第六話 赤き神狼と芋
フェンフェンフェンとステップを踏みながら、ご機嫌なイグニスでっす!
足取りも軽やかでそりゃステップもランランランですよ!
理由は干し柿のおかわりがしたくて、ボルジに会いに来ました。
畑でボルジを見つけ、干し柿が欲しいと話すと家にあるというので移動中でっす。
『早く!早く!おいてくよ!』
「はい、急ぎます。ここを曲がるとわが家です!」
(お邪魔しまーす。ってお先に入っちゃってました!土間だ!ばーさん平伏してるんだけど!)
「ようこそおいでくださいました神狼様。あの日から村は活気にあふれ農作物も豊作です」
「「ありがとうございました」」
スイカを追加でもらいに来たら、この状況になった。お礼も言われて敬われているようだ。
しかし、そんな二人を横目に、俺の視線は干し柿と一緒に置かれた焼き芋に釘付けだ。
『焼き芋も貰って良いの?』
「もちろんです!お召し上がりください」
ホカホカに焼けた芋が良い香りを放っている。そして何本かは斜めに切られ、断面を見せるように皿に盛られている。
(見(魅)せ方も分かってるじゃないか!俺はこの世界の民を、見くびってたのかもしれない)
『二人とも楽にするがよい』
ガチガチに緊張している二人の前で、俺は差し出された焼き芋をパクリと口に含んだ。
(んふぅううう!! 蜜がトロトロで甘ぁぁぁい!! 皮の焦げ目も香ばしくて最高じゃん!!むうう、干し芋も食いたくなってきた!)
思わず尻尾がぶんぶんと振り切れるほど振れてしまうが、そこは高位の魔獣としての威厳を保つため、コホンと咳払い(のフリ)をしてドヤ顔を作った。
『ふむ、苦しゅうないぞ。……ところでじーさん、一つ訊きたいのだが』
「は、はいっ! 何なりとお命じください神狼様!」
『この辺りで一番【美味い食べ物】が集まる場所はどこだ? あと、噂に聞く【冒険者】という者たちはそこにいるのか?』
俺がそう尋ねると、ボルジとばーさんは顔を見合わせ、まるで世界の命運を左右する重大な託宣でも受けたかのようにゴクリと唾を飲み込んだ。
「は、はい! ここから街道を西へ下りた先に、交易都市ルーエンがございます! あそこには大きな冒険者ギルドがあり、腕利きの冒険者たちが日々、珍しい魔獣や素材を持ち寄っております……!」
(やっぱりな!! 冒険者ってのは高級食材を狩ってくる『プロの食材ハンター』のことだったんだな!?)
なるほど、そこに行けば前世で食った肉料理や、まだ見ぬ異世界絶品グルメが食べられるというわけだ!
『よし、素晴らしい情報だ。褒めて遣わす!芋も蒸かしてからスライスして干すと、保存食になるうえに美味いぞ!』
「芋にそんな調理法が!ありがとうございます」
(これで近いうちに干し芋まで食えるかも!期待してるんだからねボルジ!)
俺はスイカと干し柿、そして焼き芋をアイテムボックスに収納し、目指すべきグルメの街『交易都市ルーエン』へ向かって駆けだしたのだった。
***
「い、行ってしまわれた……」
「なんと恐れ多い……。神狼様は我ら人間のために、次の地へと向かわれたのですね……」
疾風のように走り去った赤き神狼様の背中を、ボルジと婆さんはいつまでも拝むように見送っていた。
「じいさん……神狼様はおっしゃっておられましたね。『冒険者がいるのか』と……」
「うむ。街を脅かす魔獣を退治する冒険者たちに、神の加護を授けに向かわれたに違いない。街の者たちは、まだご自身のお恵みが及んでおらぬとお考えなのだ……。なんという慈悲深さ……!」
神狼様の深いお心遣いに、二人はボロボロと涙を流した。
そしてボルジは、神狼様から授かった最後の【託宣】を思い出し、ハッと目を見開いた。
「婆さんや! 神狼様はお旅立ちの直前、我々に秘術を授けてくださったぞ!」
「秘術……? あの、芋を蒸して干すという調理法のことですか?」
「そうだ! あれは単なる保存食ではない……神狼様が『近いうちにまた巡幸される』という約束であり、我らへの試練なのだ! 次にお越しになられた際、完璧な『ほしいも』を献上せねばならん!」
「まあ……! では、すぐに村中の芋を集めて準備を整えねばなりませんね!」
こうして、ただ美味い干し芋が食べたくて知恵を授けただけのイグニスであったが、西の村では【神狼様の再臨に備え、至高の奉納品『干し芋』を究極まで鍛錬する職人集団】が爆誕するのであった。
最後まで読んでいただきありがとうございます!
評価やブックマークをいただけると、執筆の大きな励みになります!




