第十七話 赤き神狼とサジタリウス
『十一番あった!』
冒険者ギルドへ戻り、自分の貰った整理番号と同じ番号を発見した。
「イグニス様。お待たせいたしました。お話があるので奥へ……」
『おやじが待ってるのに―』
受付奥の応接室へ案内されたが、肉が気になって落ち着かない。
「お話というのは、ワイバーンの買取り金額なんですが、大金貨五枚になります」
『オッケー』
「いえ、あの……一度に大金貨五枚は払えませんので、大金貨一枚以内なら払えます!残りは手形での支払いにさせて頂きたいのです」
『おやじの肉が食える分は欲しいな』
「町での値段としては、パンが一つ銅貨一枚。屋台の肉なら銅貨三枚から五枚あれば大丈夫だと思います」
フムフムと頷くが……肉が食べられるのか気になって、頭に入ってこない。
「町にいて不自由のない金額で今日はお願いします。使いやすいように色々な硬貨で大金貨一枚分をお渡し致します」
別にすぐに使うのなんて肉代だけだ。
『オッケー。貸し一つね!』
「もちろんです!では用意をしてきますので、お待ちください」
受付嬢は足早に部屋から出て行き、すぐに戻ってきた。
「お待たせ致しました。こちらが金貨四枚と小金貨が五十枚、銀貨が九十八枚、銅貨二十枚で御用意しました。革袋はお持ちください」
『分かった。手間を掛けさせたな』
そう言って、そそくさと冒険者ギルドを後にした。
『待ってろよおやじ。すぐに行くからな!』
なんだか、おやじの屋台が賑わってる……。
『お、おやじ……。金は用意できた……ぞ』
見上げると、おやじは汗だくで肉を焼いていた……。
(肉焼きマシーンになっとるやないかい!肉くれなんて言えない……)
「おっ!イグニス様。御活躍は聞きました!肉も焼いてますから、もう少しだけお待ちくださいね!」
『おやじー!最高だよあんたわ!』
ほどなくして出された肉に舌鼓を打った。
『おやじ、いくらだ?』
「銀貨三枚になります!」
『俺でも泊まれる宿ってあるか?』
支払いをしながら聞いたが、良い答えは返ってこなかった……。
どうやら人じゃないとダメらしい。
『人か……』
うーん……。
うーん……。
うーん……。
なるほどなるほど、人になれば良いんだ!
(ってか、俺天才かもしれない!)
イグニスは開拓町ハージマーリングを後にした。
神狼なんだから人化なんて簡単にできるでしょ?なんて思ってた時もあった……。
なんで出来ないんだよ!
(走りながらなのがダメなのか?ながら走りだめ!絶対!)
このやるせなさは、あのオレンジ色の飛んでるヤツにぶつけてやる!
この辺りに巣があんだろ?目星はついているんだからな!
(いつも、あの山と山の間を通るんだから狙うはあそこか!)
ふんふんふーん。狙いも定まったし鼻歌も出るってもんだよな!
遠くから空気を切り裂く音がする。
(来たっ!せ~のっ!)
『止まれ――――!!!!』
近くで見るとオレンジ色したヤツは、ドラゴンだった。
暴走ドラゴン!?
「この間から、我を呼び止めるのは貴様か……」
『この暴走ドラゴン!!スピード違反です!期日までに罰金払って!』
「な、なに!?」
罰金?期限?と困惑しているドラゴンをよそに、俺は話を進める。
『いけませんねえ。どこで免許とったの?更新してる?親御さん泣いてるよ?』
「め、免許?親御さん?貴様は何を言っているんだ?……ん?その気配、お前は神狼ではないか!」
『はいはい。必殺話題替え作戦ね。そういうのこっちは慣れてるから、ほら免許証出して!』
「月と太陽に愛されし者……。世界樹の元を離れ、防衛圏最果てで何をしておるのだ?」
『こっちも、忙しい身なのよ。ゴネてないで免許証出してねー』
「話が通じん……。神狼よ血の記憶を思い出せ!」
ドラゴンから眩い銀色の光が発せられ、辺りを銀色に染めた……。
『うわっ!眩しっ!』
「どうじゃ?」
『何が「どうじゃ?」だよ!眩しいだろ!……って、お前はサジタリウスか?』
「そうだ。我は第六のドラゴン、サジタリウスじゃ」
『俺。なんか知らないけど、お前のことが分かる~』
「貴様の中に眠る、血の記憶を呼び起こしたのじゃ。貴様は誰じゃ?」
『俺は足が速い神狼イグニスだけど……なんか、なんか今なら出来そうな気がする!』
「な、なにがじゃ!?」
【ポンッ!!】
音が鳴り、煙が消えるとそこには神狼イグニスの姿は無く、長い赤髪を靡かせた全裸の少年がいた……。
「!?」
『やったー!人化成功だ!』
『やったー!』と喜び走り回るイグニスに、サジタリウスは短く溜息を吐き飛び去った。
***
「な、なんじゃったんだあやつは……」
自分に割り当てられた地域の巡回に戻ったサジタリウスは、イグニスのことを思い出していた。
何日前からだろうか、遠くから魔力の乗った声で『止まれ!』『どこ行くの?』『そっち怖い人いるよ』など、よく分からない事を言われていた。
そして先ほど……ある程度、腑に落ちた。
「あやつは巣立って間もない……ただのクソガキってやつじゃ。じゃが、これからは神狼としての働きも思い出していくじゃろう……たぶん……」
一抹の不安を覚えながらも、サジタリウスは巡回に戻った。
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