第二十六話 赤き神狼と小さな意思
寝坊助のポーリーの鳴き声を聞きながら、ローゼニアの中央にある噴水広場で考え込んでいる。
ローゼニアでは、肉の煮込みと辺境飯という美食に出会った。
ハージマーリングでは、おやじの屋台で焼肉を堪能した。
ヴェルディのティオが研究している最高のタレで食べる肉も最高だった。
つまるところハージマーリングに戻らず、他の肉を探すべきなんじゃないかということだ。
「よしっ!西に行こうゴーゴー!」
また迷子になると、思ったあなた!俺はもう迷わないはずなんよね。
それは方角の目安になる竜がいるからだ。探すのは十二聖竜のカプリコーン!
あの暴走ドラゴン、サジタリウスの仲間だ。
(どうせカプリコーンも暴走してるんだろう。空を見てるだけで良い)
「さらばだローゼニア!」
俺は門を抜け、勢いよく跳び上がり西へ向かった。
しばらく軽快に進んだところで違和感があった。
「♪カプカプカプリ、カプリコ~ン♪」と歌えば、『カプカプカプリ、カプリコ~ン』と返ってくる。
こんな平原でこだまはないよね……。
「♪カープカープ、カプリコ~ン♪」
「♪カープカープ、カプリコ~ン♪」
「♪おまえは、だ~れだ♪」
「♪おまえは、だ~れだ♪」
「♪おれ~は、しんろ~い~ぐに~す~♪」
「神狼様!?」
「♪おまえは、だ~れだ♪」
「……わたしは、わたし……。誰でもないの……」
「♪リズムは刻まないのか~い♪」
「……ごめんなさい」
声の元を探すと、小さな石で出来た像だった。
「これ見て!王城でもらった折り詰め!これと石を組み合わせて……出来た!」
小さな石の像をその折り詰めに優しく置くと、ピシッと張り詰めた音がした。
「いまからお前は、こだまの【こま】だ!」
「わたしは今から……こま。こだまこま!」
「こだまこまは人には悟らせるな、それは真名として大事にしな」
「分かった……」
「カプリコーンを見なかったか?」
「えっ、カプリコーン??……野菜?」
「……特別にお供えをしてやろう!トウモロコシだ!じゃあな!」
俺は、清らかな空気が流れだした平原を後にした。
(なんの変哲もない草原に、遠い国の王城の折り詰めに石の像とトウモロコシ……シュールだな!なんかオシャレ!)
***
「い、行ってしまわれた……」
風雨にさらされ続け、顔すらも判別できなくなった私は、自分すらも見失った。
そんな私に出来るのは、聞こえてくる声に反応する事だけ……。
オウム返ししか出来なくなった私はただ消え去るのみになった。
覚悟は出来ていたはずなのに、突然その時はやってきた。
少年の歌声が聴こえてきて、もうオウム返しも出来なくなっていた私は……その歌声にオウム返しが出来た……。
彼の声には力がある。徐々に私の意識もはっきりしていく。
彼が歌い私が歌う、そんな楽しい時間は突然終わりを告げる。
神狼様と云えば、世界樹を護るという上位存在……自分すらも見失った私が接して良い相手じゃない。
恐縮している私に彼は名を付けてくれ、私にとっては、天上のものとも思える社をくれた。
神威で守られた社は、私を護りそして癒していく……。
見えなくなっていた私の目に光が戻り、去って行く彼の姿が微かに見れた。
懐かしいその輝きは、あの日の夕焼け色だった。
ただ一つ疑問なのは……。
「このトウモロコシは何?」
短い草が生い茂った草原に、不釣り合いな豪華な社が置かれている。
その社は形を整えられた石が組み合わされた土台に、綺麗な石と異国の模様が施された箱型の不思議な物だった。
この場に不釣り合いなのは社だけでなく、安置されている像も年を追うごとにぼやけた意匠がくっきりとしていくものだった。
そして一番の不思議は、像と共に並べられたトウモロコシだ。
そのトウモロコシは、いつまでも変わることなく其処にあり続けた。
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