第二十三話 赤き神狼と想いの煮込み(中編)
ガタゴトガタゴトと、リズミカルに揺られて、やっと肉の煮込みを食べられるなんて俺は思ってませーん。
もうね、お怒りですよ!
この怒りを爆発させる相手が分かるまで、大人しくしています。
お腹が鳴ると困るから、王城の包みをまた食べてる。
貯えが減るばかりなんだけど、この責任も取ってもらわないといけない。
「イグちゃん。わたしも食べたい……お腹すいた」
「イグちゃん。ぼくもおなかすいた」
子供たちが口々に「おなかすいた」と言い出した。
そして、その目は俺の包みに注がれている……。
子供たちに背を向けて食べる選択肢もあったが……。
「少しずつだからな!少し食べたら隣に回せよ」
そう言って、檻の間から包みを渡した。
(この恨みは何倍にもして返してやる!)
馬車が停まったことで、男たちの声が聞こえてくる。
「いつも通りに地下に運び込むぞ」
どうやら大きな屋敷の庭に着いたようだ。
「なるほど地下に行くのか……」
「お前たち、どうやって出やがった!」
男二人が俺たちを捕まえようと走ってくる。
子供五人だと思って舐めてるんだろう、ニヤニヤと嫌な笑みをしている。
俺を騙したおっさんは、離れた位置で腕を組み見ている。
「おっさん!ここはどこだ!?」
「坊ちゃんたちは、このお屋敷で数日過ごしてから、隣国に売られるだけですよ」
「えらく簡単に言うんだな?」
「そりゃそうでしょ。隣国に売られるって聞いたら絶望し、大人しくなりますからね」
おっさんの言う通りなんだろう、子供たちは隣国と聞いて動揺しているようだ。
「おい。しっかりしろ!俺が肉を食わせてやる!」
「「イグちゃん……。」」
「イグちゃんは止めろ!俺の威厳が無くなる!」
「天才イグニス様!」
「お前たちボヤッとするな、サッサと捕まえろ!」
「「へいっ!!」」
「スリープ!!」
男たちの周りに紫色の靄が現れ、男たちはその場に倒れ込み寝息をたてている。
「イグちゃん。すご~い」
「イグちゃん禁止!」
俺は一つ溜息を吐き、上空に向けて大きなファイヤーボールを打ち上げた。
弾けたファイヤーボールは周辺を明るく照らした……結果、屋敷から人がワラワラと出てきた。
「スリープ」
「スリープ」
「スリープ」
スリープを繰り返し、辺りは眠った人で溢れた……一網打尽だ!
眠った者の手を後ろに回し、親指どうしをヒモで縛った。
その中で身形の良い者とおっさんを目覚めさせる。
「な、なんだこれは!わしは男爵だぞ、貴様は何をしてるか分かってるのか!」
声を荒げ激昂する男の癇癪に、周りの者も目覚めだす。
「う、動けない……わしの拘束を解け!」
後ろ手に縛られた者たちが煩くなった……。
俺は振り返り、馬車横で所在なさげにしている子供たちに問うた。
「こいつらは、君たちを攫い売り飛ばす悪事を働いた者たちだ。きっと今までも、多くの子供たちを攫い隣国へと売っていただろう……」
子供たちは静かに聞き、大人たちは煩くしている。
「君たちは被害者だ。こいつらをどうしたい?」
「……」
「……」
「君の名前は?」
「……アンネッタ」
「アンネッタ、君はどうしたい?なんでもいいぞ、どうしてこんなことをしたのか知りたいとか、攫った子供を返せとか何でもいい」
「……じゃあ!みんな殺してください。もう二度と、悪いことが出来ないように殺してください!F〇〇k you!」
少女が中指を立てている……。
「ぼ、ぼくもゆるせない。しねっ!」
縛られた者たちは「出来るはずがない」「馬鹿げたことを」「平民が貴族に?」など、嘲っている。
「よし!お前たちの気持ちは分かった!だが、殺すかは分からない!」
子供たちは無言で頷き、大人たちは嘲っている。
まずは檻を叩いた男に「ファイヤーボール」。ボッと燃え上がり、のたうち回っている。
「ちょっと火力が強いか―。もうちょっと抑えないとダメだな」
檻を移動させる時に前回の子よりも大人しいなと笑ってた男に「ファイヤーボール」。胸に当たった火の玉は、徐々に全身を包んだ。
「ちょっとまて!いきなり攻撃するのは、おかしいだろ!?」
男爵が何か喚いているが、知ったこっちゃない。
「もっと苦しませてほしい……」
「そっか……でもね、これ以上苦しませると、全員を苦しませるのに時間が掛かっちゃうよ?」
「なら、私が回復魔法で回復するから、一度に全員に魔法を当てるのを繰り返して、苦しめましょう!」
悪魔のようなことをサラリと言う少女は、回復魔法が使えるようだ。
門の方から「待てっ!」と声が掛かった。どうやら騒ぎに気付いた家人が、外に助けを求めたようだ。
「スリープ」
門からやってきた者たちは、軒並みその場に倒れ込んだ。
が、一人はレジストしたようだ。
「寝ないとは、魔術師かな?」
「力の差は歴然です。あなた様は子供ではないですね……事情をお聞かせてください!」
「俺は神狼イグニス!こいつらに、肉の煮込みを食わせてやると騙された者たちの代表だ!」
「神狼イグニス様……肉の煮込みがどうしたので?」
「こいつらは肉の煮込みで釣って、隣国に売り払う悪魔たちだ。その制裁中だ邪魔するならお前たちも……フッフッフッ」
「お、お待ちください!それが事実なら大罪人です、王国法で厳罰に処します」
「もう子供たちの意見は聞いた!全員痛い目は見てもらう!」
「ファイヤーウォール」
男爵どもが火の壁で焼かれる。
「エリアヒール」
アンネッタが回復する。
「ファイヤーウォール」
男爵どもが火の壁で焼かれる。
「エリアヒール」
アンネッタが回復する。
「こ、これでは拷問では?」
「あ、あなたの子供が攫われ、隣国に売られても私たちを非難するの?」
男は考え込み口をゆっくりと開いた。
「ち、父親としては許せないが、貴族の一員としては王国法に則った処罰を求めます」
「嘘つき!絶対この男爵は無罪放免になるって分かってるくせに!」
そう言い放ったのは、男の後ろにいたメイド服を着た女性だった。
その女性は目に涙を浮かべている。
(だ、誰だよそいつ……)
「私の子供も行方知れずになって何年も経っているのよ!こいつらが……こいつらが攫ったのよ!」
この女性以外も目覚めた者がいるが、押し黙ったままだ。
「人の人生を弄び、それを金に換えるという非人道な行いだが、被害者がまだ生き残っている可能性もある」
俺の威厳を持った言葉に全員の視線が俺に集まる。
「お前、名は何と申す?」
「私はローゼンブルク辺境伯家三男、マッケンジーでございます」
「マッケンジーよ、この者たちの全財産を没収し、それを原資に攫った者を取り返すことを命ずる!」
「私の本分は騎士であります。主君アストレイヤ国王の命には従いますが神狼様の命には応じかねます……」
マッケンジーは国王以外の命に従わないのか……。ならどうす……る!?
