第二十九話 赤き神狼とコニーと???
「ちょっ、イグニスさん!どこへ行くんですか?」
「ん?なんか気配がすんだよね~」
ぬくもり亭の裏方面から、本当に微量に瘴気の気配が流れてきている。
瘴気の浄化は、神狼の本能が排除せよと云っている……気がする。
「奥に行くと、ちょっと危険なので……」
「問題ないよ!」
「いやいや、奥に行けば行くほど怖いんですよ!」
「コニーはここに居れば良いよ、すぐ戻る……かも?」
「やめて!戻るって、しっかり言い切って!」
「じゃあな!」
走り出す瞬間に、コニーにがっちり腕を掴まれた。
「私も行きます!!」
「りょうかい!気を付けてな!」
「はい!」
しばらく歩くと、さっきまでと建物の様子が違ってきた。
「そろそろ気を付けてくださいね……」
「もう少し奥まで行くよ」
「……はい」
コニーの声には緊張が滲んでいる。
「こんなスラムにえらく立派な屋敷があるな!」
「門と壁は立派なんですけど、屋敷は廃屋のはずです……」
「入ろっか!」
傾いた立派な門扉を跨いで中へ入ると、廃屋から気配を感じる。
こんな場所の屋敷なんて荒らされてるものだが、劣化で崩れているだけで、思った以上に綺麗な物だ。
「この奥だな。行くぞ!」
「は……はい」
「おい!今すぐここから出ていけ!」
後ろから怒鳴りつけられた。
「来たとこなのに!?」
『イグニスさん。帰りましょう……めちゃくちゃ怒ってますよ……』
小声でコニーが言ってくる……放置だな!
「アニキどうしたんですか!?」
「増えた!なんか面白い!」
「舐めくさってるようだな坊主!ツベンやっちまいな!」
「ヘイ。アニキ!」
「スリープ」
増えた男は眠っている……。
「ポイズン!」
毒はコニーがアニキにした魔法だ。
なかなかなチョイスの魔法だな、コニー……。
アニキは毒を食らって紫の顔色になっている……。
「も、猛毒なの?」
「いいえ!中級の毒ですよ!死ぬのには一刻は掛かります!」
「猛毒なら?」
「猛毒なら百数えるくらいで危篤状態ですね」
「……なら、猛毒なんじゃ?アニキ倒れているよ?」
「うわっ!本当だ!キュア!……あれ!?解毒しない……」
「ピュリファイ!」
「解毒されましたっ!すごいですイグニスさん!」
「コニーはピュリファイ覚えるまで、ポイズン禁止ね!」
「言い返せない……了解です……」
奥の扉を開けると、そこは中庭だった。
「立派なお屋敷だったんだろうねえ」
「そうですねえ……」
中庭に踏み入ると、上空からズドンと逞しい体躯をした男が降ってきた。
「今度は誰?」
「もう帰りましょうよー」
見るからに強そうなムキムキマッチョな男が、俺たちの行く手を阻んだ。
「あんなのに殴られたら、お終いですって!ポイズン!」
「ポイズン禁止したでしょー!」
「でも、無理です!あの殺意が無理ですって!」
「どうする……ピュリファイしておく?」
「いや、もう神様になんとかしてもらいましょう。それが良いです!」
「おーけー。ピュリファイ」
「ポイズン!」
「ポイズン禁止だって!これフリじゃないからね!」
「やれって事ですよね?」
「やっても良いけど?」
コニーはもうマッチョは毒ダメージで、解毒してもすぐには動けないと理解したのか、ポイズン禁止を受け入れたようだ。
「さて、中庭の小屋に何かあるのか?……」
中庭の奥にある小屋の扉を静かに開ける。
「ピュイィ……」
「ルビー縮んだ!?……ルビーじゃないな、念話も通じない」
手のひらサイズのカーバンクルが、そこにいた。
(なんだ、ルビーじゃないのか。二匹目だしカーバンクルって、けっこういるんだな)
「お知合いですか?……って、カーバンクルじゃないですか!?」
「瘴気に侵された足環を着けられてるな……」
(こんな小さな足環じゃ、よっぽど瘴気に敏感じゃないと気付かないな)
「聖獣ですよね。助けてあげましょうよ!」
「最初から助けるつもりだ。こんなのは俺の神気でちょいちょいだ」
カーバンクルの足に嵌っていた足環が、バラバラになって崩れた。
「カーバンクルは肉より魔石か?」
アイテムボックスから取り出した魔石を、カーバンクルにそっと手渡した。
カーバンクルは魔石を持ち、ペロペロと舐めると元気になったのか、急にバリバリと嚙み砕き食べた。
こいつの世話はコニーに任せようと、そっとその場を離れようとした。
しかし、がっちりと二人に捕まっていた……。
「とりあえず、大聖堂に帰りましょう?」
あいつらはどうするのかとコニーに聞くと、縛ってから聖騎士に回収させるそうだ。
「それにしてもカーバンクルなんて、どこで手に入れたんでしょうね?」
「話せれば良いんだけど、まだまだ幼そうだしな」
「そうですね。犯人たちの供述待ちですかね」
二人+聖獣で屋敷を後にした……。
「おいっ。俺のフードの中で寝るなよ!?」
「良いじゃないですか、温かくて……ホッとしたんですよ」
「親父ギャグ!!」
その周りを気にしない堂々とした二人に、スラムの者たちは距離を取った……。
***
「い、行ってしまわれた……」
このスラムに、明るいのに重く苦しい空気が去って行く。
この地にある建物で最大の屋敷は、スラムの者たちとは一線を画す存在だ。
それはこの屋敷が裏稼業の拠点となっており、夜になると何処からともなく得体の知れない者たちが集まってくるからだ。
裏稼業の者たちの後ろには、貴族がいるという噂すらある。
そんなスラムの住人からも忌避される場所に現れた二人。
一人は法衣を着た青年で、もう一人は赤い髪をした子供だ。
この子供がヤバい。むやみやたらに睨みを飛ばしてくるのだ。
そんな子供の視線だけで、スラムが静寂に包まれている。
俺はまだ耐えられているが、気を失っている者もいるだろう……。
出来るならもう来ないで欲しい……。
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