突く中で、商人だけはハッと顔を跳ね上げた。


「ティオ殿……! いや、ティオ様!!」

「えっ、な、なに商人さん!?」


 商人はティオの手を両手で握りしめ、ボロボロと涙を流した。


「神狼様のお言葉をお聞きになりましたか!『変な横槍を入れたら雷落とす』……! 我らは今日から、命に代えても貴方様をサポートせねばならんのです! 盗賊の荷も身柄も、すべて貴方様とご実家の牧場へお届けいたします!」


「ええっ!? でもこれ、元々は商人さんの荷物だし……」


「滅相もない! 神狼様の裁定に反するなど、我らが消し炭にされてしまいます! それに……」


 商人はゴクリと唾を飲み込み、熱い眼差しでティオを見つめた。


「あの神狼様が『最高のタレでお迎えします』という言葉に、力強く首肯されたのですよ!? 次に神狼様がヴェルディをお訪ねになられた際、もし最高のタレが用意できていなければ……ヴェルディどころかこの国が吹き飛びます!!」


「「「な、なんだってーーー!!?」」」


 大人たちが悲鳴を上げた。


「ティオ様! すぐにヴェルディへ戻りましょう! 村中の料理人と調味料を集め、神狼様を満足させる【最高のタレ】を開発せねばならんのです!!」


「は、はいぃぃっ! 僕、頑張って最高のタレ作ります!!」


 こうして、ただ肉のタレを期待して去っていっただけのイグニスであったが、ヴェルディの街では【街の存亡を賭けた、『最高のタレ』極秘開発プロジェクト】が緊急発足するのであった。

最後まで読んでいただきありがとうございます!

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