第二十五話 赤き神狼と煮過ぎた肉の煮込み
【ポートゥー……ポートゥー……】
朝を知らせるポーリーの鳴き声で目覚めた俺は、そそくさと身支度を整えた。
「おかみさん!おっはよ~、一人前よろしくっ!」
「あいよ!」
元気よく答えたのは恰幅の良い女性で、昨日宿を探しているときに知り合った宿の女将だ。
「お待ちどう様。約束通り昨日言ってた肉の煮込みよ」
「やった!うまそー!」
カウンターに座った俺に提供された、元祖肉の煮込みをいただく。
宿を探していた時に、おかみさんと知り合い泊まることになった。
しかも、特別に朝から肉の煮込みを出してくれるという神対応だ。
「この味が元祖肉の煮込み!元祖!本家!老舗!」
「そんなに嬉しいのかい」
おかみさんは嬉しそうに微笑んだ。
「肉の煮込みを持ち帰りで十人前、用意できる?」
「鍋か何か入れる物を用意してきたら出来るわ」
「りょ~かい!鍋買ってくるね?」
知る人ぞ知るこの宿のおかみさんは、ダニーのお姉さんだ。
よく作ってた料理が、肉の煮込みだった。
これは二泊することは必須で必然!
さっそく鍋を買いに街へ繰り出す。
そして冒険者ギルドの隣に金物屋発見!
「坊ちゃん何が入用だい?」
「肉の煮込みを入れる鍋が欲しい。大きい鍋を二つは欲しいかも」
「大きい鍋は結構高いが大丈夫かい?鍋一つ小金貨二枚だぞ」
「この大きいやつ?」
「そうだ。この店で一番大きい鍋だ」
「はい。鍋二つで小金貨四枚ね」
「持てるかい」、と渡された鍋をアイテムボックスに放り込む。
店を出た所でおっさんに絡まれた……。
「神狼様!お探ししておりました!」
怪訝な顔でおっさんを見ると、周りの人たちも怪訝な顔をしていた。
「ここでは人目に付くので、少し場所を変えてお話できませんか?」
「あっ!俺、忙しいんだった!忘れてた!」
おっさんを見ることもなくそう言ってのける俺すごい!
「あー忙しい!忙しい!」
「誘拐の賠償金のお話です!」
(賠償金ってお金だよね……。俺はいらんかなー)
「閉店していた肉の煮込みもご用意いたしました!」
「それは持ち帰りしてるってこと?」
「はい。我らが持ち帰っております」
「どこに行けばいい?」
「ギルドに場所を確保しておりますので、ご案内します」
すぐそばにある冒険者ギルドの一室に案内された。
各ギルドで特徴があるのか、ローゼニアはガラが悪いと感じた……。
「早速ではございますが、この度は色々とご迷惑をお掛け致しました。辺境伯に変わり謝罪いたします」
「俺には、もうそういうのは良いよ」
「男爵並びに関係者には、厳罰をもって対処すると仰せでした。そして保護した子供たちも、親元に帰られるように手配を整えております」
「辺境伯に任せたんだが?肉の話はどこ行った……」
「これは失礼を……こちらが大金貨二枚分の証文になります」
「また違う話する……」
「失礼を……こちらがローゼンブルク家の家紋入りメダルになります。ローゼンブルク辺境領内の店であればツケで買い物ができます」
「また違う話する……」
「これまた失礼を……こちらが肉の煮込みDXでございます」
「ディ、ディ、DXだって!そりゃ焦らすか!そりゃ焦らすよね!DXならDXって最初から言ってよね~」
「ダニーに最高に最高を重ねた最高の肉の煮込みDXを依頼しました!」
「おお!さすが領主!その力を遺憾なく発揮し、解決をするように!」
「はっ!伝えておきます」
受け取った大きな鍋を、アイテムボックスに放り込んだ。
(よし!街に繰り出すかな)
「じゃあね!」
「お待ちください!証文をお忘れです!」
「いらない!」そう言って、そそくさとギルドを後にした。
(すごいことに気付いてしまった……俺……スプーンしか持ってない)
昼時になり、人通りも多くなってきた。
(よし!あの人について行こう。なんか肉好きそう!)
テクテクポクポクと、恰幅の良いおやじの後を付いて行く。
トットットット……速度が上がった?もしかして尾行されてるって勘違いされてる!?
タッタッタッタ……歩幅は負けてても、足の回転は負けない!
ダダダダダダダダ!…………「おやじを見失った……」
辺りはいつの間にか、高い建物は減っていた。
緑も多くなり、忙しなく動く人もいない。
「のどか~」
「坊主見ない顔だな、迷子か?」
「迷子じゃない。ちょっと知らない場所なだけ!」
「迷子じゃねえか!」
「迷子じゃないってば!飯屋さんない?」
「辺境飯があるぜ!」
「なにそれ!肉かな、野生を感じる!」
「この先の『飯処大食らい』って店がお勧めだな」
「分かった食ってくる!」
店はすぐに見つかった。昼時だからだろう何人か並んでいる。
「一人か坊主?」
「辺境飯食いに来た!」
おっさんと周囲のおっさんがざわついた……。
コテンと首を傾げると、おっさんが口を開く。
「辺境飯ってのはな、肉まみれの男の食いもんだ。坊主には早いんじゃないか?」
「よし!かかってこい!!」
そんな話をしてる間に席に案内された。
「ご注文、お聞きします」
「辺境飯肉多めで!」
「お客さん、うちは初めてよね?並みか小が良いんじゃない?」
「かかってこい!」
苦笑いでお姉さんは、奥へ戻って行った。
「肉多め、お待ちどうさま」と目の前に置かれた丼には、零れんばかりに積み上げられた肉肉肉の山だった。
「負けんぞ!」
ごめんなさい負けました……肉多すぎる……。
だがしかし!この世界にも米があった!
米がある事が知れたのは収穫だな。
「残したやつは持って帰る……」
「またおいでね」と、お姉さんは勝ち誇った最高の笑顔で見送ってくれた。
この子供の体じゃ太刀打ち出来んかったなと、反省も出来る神狼だった……。
***
「い、行ってしまわれた……」
冒険者ギルドに一室借り受けた部屋で、男は証文を手にして震えていた。
「なんということだ。神狼様というのは、斯くも高潔で素晴らしきお方なのか」
慈悲深く高潔であると評価した辺境伯の使いは、証文をしまった。
「もっと傍若無人に振舞ってくれれば、民からも煙たがられる恐怖の存在に出来たというのに……」
顎に手をやり考え込んだ男は、しばらくすると重い腰を上げて部屋を出た……。
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