第十六話 赤き神狼と開拓の町
はい!イグニスっです。もう何日目か分からないが、ずっと南下してます。
なぜ南下してるのかって?
それは、追い掛けてるから!
『こらー!止まりなさい!』
遠く、空にすごい勢いで飛んでいるオレンジ色した奴がいる。
もうほんと、見失ったらまた探すのに時間が掛かっちゃう。
しかし、何日も見ていると、同じルートを飛んでいるんじゃないかと予想が出来た。
『あっ!ワイバーンしばくー』
こいつらはめちゃくちゃ数が多いし、奴と違って高くも飛ばない。
何より遅いから、すぐに捕まえられる。
ワイバーンと遊んでいると、また奴を見失った……。
(町を発見!今日の俺は一味違うぜ、すんなり入町してみせる!森を出てから、沢山学んだからな!)
『こんちわっす。これ冒険者証っす。』
冒険者は語尾に「っす」を付けるのも、ちゃんと覚えている。
「えっと……狼獣人かなにかですか?」
『知らんか~。神狼イグニス知らんか~』
「発行ギルドは……ルクレシア王国……。遠っっ!」
この辺りの人たちは緩めなのかな?なんかフレンドリーな感じがする。
『もう、入っても良い?』
「あ、はい。開拓町ハージマーリングへようこそ」
若い門番は「えへへ」と笑って歓迎してくれた。
ここは開拓町ってことは……まだ新しい町で、開拓中ってことか。
『まずは肉だな!』
良い匂いのする屋台のおやじに『肉ある?』と訊くと、良いのが入ってると言うので、頂くことにする。
『あっ!俺、お金ない!』
今まで、支払いを求められたことが無かったから……。
『すぐそこのギルドで換金してくる!肉はいっぱい仕込んどけ!』
ギルドまでダッシュで行きたかったが、トットットット……速足だ。
『すまないが金が無いと肉が食えない!』
俺のギルド到着、第一声だ!
カウンターの受付嬢は、ポカンとした後に首を傾げた。
それを見ていた年配女性が、俺の冒険者証を確認した。
「お金が必要ってことよね?」
年配女性は、受付嬢の横から割り込むようにそう言った。
『おう!どうしたらいい?』
「そこにある掲示板の依頼をこなすか、何か売るかですね」
依頼か売る物か……。
だが、今すぐにお金欲しいおやじが待ってる!
「依頼は薬草採集や魔物討伐などありますよ」
『コイツはどうだ?さっきやっつけたとこだぞ』
「「「キャーー!!」」」
「おいおい。嘘だろ……」
「ワイバーンじゃねえか……」
「なんで狼がワイバーン持ってんだよ」
ワイバーンをアイテムボックスから少し出したところで、悲鳴が上がった。
『討伐はコイツでいいか?』
「ここには出さないでください!」
『コイツじゃダメなのか……』
「良いけどダメです!」
良いけどダメ……どういうこと?
意味が分からない……。
『……なぞなぞ?』
「あなたはFランクなので、Aランク依頼のワイバーン討伐は認められません!」
『おやじが待ってるのにー!』
「魔物の買取りは出来ますよ」
『ワイバーン、どこに出せばいい?』
「あちらで提出してください。大きいので多分裏に回されそうですが、彼の指示に従ってください」
『オッケー!』
提出所のおっさんにやはり裏へと回され、番号札を渡され待機中……待機なんてしてらんない!おやじが待ってる!
俺は知ったんだ報告大事だって!
『ちょっと、おやじに遅くなるって言ってくる!』
速足でおやじの屋台に戻ると、おやじはすぐに俺に気付いた。
「お、遅かったな兄ちゃん」
『すまん!換金に時間掛かってる!もう少し待ってくれ!』
「慌てなくて良いぞ」
冒険者相手に、何十年も商売やってんだとおやじは笑った。
『助かる―。やっぱ肉は焼き立てが一番だからね!』
「そうだな」とおやじは肉の仕込みに戻った。
俺も買い取り待ちに戻ろう。
「お願いします!お願いします!母ちゃんに薬を分けてください!」
必死の懇願が耳に入り、声のする方に向かうと、少年が薬屋のドアから叩き出されているところだった。
「私も意地悪で分けないんじゃない。ツケで渡せるほど安くないんだよ!」
「病名も言わないし、貯えの金も全部出したのに、治らなかったじゃないか!」
「薬なんてそういうものだ」
なかなかの修羅場!
