第五話 赤き神狼と西瓜
世界樹の森は、どうやら驚くほど広大だと身をもって知ったイグニスでっす!
そう思った理由としては、東の高い山から西の方角へ向かったけど、森の終わりに一日じゃ着かなかったからだ。
(俺ってば、狭い世界で良い気になってたんだな~)
そして翌々日には西の端までやってきた。ここは東の開拓村周辺と、よく似た雰囲気を感じる。
森から少し離れた場所に道があり、その近くには畑があり家がある。この辺りは大した魔獣は出ないのか、特に大きな塀などで囲ってはいないようだ。
(これはあれか、魔獣よりも人の方が怖いっていうやつかな。まあ、人は瘴気や魔力の流れも見えないし、鈍感だから騙されやすいんだろうな)
この村にも瘴気の澱みがあちこちにある。それでも普通に暮らしてるんだから、鈍いことも一概に悪いとは言えないな。なんて思いながら畑や民家を観察していく。
(うおっ!あ、あれは、スイカじゃないか!魔石食ってたら食事は必要ないんだけど、スイカは食べたいな~)
低い柵に囲まれたスイカ畑を遠巻きに見ると、まだ少し小さい気がする。収穫にはまだ早いのだろう。
ならば、手に入れる方法を考える猶予があるってことだなと、畑の横で思案する。
(ぬぬぬ……どうやって熟すのを早め、手に入れるか……)
「おや、見かけない毛色の犬……いや、魔獣か?」
(ふふん、俺様は2歳にしてはガタイが良いからな! 中型犬と大型犬の間くらいの堂々たる体躯に驚いたか!)
おじいさんはイグニスを見ても威嚇する様子はなく、むしろ優しそうな目を細めて腰をかがめた。
(泥だらけの鍬を持ったじーさんだな。魔力は……うん、一般人レベルで激よわだ)
「そんなにスイカが気になるんかい? まだ小ぶりだし、熟してないから甘くないぞぉ」
(なっ……! 俺がスイカを食べたがってるのがバレただと……!? こいつ、ただの農民のくせに俺の思考を読む精神魔法の使い手か!?)
イグニスは警戒して『ウ~』と小さく身構えると、あえて『念話』で語りかけてやった。
『ふふん、甘く見てると痛い目にあうよ! マスターイグニス様の欲しいものが手に入らないはずないんだから!』
「ひぇっ……!? あ、頭の中に……声が直接……!?」
おじいさんが目を丸くしてガタガタと震え出した。
(ふっふっふ、恐れおののいているな! 高位の存在である俺の念話を聞いて腰を抜かしたか!)
ドヤ顔で胸を張るイグニス。しかし、おじいさんは必死に精神を落ち着かせようと懐から何かを取り出した。
「し、神聖な魔獣様であらせられましたか……! ご、無礼をお許しください! お腹がおすきでしたら、これを……!」
差し出されたのは、甘い匂いのする干し柿だった。
(柿……! 前世でも好きだったやつ! ……ぬっ、俺の威厳に気押されて捧げ物を差し出してきたな? 苦しゅうないぞ!)
『……しゃーないな! そこまで言うなら受け取ってあげるね!』
パクッと食べると、凝縮された上品な甘みが口いっぱいに広がる。
(うまーーーい!! じーさん、めちゃくちゃ話がわかる奴じゃん!!)
「お、お口に合いましたでしょうか……?」
(よし、このじーさん、俺に平伏して美味しいお供え物をくれたからな、お礼をしてあげよう! スイカを急成長させて、半分こして食べるんだ!)
『この辺りは瘴気が澱んでるから生育にも支障が出ている! 手助けしてスイカを大きくしてやろう!』
「は、はい。ありがとうございます」
土を軽く掘り魔力を軽く流す、多く流すと何ができるか分かんないからね。アーマーバグみたいなスイカが出来たら嫌だし、慎重に少量だけ流す。
(まじか……まだ少量どころか微量の魔力しか流してないのに、スイカがメキメキ大きくなっていくんだがっ!)
急いで魔力の放出を停止した。
次は瘴気だな、こんなの魔法一発だな。こういうのは得意だ!
空に向かってこの辺りの瘴気をまとめて巻き込みながら、フレイムバーストを一発放つ。
すると空気のうねりが空へと昇り浄化され爆散する。
(空気のうねりは風魔法を混ぜるか!うん。完璧な作戦だな。いくぞっ!フレイムバーストトルネード!)
勢いよく体をひねり上げ魔法を放つと、四方八方から瘴気が集まり、次第にそれは竜巻になり上空へと駆け上がった!そしてけたたましい音と共に爆散した……
その光景は想像以上のもので、じーさんは爆風にあおられて畑へコロコロと転がった。
幸い、巻き上げられて吹き飛んだ農作物は一つもない。巨大化した美味しそうなスイカはじーさんを爆風からも守った。
そんな事件現場の畑には四方から村人が集まりだした。
『用事を思い出したから帰るね!スイカは二個もらってくね!』
そう念話でじーさんに言うと、コクコクと首肯したのを確認し、スイカを二個アイテムボックスへ入れて全速力で森へと走った。泥棒ダメ絶対!
(ふう……。今日も良いことしたなー。それにしても、爆発魔法に風魔法を合わせるとあんなことになるんだな。学びだな!)
***
「おい、ボルジのじいさん大丈夫か!? 凄まじい爆発音と炎の竜巻が見えたぞ!」
「ひ、ひえぇ……! 畑の真ん中に、見たこともない巨大な黄金のスイカが……!?」
駆けつけた村人たちが目にしたのは、腰を抜かして畑に転がっているおじいさんと、かつてないほど濃密な魔力を秘めた巨大なスイカ群だった。
「じいさん! 一体何があったんだ!?」
「あ、赤き神狼様じゃ……。神狼様がこの地の瘴気を一瞬で焼き払い、恵みを授けてくださったのだ……!」
おじいさんは震える手で、神狼様が去っていった森を指さした。
「神狼様は『手助けをしてやる』とおっしゃられ、我々のために奇跡を起こしてくださった……。しかも、あれほどの恩恵を与えておきながら、受け取られた対価はスイカをたったの二個……!」
「な、なんて欲のない、慈悲深い神狼様なんだ……!!」
こうして、ただ干し柿のお礼にスイカを爆発的に急成長させて逃げただけのイグニスは、西の村でも【一瞬で瘴気を浄化し、豊穣をもたらした慈悲深き救世主】として語り継がれるのであった。
最後まで読んでいただきありがとうございます!
評価やブックマークをいただけると、執筆の大きな励みになります!




