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赤き神狼イグニス、今日も全力!  作者: 石火


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第十五話 赤き神狼と駆けっこ

 石造りの家が多い王都の街を、テクテクと歩いて街門を目指す。


(門で揉めてる女たちがいるな。俺はキャットファイトは好きだぞ!)


 喜び勇んで文字通り首を突っ込む。


「いい加減にしなさいよ!何度言ったら理解しますの?」


「私のことは放っておいてよ!」


「またそんな言い方をして!令嬢として弁えなさい!」


「だって、困ってる人が居るんだから!」


 よく分からないが、野次馬はいじめだと言っているな。


『なあ、お前はこいつをいじめてるのか?』


「ひゃっ!ね、念話!?」


『俺だ!特別で優しさ溢れる神狼イグニスだ!』


「はっ!イグニス様!それは誤解でございますわ」


 少女はシャルと名乗った。


『怒っている理由はなんだ?』


「この方、ミリーが護衛もつけず、一人で街の外へ出るというので止めていたのです」


 少女は無鉄砲な少女に対し心配しているのだろう。

 対してミリーは「私は大丈夫。足には自信がある」と言っている。


『足には自信がある?』


「そうです!足は速いんです!」


『ならば試してやろう。街門を出て、貴族門までがゴールだ』


「分かりました!」


 ミリーはスカートを少しまくり上げて準備をする。


『じゃあ、いくぞ!』


 ミリーは令嬢らしからぬ脚力で貴族門へと向かう。

 イグニスはフッと鼻で笑い、遅れてスタートした。

 野次馬共も一緒になって貴族門へ向かった。結果が気になるのだろう。


「おい、何が始まったんだ?」

「神狼様と令嬢が競争するらしいぞ!」

「なんだって!?」


 令嬢が神狼様に喧嘩を売ったと尾ひれまでついて、いつの間にか大行列になっていた。


(なんでこんなに付いてくるんだ?)


 イグニスは不思議そうにしながらも走る。

 道程の半分も行かずにミリーの速度はみるみるうちに落ちていき、イグニスに追い抜かれた。

 しかも、これ見よがしに力を抜いたステップでだ。


『フッハッハッハ!自信のある足ってどんな足?アハハハハ!ロードランナー以下だな!』


 スタミナがないミリーは、野次馬にも敵わない。

 しかし、諦めることなく走り続けた。


 息も絶え絶えに貴族門に着いたミリーは、拍手で迎えられたが「次は勝ってやる!」と叫んだ。

 負けを悔しがりそれをバネにする。ミリーは強い少女だった。


「ミリーさん。悔しければもっと力を付けなさい。帰りますわよ!」


 シャルは肩で息をするミリーを優しく支え、貴族門を抜けていった。


『お前たちも野次馬はほどほどにな!』


 そう言って去って行くイグニスを見送る野次馬たちは、街門までをトボトボと歩くのだった。




***




「い、行ってしまわれた……」


 貴族門前で佇む多くの者たちは、外に出る予定などなく、その場のノリと勢いで貴族門まで来てしまった。


「なあ、身分証持ってるか?」


「あるわけねえだろ!」


「俺もない!」


「あたしもよ……」


「外に出る予定じゃ無かったもんな」


 どうやら大半の野次馬が身分証は家や宿屋に預けているようで、幾人かの身分証持ちに縋り泣いていた。


「良いことは一つあったぜ!緋色の神狼イグニス様と話したぞ!」

「俺なんて目が合ったんだからな!」

「いやいや、俺なんて匂いを嗅いだぞ!」

「そういや、いやに美味しそうな匂いがしてたな」


「「「してたしてた!」」」


 街門に着くまで野次馬どもは、神狼イグニスの話でもちきりだった。

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