話の内容的に、それは病気じゃないんじゃないかと疑念を抱いた。
『少年よ、母の元へ案内致せ』
最高の威厳を出して、少年に話し掛けた。
「へっ!?赤い狼?」
『我は、赤き神狼のイグニス!』
早く案内しろと急かすと、藁にも縋る思いなんだろう。少年は「付いてきて!」と走り出した。
『町中は走っちゃダメなんだぞ』
「緊急時はいいんだよ!いや、いいんです!」
少年は路地裏を縦横無尽に駆けて行く。
ミリーよりも早い……哀れだな、ミリー……。
「ここです!」
息を弾ませ開けたドアからは、嫌な気配が漂っていた。
(うーーん。これは、瘴気にあてられてるな)
『これは薬では治らんな』
「こんなに、こんなに苦しんでるのに……」
『これは瘴気だから、こうやったら……ほら治った!』
「えっ!?……噓のように体が軽い……」
苦しそうに息をしていた女性は、顔色も赤みがさして良くなっていた。
「神狼様すげえ!!」
ベッドに縋りつき泣いてる少年は振り返った。
「神狼様!ありがとうございました!」
『王城で包んでもらった料理を、少しだけ分けてやる』
少しだけだぞと言って、本当に少しだけ与えた。
母親がよく利用する場所に原因があるはずだと言って、場所を聞きだした。
(瘴気溜まりを知ったら消すのが神狼!それがイグニス!)
『おー、ここかー』
家の裏に共同の井戸があり、その周辺に瘴気が溜まっていた。
こんな瘴気なんて、ちょいちょいちょいだ!
『じゃあな』
緊急時じゃないから、ちゃんとテクテクと冒険者ギルドに戻った。
あの子の家の周りにも野次馬が多かったな。駆けっこって、人を呼び寄せる魔力があるのか……。
***
「い、行ってしまわれた……」
少年の家まで付いてきた野次馬たちは、遠巻きに様子を窺っていた。
「あの狼は神狼と名乗っていたぞ、もしや伝説の神狼フェンリルなのか?」
「どうだろうか。神狼フェンリルと言えば、月の光の如く青銀だと言われているはず」
「いや。何百年に一度、月と太陽に愛された神狼が現れる……」
ということは。本物の神狼フェンリル様なのではと、野次馬たちは盛り上がっていた。
「中から女の声と喜ぶ声が聞こえるぞ」
「まさか……あの手の施しようのないと言われた病を癒したのか?」
「そうだろうな、あの反応ならな。おい!出てくるぞ、隠れろ!」
家裏に潜んでいた者たちは、息を殺して見守っている。
「ん?……井戸で何をするんだ?」
「地面を……引っ搔いた?」
「く、空気が軽くなった……?」
「あ、帰っていくぞ」
井戸には回復した母子が、神狼フェンリルを見送っていた。
「もしかして、あの状態から回復したのか?」
「はい。もう、すっかり良くなったようです」
「しかも、王城の料理までくれたんだ!」
「「「王城……」」」
「良かったら一緒に頂きませんか?」
「そんな俺たちは何もしてあげられなかった……」
「そんなの母ちゃんは気にしてないよ!」
「神狼フェンリルとは力だけではなく、こんな俺たちにまで慈悲をくださるのか……」
その場にいたものたちは感動に胸を震わせた。
「これが王城の料理……」
「「「うますぎる!!」」」
最後まで読んでいただきありがとうございます!
評価やブックマークをいただけると、執筆の大きな励みになります!




