第三十話 赤き神狼とセンス
大聖堂は、聖獣カーバンクルの来訪に大騒ぎだ……。
「それで……イグニス様は聖獣を保護したんですね?」
「保護はしてない!連れて帰っただけ!」
「ご自分のフードに入れて帰ってくることは、保護したも同然です……それで、どうなさるおつもりで?」
「こいつのことはコニーに任せたからね!」
大神官にそう言うと、コニーはぎこちなく俺を見ると、恨めしそうな顔をした。
「コニー……詳しく話しなさい」
「ま、まずは、スラムに置いてきた犯人捕縛を、聖騎士に依頼しました。捕縛後尋問にて詳細を把握したいと思います。そして聖獣カーバンクルについてですが……大聖堂で保護したいと思います!」
「聖獣が捕まってた事については、何も分かっていないという事だね?そして聖獣は保護したい……」
「そうです」
「さすがセラフィエル、理解が早い!格好いい!出来る男だね~じゃあ、俺はこのへんで!」
「「どこに行くんですか?」」
「宿とらなあかんねん……」
俺は眉を下げ、伏し目がちに寂し気に儚げに言った。完璧!
「こちらで用意しております!」
チッ!
その後も質問攻めにあい、解放されたのは、夜遅くになってからだった。
「はぁ……疲れた。お前もいつまでフードで丸まってんだ?」
「ピュイィ」
「面倒事は後回しにしよう!うん。今日はもう寝てしまおう!」
上着を脱ぎ、椅子の上にフードが上になるように置いた。
首元の違和感に目を覚ますと、カーバンクルが俺の首元を、両手でグイグイと押していた……。
「俺を殺そうとしてる!?」
バッと勢いよく起きると、コロコロとカーバンクルは転がった。
(転がるのが好きなのか?そういえばルビーも、アーマーバグが転がるのを、嬉しそうに見てたな!)
カーバンクルは「ピュイィピュイィ」と何かを訴えている……。
「あー!飯かっ!朝飯食いに行くぞ!」
素早く外出の準備をし、部屋を出た。
肩にはカーバンクルが乗っている。
「イグニス様、おはようございます。朝食の準備が出来ております」
「コニー……どうしたんだ、昨日と違うじゃない?」
「いえ、あの……昨日は、神狼様だとは聞いていなかったので……」
「昨日と同じでいいよ~」
「いえ、えっと……はい!」
コニーは笑顔で返した。
「朝食は肉多めでと、伝えておきました!」
「さすコニ!」
食堂に入ると皆の視線が集まる。
「カーバンクル。お前は魔石か?」
「ピュイ!」
テーブルに移ったカーバンクルに、魔石を手渡した。
「イグニスさん。カーバンクルに名前は付けないんですか?」
「俺が付けるのはおかしくないか?それに親が既に付けてるんじゃないかな?」
(名付けのセンスは俺には無いしな。しかも今朝殺されかけたし、カーバンクルも望んでないだろ)
「いつ捕まったかによりますよね……とりあえずの呼び名は、あっても良いんじゃないですか?」
「まあ、それはそうか……じゃあ、コニーが考えて」
「良いんですか!?バンクルで!」
「その名付けの早さ……すでに決めてたな?」
「決めてたって云うか……心の中ではバンクルって呼んでました!」
えへへと照れ笑いのコニーを見て、カーバンクルはコニーの肩に跳び乗った。
「今からバンクルの親はコニーになった!」
「え?え?ええ?どういう事ですか?」
冷や汗をかくコニーを、不思議そうに見ているバンクルだった。
「聖獣の名付け親ってことだよ」
「そんなー……また叱られる~」
アハハハと笑うと、その場にいた者で笑っているのは、俺だけだった……。
***
なんて事だ……私がバンクルの親になるなんて。
そりゃ、バンクルは可愛いし、癒される天使だけど、聖獣なんだよね……。
聖獣はこのエルフェリア聖王国にとって、大きな意味のある存在だ。
聖王国の最上位は国王となっているが、国王を含め、そう思っている者は少ない。
世界樹様を頂点に崇め奉っているのだ。
聖なる存在は、上位貴族に匹敵する。
だから狙われ、捕らえられていたのかも知れない。
となると……もしかしたら、イグニスさんは国王様並みに偉いのかもしれない……。
「でも……バンクル……可愛い!」
もう……バンクルと一緒に居れるなら、叱られたって良い!
考えたって、どうなるもんじゃないし、イグニスさんにはめられたんだよ。
そうしよう!イグニスさんが私に押し付けた事にしよう。
うん。うん。名案だ!
大神官の執務室の前……覚悟を決めたコニーが重厚な扉をノックした。
「大神官様!聖獣カーバンクルの名前が決まりました!バンクルです!」
やけに大きな声のコニーが、一刻後疲れ切った顔で、廊下を歩いていたと話題になった。
「頑張ったけど、イグニス様のせいにはならなかった……」
消え入りそうなコニーの声は誰の耳にも届かなかった……バンクル以外にはだが……。
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