「神狼様!ならば国王を!?」
アンネッタの口を勢いよく塞いだ。
【グ~キュルキュル】
【ポスン】
月の光に当てられて、眩いばかりに光る赤毛。さぞ神々しく見えるのだろう、皆は言葉を失い跪いた。
(人化が最強かと思ったけど、神狼の姿も良いな!夜だし、このまま行ってしまおう!人目に付かないなら大丈夫だろう!)
『国王以外の命には従わぬのなら仕方がない……半刻で国王をこの場に連れてこよう』
王城の場所を訊き大きく跳ね上がる。一瞬で王都には着くだろう……。
なんだか事が大きくなったな。しかし肉の恨みは返さなければならない!
しばらくすると王城を見つけた!と、止まれない!?
(あー、ぶつかる!ウルトラメガフレアバーストMAX!)
壁に突っ込むと同時に魔法が炸裂した。頭からぶつかる危機は回避できた!さすイグ!
ガラガラと崩れる壁を足場にして辺りを見回す。
ここはどうやら謁見の間のようだ……王冠を被ったおやじが居た!
『辺境伯三男マッケンジーの使いだ!遅くまで公務で大変そうだが、こっちはもっと大変なんだ!来てもらうぞ!』
「陛下に近づくな!」
ワラワラと武器を手に、兵士が集まってくる。
『我に武器を向けるか……覚悟はあるんだろうな!』
「お待ちください!赤き神狼様とお見受けいたします。ご用件は何でしょうか?」
国王の横にいた爺さんが一歩進み出た。
『簡単な話だ。ローゼンブルクで誘拐及び我の大事なものを踏みにじった者を断罪しようとしたが、マッケンジーが国王の勅命にしか従わぬと言うから国王を連れに来た!』
「ならば勅書を直ちにご用意致します!」
『国王よ……辺境まで目が届かぬのなら、俺が吹き飛ばしてやろうか?』
「いや!我が裁可しますが、肝に銘じます」
国王は頭を下げた。
『話は変わるが、この王城は料理の包みはくれないのか?ルクレシア王国はくれたんだが?』
「すぐに用意いたします」
『肉多めにしてくれ!ならば、今回の事は許してやろうかな!サービスもしてやろう。ちょっと見とけよ』
【ポンッ!!】
「人化出来んだよな!これを見せるのは特別だからな!」
「おおお」とざわめきが起こり、如何に俺が凄いのかを聞かせてやった。
かなり感心したようで、俺も饒舌になってしまった。
「ご用意が出来ましたが、持てますでしょうか?」
「だいじょぶだいじょぶ、アイテムボックスがあるからな!じゃあな!」
***
「い、行ってしまわれた……」
謁見の間の壁が瓦礫になり、大穴から神狼が跳び去って行く姿に、王は大きく息を吐いた。
「宰相よ我が国は助かったのか?」
「ええ、ええ、助かりましたとも」
謁見の間に同席していた他国の貴族なども、一同が大きく息を吐いた。
「皆の者、今回の件は国を挙げて早期解決するように。そして、神狼様を煩わせることは一切禁ずる!」
「ならば、辺境伯家のマッケンジーの処罰はどうされますか?」
「しかし、我以外の命には従わぬと言った者を処罰するわけにはいかんだろ……」
「そうですな……今回は料理の包みを喜んでくれましたしな」
「そうだな!人化と言っておったな、可愛い子供に変身したぞ!」
「びっくりしましたぞ。赤毛の神狼様の話は耳にしておりましたからな。お名前はたしかイグニス様だったはずです」
「イグニス様には逆らうでないぞ……」
宰相以下、騎士たちも大きく頷いていた。
特使らしき一行もこの事態に二の句も継げなかったが、イグニスが去り緊張から解き放たれた。
「我らも早くシュトラールに報告を上げなければ……」
「とりあえず、赤い髪のイグニス様には気を付けさせよう」
「そうですね。あと、料理を包んで差し上げると、良いみたいです」
「肉多めにな!」
いい情報が手に入ったと、ホクホクの他国の者たちだった。
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